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過去のレコ評(2019-2)

(2019年「SOUND DESIGNER」誌に寄稿)

「瞬間的シックスセンス」あいみょん

圧倒的な支持率の高さ。その理由が知りたいと以前から思っていた。1曲目のコードはA♭/E♭/B♭/Fm/Cmで構成されている。お互いがE♭スケールの中で、5度離れた関係にある。このシンプルさは最近の世界的傾向。そこにGmではなく、スケールアウトしたGが入ることで一気に日本的な湿度が加わる。2曲目はベースが下がっていく、J-POP的なクリシェ進行の山盛り。3,4曲目は循環進行をリフのように用いているが、やはり随所に湿度の高い進行が加わるところが1曲目に近い。これは、彼女がギターで過去の日本の曲をコピーしてきたからなのだろう。極め付けは7曲目。C/Am/F/Gだけで構成されたこの曲は、ギターを弾きながら作曲する彼女の姿をありありとイメージできる。アルバムを聴き終えて、もっと重要なことに気づいた。全てメジャーキーの曲なのだ。だからと言って明るく楽しい歌詞ではない。それこそが今の時代の気分なのだろう。やるせない気持ちの歌詞を明るい曲に乗せるのは、黒人霊歌の伝統。そう、これは今の日本の黒人霊歌なのだ。

「Blank Envelope」Nulbarich

前作と音作りが変わった。絵で言えば、太い筆から細い筆に持ち替えたような変化。グルーブの揺れ(時間)と画面の使い方(空間)のメッシュが、細かくなった。高度な楽器プレイがもたらすリズムのもたり方やハネ具合が、前作より目立っている。そして少ない音数だから可能な、空間系の音の響きのコントロールも冴えている。これらが醸し出す、芳醇な大画面。これらは順調なキャリアがもたらす余裕なのだろう。とは言え、曲の構造はシンプルで力強く、難しい音楽をやろうとはしていない。そこが彼らの良さ。しかし難しいのは、過去に成功した曲作りを踏襲することで「縮小」再生産に陥ること。そう意味では、6曲目のサビの広がりに、次の突破口がある予感がする。これくらい、世界を肯定するようなサビでありながら、「溜めた」リズムのキーボードを組み合わせられるのは彼らしかいない。高域の抜けの良さと腰にくる粘ったグルーブが同居している。その結果得られるのは、疾走感ではなく多幸感。これに12曲目のようなストレートな歌詞が日本語で乗れば最強なのではないか?

「GUITARHTHM VI」布袋寅泰

この前のめりな音像はどこから来るのか。音の隙間、1音1音のエッジ、左右の定位、薄いディレイの奥行き、目の前に貼り付くように位置取るボーカル。色々考えられるが、今回のアルバムの特色は、何と言ってもやはり6曲も書き下ろした森雪之丞の歌詞だ。これほど相性が良い歌詞の理由はどこにあるのだろう。今回に限って言えば、それはSF感だろう。フィリップ・K・ディックにも通じるような世界観。ただ、それは未来を標榜するものではなく、あくまで現代を肯定しているように聞こえる。これに対し、3曲目のいしわたり淳治の歌詞は「不確かな明日」など、前向きさをあからさまに表現している点で平成的だ。そして4曲目の岩里祐穂の歌詞は、そのゴツゴツとした色気故に昭和的、80年代的に響く。こんなコントラストが楽しい。個人的にはコーネリアスをフィーチャーした9曲目がツボだ。ピアノとそのリバース音のイントロの後、ワンコードの中8分で刻まれるシンセリフが小気味良い。最後のリタルダンドの混沌もウィットに富んでいる。アイデンティティの共存が奇跡的だ。

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