2023 J1第1節 サガン鳥栖vs湘南ベルマーレ 雑感

待ち侘びた開幕戦はまさかの惨敗に終わった我らがサガン鳥栖。地獄の2019名古屋戦を想起させるような大量失点に、サポーターもため息をついたのではないでしょうか。

今回はそんな湘南戦を簡単に振り返ります。

鳥栖のビルドアップと湘南のプレッシング


まずは鳥栖のビルドアップについて。

昨シーズン終盤に始まった川井監督の壮大なる実験は、どうやら今季も継続するようです。3バック+2ボランチの5人(パギを入れると6人)だけでビルドアップを完結させようというのが今回の趣旨でした。

鳥栖はパギを入れた4バックを形成し、その前に河原・福田のドイスボランチが構える形。

それに対して湘南は、大橋・町野の2トップが「パギ・山﨑への圧掛け」+「ボランチへのパスコース封鎖」の二つの役割を担当。

大外に開く中野・原田に対してはそれぞれシャドーの小野瀬・平岡がプレッシングをかけます。

この湘南の前線4人による統制の取れたプレッシングに手を焼き、鳥栖はなかなかボールを前に進められません。

また、鳥栖の前に張る5枚に対しては、同じく5バックで5レーンを埋めて対応。シャドーが時折降りてビルドアップに顔を出す際は、左右CBの二人が監視。本田・西川に対して舘・杉岡がマンツー気味についていきます。

そしてアンカーの永木はピッチ全体のサポートのような役割で、人数が足りない場所に入ったり、ボール奪取に加勢したりといった動き。目立たないですが彼もかなり効いていました。

まとめると、ピッチ上では「中野vs小野瀬」「原田vs平岡」「本田vs舘」「西川vs杉岡」「岩崎vs畑」「長沼vs石原」という6つの場所で1対1(マンツーマン)が発生していたと言えます。

チームの狙いは、この1対1の局面で相手を剥がしてボールを前に進めること。

実際はどうだったのかといえば、個の局面は苦戦気味でした。「中野vs小野瀬」「岩崎vs畑」は勝てたシーンもありましたが、「西川vs杉岡」は厳しく、1失点目と4失点目の原因になってしまいました(パス自体がそもそも厳しかったですが)。「長沼vs石原」も勝てたシーンはありませんでしたね。

立ち上がりの失点と鳥栖の狙い


1失点目はボールの奪い合いから、攻撃に転じようというところで西川が杉岡に潰され、綺麗なショートカウンターで崩されました。

ワンタッチでサイドに展開して原田が釣り出されると、PA内で山﨑が町野・大橋の二人を見なければならない状況に。防げたとしたら河原が大橋について行ければ……というところですが、まあ湘南の連携が素晴らしかったので難しいですね。

極論を言えば、西川が杉岡を剥がして前を向ければ、むしろ大チャンスに繋がっていたでしょう。ただ西川は背負う形、対する杉岡は前向きのアタックなのでそもそも不利ではありました。こういう一か八かの勝負に徹したら、それが全て裏目に出てしまったというところでしょうか。

さて、出鼻を挫かれる形になった鳥栖ですが、その後は何度か狙いを持った攻撃を見せます。キーマンは中野・原田で、彼らが平岡・小野瀬のプレッシャーをかわしてボランチ(またはシャドー)にボールを渡すことで、一気に前進することができます。

左の中野はドリブルでの前進を試みていたのに対し、原田はワンタッチのパスで福田に預ける形が多かったです。中野はドリブルで小野瀬を剥がすチャレンジをしましたが、成功率は贔屓目に見て五分といったところでした。もちろん、失敗すれば即、相手のカウンターに繋がります。今季、このポジションに求められるタスクは極めて高度です。

鳥栖はビルドアップ隊の3CB+2CHを低い位置に密集させており、湘南も前線の4枚がかなり近い距離でプレスをかけます。逆に鳥栖の前線は高い位置を取り、湘南の守備陣を押し込む形。したがって、中盤に大きなスペースが空いていました。互いに前と後ろが分断されているような状態ですね。

よって、福田や降りてきた本田がボールを受け取った際には、広大なスペースがあります。それをうまく使いながら攻めたいところでしたが、微妙なトラップミスやパスのズレによって、自らチャンスを逸してしまっていたのが惜しいところでした。この部分はピッチコンディションの影響でもあり、開幕直後の練度の低さでもあり、VARの絡んだ試合展開に対する動揺の表れでもあったでしょう。

とはいえ、そこから1点目(未遂)のFKを獲得できましたので、一応狙った形での攻めは実現できていたのではないでしょうか。

また、何度かクロスからの攻撃にも成功していました。その際、PA内に複数人(可能なら3人以上)が入るというのが徹底されていたので、今季の狙いの一つだと思います。実際、「シュートは打てば終わりだが、クロスは入る選手の数だけチャンスがある」と監督も述べていますしね。

ゴールがオフサイドで取り消しになったかと思えば、相手のゴールがオンサイドで認められたりと、少しツキのなさもありましたが、前半で1点を返せたのは良かったですね。本田の股抜きのパスに岩崎が抜け出し、クロスに小野。左シャドーである本田が右サイドの崩しに関わることで、うまくカオスを生み出すことができました。相手もちゃんと守備についていた状態から崩せたのは収穫ではないでしょうか。

後半のフォーメーション変更の意味とは?

さて、そのまま後半も一進一退の展開が続きます。後半は前半ほどは見どころがありませんでしたが、挙げるとすれば選手交代に伴うフォーメーション変更でしょう。3ー4ー2ー1から4ー1ー2ー3に変更しました。とはいえ、この一挙4人替えを敢行しようとしたタイミングで失点を喫してしまったのもあり、交代の効果がそこまで見られたわけではありません。

4失点目は山崎のやや強引な縦パスを西川が受けたところを杉岡に潰されてからのカウンター。この場面は縦パスを入れるべきであったのか、という点はよく検証したいところ。

さて、選手交代の話に戻ります。強いて言えば狙いは、横山のスピードや樺山のドリブルといった新しい武器を入れることで攻撃のギアを上げつつ、田代を入れてDFラインを厚くしたかったというところでしょう。

3バックから4バックへの変更は、樺山・横山が3バックのワイドには適さないという点と、相手のプレッシングをずらしたいという意図があったようにも思います。まあ、河原や福田が最終ラインに落ちる形(いわゆるミシャ式)と大差ないといえばそうなんですが。

中盤が河原一人になった分、前半以上にIHの本田や西川が降りてきてビルドアップを助ける回数が多くなります。また、最終ラインが厚みを増した分、LSBへとポジションを下げた長沼がフリーになる場面がちらほら。そこからの、左サイドで長沼・本田・横山が絡んだ崩しは少し得点の気配を感じました。

前半の得点シーンも含めて、数的同数の時の崩しも意識としては持っているように感じられます。ただ下げるのではなく、ドリブルで剥がしたり、股抜きのパスを出したり、タイミングをずらして裏をかいたり。このあたりはかなり細かいニュアンスで攻撃を作っているので、ある種選手のアイデアによる部分も大きいでしょうが。

とはいえ5点目が入ると、湘南もそこまでプレスには来ず、ブロックを作って守るようになります。AT3rdまで侵入する回数は増えるも、ゴール前に鍵を掛けられているので流石に得点には至らずタイムアップ。

印象に残った選手

さすがに今回の結果でMVPをあげるわけにはいきませんが、個人的にいいプレーを見せていたと思うのが本田です。彼は得点シーンの崩しにも関わりましたし、幾度かのチャンスはほぼ彼が絡んでいたように思います。前半、ひとつ致命的なミスはありましたが……。

あとは福田ですね。昨シーズン以上にターン性能に磨きがかかっており、チームの構造上の要因もありましたがビルドアップの要となっていました。ゴールが取り消されてしまったのが残念です。

今後の課題


結果から言えば厳しい敗北となってしまったわけですが、狙いとしている部分が全く見えなかったわけでもありません。

なるべく少ない人数でビルドアップを完結させ、その代わりゴール前に多くの人数を割く。前後分断をいとわないリスキーな戦い方ですが、昨シーズンより得点を増やそうと思えばこの方法しかないのもわかります。鳥栖には強烈なFWを連れてくるお金などありませんからね。

そもそも昨年だってある程度点は取れていました。それを越えようと言うのですから難しいに決まっています。

正直なことを言うと、今後しばらくは我慢が続くと思います。2019年のように秩序がないわけではありませんが、挑戦していることのハードルが高すぎてクリアできていないと言うのが実情でしょう。2020年序盤くらいには苦しむ可能性があると思います。

前に人数をかけるということは、そのまま後ろに負担がかかるということでもあり、良くも悪くも大味かつピーキーな展開が増えることが予想されます。大勝の直後に大敗、というような。

似ているとすればミシャ率いる札幌でしょうか。鳥栖のビルドアップはそれ以上にリスクをかけていますが。言うなればミシャ式の亜種。ミシャ式をさらに尖らせたのが今季の鳥栖という印象です。

そもそも降格1枠の特殊シーズンだからこそ、このようなチャレンジができるのでしょうし、こんな特異な試みをしているクラブは鳥栖くらいなので、ガッツリ応援というよりは興味深く見守るというスタンスで当面は行こうかと思ってます。

まあ、チャレンジしすぎて負け癖がついてしまうと、原点回帰したところで取り返しがつかないということにもなりうるので、ほどほどにしてもらいたいですがw

次節はポヤトス新監督を迎えたガンバ大阪との対戦です。鳥栖キラー宇佐美がいると聞くと嫌な予感しかしませんが、湘南ほどプレッシングを強みとしているクラブではなく、監督の戦術もまだ完全には浸透しきっていないでしょうから、湘南戦よりはまだ勝機のある試合だと思います。とはいえ、簡単な相手ではありませんが。

前途多難にも思える航海ですが、まだ始まったばかりです。今はただ進むことしかできません。いつか未知の場所に辿り着けると信じて。

それでは。


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