“木材素材そのものの規格化はどのようにすれば達成できるか”

これまで木材の規格化を困難にしていたのは、生物材料として多様な樹種、同一種にあっても地域による変動、生育場所、生育年数の違いなどの諸因子が輻輳して材質に影響するためである。木材素材の規格化は寸法安定化に他ならないが、この方法として唯一行われてきたのが乾燥である。この乾燥法の主流である蒸気式人工乾燥法(KD法)は水蒸気と熱風を用いた乾燥スケジュールによって、徐々に木材中の水分を抜いていく方法であるが製材後の製品乾燥に用いられてきた。この乾燥法では、木材が生育時に材内に形成した固有応力(成長応力)や水分応力、乾燥応力によって生ずる狂いや割れを乾燥過程で防止することは極めて困難である。これまでは、この人工乾燥の過程で発生した不良材は取り除く方法を取ってきたため乾燥歩留の低下につながっていた。更に、住環境の変化に伴って室内の関係湿度が5%を切るような環境で木材に狂いが生じないようにするため、木材の含水率を予め5%程度の過乾燥にした後気乾含水率に戻すような方法を取っている。
このような処理過程で更なる歩留の低下と過乾燥のための無駄なエネルギーと時間を浪費しなければならない。
木材素材そのものに関する乾燥技術はこの半世紀でほとんど進歩していないと断言してよいだろう。その原因は、木材が成長時に樹体内に形成した固有応力を緩和、除去あるいは均一化するという基本的な問題を解決することなく、対症療法的手段としての乾燥による水分除去という安易な技術を選択し続けたことにある。
木材の組織構造に関する巨視的から微視的な研究、更には組成分の化学構造に関する膨大な研究成果を基に縦断的横断的に推敲すれば、どのように処理をすれば木材の欠点とされる反り、捩れ、割れ等の狂いを取り除き、水分による膨潤、収縮を止め、寸法を安定化させる方法は自ずと見えてくるはずである。
それにもかかわらず、乾燥技術が主流となり、時には蒸煮処理による方法が中心にならざるを得なかったのは一つの技術で以って統一的に、総合的に問題を解決する手段が見つからなかったことと、木材に関する研究が他分野の研究と同様細分化し、部分的になったために総合的、統一的視点から木材の寸法安定化の問題に取組めなかったことが原因であると考えられる。
木材の寸法安定化を実現するためには以下に示す流れが必要であり、これらの流れは一つのプロセスで行われなければならないという点に困難であった。
すなわち;
1. 樹木が生育する過程で樹体を支えるために木部に形成された固有応力(成長応力)を緩和、除去、均一化する。
2. この固有応力を生み出す原因となるセルロース・ミクロフィブリルの構造、更にはこの構造を固定するためのリグニンの軟化
3. リグニンの軟化を誘導する熱の付与
4. リグニンの熱による軟化の適切な条件設定
5. リグニンの熱軟化に伴う流動による固有応力の分散、緩和と材内部の歪の均一化
6. 組成分に存在する水を吸着しやすい構造の改変、すなわち、水酸基(-OH)を水をくっつけない疎水性基(-OR)への置換
7. 水と親和性の強いヘミセルロースの疎水化
8. 熱による水分除去
9. 古来行われてきた「枯らし」の技術は、粘弾性体としての材料特性を経験的に把握し、木材を長期間ストックすることで徐々に内部応力の緩和、均一化を図ってきたが、これを短期間で行う技術を確立しなければならなくなった。この枯らしこそ木材素材の規格化に他ならず、時代のスピードに適合した「人工枯らし」の技術を確立しなければならなくなった。

上記の問題解決に熱化学還元処理(燻煙熱処理)という技術が総合的、統一的に見て最も合理的なものであることは私の30年にわたる研究結果から明らかであるが、未だに社会認知されていない。
この技術が社会認知され、SDGs達成のために一つの重要な手段として林業施策、木材素材産業施策に国家プロジェクトとして取り上げることを提案したい。


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