木の文化の再生に向けてその四    我国の木の文化を振り返ってみよう

人の情緒と調度について
人の情緒は環境と感応し、相互に影響しあいながらその機能を発
達させると共に人の生活環境を形作るものの表現形を豊かに、精緻にしてきたと考えられる。今日の生活文化は、このように形作られたものものによって私たちの固有の文化的表現が形となり定型化し、伝承されてきた上に構築されたのであろう。
この生活文化を形作る諸々のものを見ると、用途によって大きくは二つに分けられると考えられる。一つは生活をするために主として機能面を重視したもので、合理的かつ均質で画一的なものである。 これらのものは日常生活において、普遍的にその利便性を追及したもので消耗すれば更新される。もう一つはものそのものに機能はあるが、私たちの身の回りの道具や日常所用の道具、家具として特別な思い入れをもって作られたもので、機能によって基本形としては定型化されているが、それを作る人によっていろいろのバリエ-ションがあり、また、用いる人の好みによる特別な思い入れが加わるようなものである。私はこれらのものについて、前者を”物系のもの”、後者を”人系のもの”として区別している。両者を厳密に区別することは困難であるが、規格化された工業製品のようなもののほとんどが物系に属し、道具を用いて人の手によって作られたようなものを人系のものに属すると考えればよいのではないだろうか。
人系のものは私たちの生活の中にあって手作りの持つ独特のあたたかみや手触りの良さ、使いやすさ等によって、また、規格化されない個性的なものであるため、個人の愛用品として、さらに芸術品として万人の認めるような普遍的な美しさを持つものの場合のように人の情緒との結び付きの強いものを指す。一般に、調度品は私たちの身近なまわりの道具や日常所用の道具、家具を総称したものである。このようなものは筆者の分類からすれば人系のものに属する。本章の課題に添って、以下の項で紙製および木製の調度品と人の情緒との関わりについて、主に我が国の生活文化の歴史的な発展過程においてまとめてみたい。


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