熱化学還元処理技術による素材機能の商品化

“はじめに”
 今日の我国に見られる一次産業の衰退は、これまで述べた時代背景からすれば当然の帰結であろう。この問題を解決するための方法論はこれまで数多く出されてきたであろうが、現状を見ればその無能ぶりは歴然としている。
一次産業の衰退の中でも林業並びにこれと関連する木材素材産業の衰退振りは群を抜いており、我国政府の半世紀にわたる無策が最も顕著に現れた分野であろう。
敗戦後の我国の経済を支えたのが唯一残った森林資源である。この資源を活用したおかげで今日の繁栄があることを忘れてしまっている。当時は、この恩恵を大切にしようと国策でもって植林を盛んにした。しかし、国策が高度経済成長に切り替えられた途端、本来、永続的に続けられなければならない育林への投資は切り捨てられることになった。
これと平行して我国林業への国家による施策は小手先の補助金バラマキ政策に終始し、林業の活力を殺いでいく一方で安い外材の導入による都市型の木材工業を発展させることで更に追い討ちを掛ける結果となった。
その結果、我国人工林には40億立米の蓄積と年間7000万立米の成長量が増えていくにもかかわらず木材の国内生産量は2004年で年間1570万立米に過ぎない。林野庁は2010年までに年間900万立米の伐採を計画しているが、これは林業の活性化のための施策ではなく、炭酸ガス削減のために既存の人工林を伐採し、新たに植林することに依って京都議定書での義務を遂行することが目的である。それゆえ、林業の活性化に対する施策ではないことに国家予算を消費するのであるから、900万立米にコストパフォーマンスは考慮されない。立米7000円に3000円の補助金を出して、大手の木材加工業者に工業原料として売り払えばよいという施策に過ぎない。2006年度には、70億円の国家予算がつぎ込まれたが、代表的な企業である中国木材が対応できたのは、年間12万立米に過ぎない。恐るべき無策が国策として延々と繰り返されている状況は異常である。その一方で、外材との価格競争に勝ち残るために涙ぐましい努力を続けているが疲弊してしまった木材素材業界を立て直すのは常に目先の収益を求めなければならない民力では困難な状況にある。高度経済成長を指向したことは時代の流れの中で必然であったのであろうが、国家100年の計という大目的なくして小目的のみの達成に力を振り向けてしまったのであろう。補助金の運用の仕方も明確な目的なくして進められたため、毎年3千億円もの無駄が何ら蓄積されることなく消費され続けたと考えられる。
農林水産省の管轄下にある中央競馬会の年間の純利益は4000億円といわれているが、これを林業の活性化に活用できれば我国の山林は蘇る。しかし、この金が何に使われているのか国民には明らかにされていない。
近年、北欧から輸入されるホワイトウッドは高度に規格化され、価格も安いため年間200万立米近く使用されているが、シロアリの食害に弱いことが知られているにもかかわらず多くの住宅に管柱、間柱として使われている。このような劣悪な材が規格化され、安いというだけで安易に使われているのである。
我国木材関連産業の停滞、衰退の要因としてこれまで主に外部要因について述べてきたが、関連業界の内部要因に帰するものの方が大きいところに問題がある。
いずれにしろ、今日の深刻な林業、およびこれに関連した木材素材産業の再生を具体的に進めるためのシステムを構築し、これを維持するためのファンドを如何にして作り出すかが第一であろう。

“我国木材関連産業衰退の内部要因”
 
今日の木材関連産業衰退の原因となるものは外部要因、内部要因が複雑に絡み合っており、問題は複雑であるが、内部要因について要約すると以下のようになるであろう。
1. 明治政府以降、外国からの科学・技術の導入による産業の近代化に取り残され、旧態のままの産業形態が持続した。
2. 大量生産大量消費のシステムに便乗するため、木材の工業原料化を進めたため、素材そのものの相対的価値の下落につながると共に良材の急速な枯渇と低質化による相乗効果によってますます下落することになった。
3. 素材の寸法安定化等規格化の努力がなされず、他の工業製品による代替化が進み市場における素材そのもののシェアーは縮小し続けた。
4. 他材料に対する素材そのものの機能の差別化と機能の商品化への努力を怠った。
5. 住宅産業における時代のニーズに対応するための努力が欠けていた。

以上要約した内部要因は我国の木の文化を構築してきた2000年近くに及ぶ基幹産業としての木材素材産業の重層構造に起因するものであるため、科学技術の導入とこれに伴う工業化という急激な社会変化に対応できなかったのであろう。この重層構造の下で軸組み壁工法という木造建築様式が完成し、これを基本とした各地での多様な建築様式が発達した。これを支えていたのが一連の独自な流通システムと大工・左官の徒弟制度であるが、機械文明の発達とこれに関連した市場経済に徐々に飲み込まれ、上述した内部要因を解決できないまま今日に至ったと考えられる。
この顕著な例が我国の竹産業であろう。この産業は、プラスチック工業の発展とともに軽工業の分野からほとんど姿を消し、資源として利用されなくなった竹林は荒廃のきわみにある。
このような状態に陥った木材素材産業を再生し活性化させるにはどのような方法があるか考えてみたい。

“木材素材産業再生の方途”
 これまで述べてきたことから我国の木材素材産業を再生させるための方法は明確である。
1. 第一に解決すべき問題は、素材そのものの規格化を厳密に行うことである。従来法では乾燥が規格化の唯一の方法であるかのごとく進められてきた。人工乾燥の方法は色々あるが、基本の技術は単なる水分除去である。これでは木材の内部応力を除去し、寸法安定化させるという根本的問題解決にはならない。この半世紀だけを見ても、他産業の技術革新は急速に進んだにもかかわらず、木材素材産業の技術革新は皆無といってよいだろう。同じ天然材料である繊維に関しては、合成繊維とのハイブリッドを含め、次々と新しい技術、新しい素材が開発されてきた。
2. 次に解決すべき問題は、木材素材そのものの材料機能を明確にし、他材料との差別化の中で機能の商品化による絶対的な位置づけと付加価値を高めることである。同じ天然素材である木綿、麻、絹およびウールは人間の五感と整合性のある機能を商品化し、合成繊維との機能分担、更には相互の組み合わせによるハイブリッドの開発で新機能の商品化に成功している。この先例を見ても人間の五感と関わる材料特性を持つものは一時的に工業製品で、あるいは代替品で代用できても最終的にはそれらの材料で代替できないということを理解すべきである。
3. 素材の規格化と平行して各部材の規格化とデザインの規格化が必要となる。住宅資材における工業製品(物系)の規格化は近年著しく進歩したが、木材素材を基にした住宅関連資材(人系)の規格化は合板、集成材、一連のエンジニヤリング・ウッド等工業製品を除いて無きに等しい状態である。
上述したように、1での木材素材の規格化が確立されれば2,3の問題は自ずと解決できる。

つづく

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