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VOl.11 Arlo Parks / Collapsed In Sunbeams

Arlo Parls
Collpased In Sunbeams
(2021)
Transgressive Records

自分は母親がTBSラジオを1日中流しているような家で育ったため、昔からラジオには馴染み深い。朝の森本毅郎スタンバイから始まり、荒川強啓デイキャッチまで、プロ野球中継などは聴いていなかったが、深夜にはニッポン放送を、そしてたまにはFMを嗜むこともあるなど、ラジオには愛着がある。

なので、radikoのサービスには心躍るものがあったが、ラジオ特有の、あの若干ノイズがのるような質感が感じられなく、そのクリア過ぎる音に、ラジオではない何か別物のような気がしており、ちょっと敬遠している節があった。

そんな自分がradikoを積極的に利用するきっかけになったのは、プレミアム会員になることで、地方局の放送も聴けるということを知ったからで、是非とも京都のα-Stationで聴けるというコーネリアスの番組を聴きたくなったから。その番組もアレで打ち切りになってしまったが、色々と探索するとradikoでしか聴けない面白い番組が多くあることを知った。

特に好きになった番組は二つあり、一つは故郷である茨城のFM曲、Lucky FMで聴ける、オズワルドの「Music Countdown 10&10」という番組。なかなかキャッチできていない、洋楽邦楽の売れている曲をまとめて知れるという点で役立っている。それに加えて、オズワルドの語りもとても面白い。これで知ったT'字路sという二人組の音楽にもとても心惹かれるなどの収穫もあった。

そしてもう一つは、福岡のLove FMで放送されている「常盤響のニューレコード」という番組。これは、あの常盤響氏が自宅から持ってきたレコードをかける番組で、常盤響といえば、デザイナーでありながら、元電気のまりんと一緒にやっていたMidnight Bowlersや、トランソニックから出た「Limited Edition Not For Sale」などで音楽活動も一時期活発に行っており、また変わったレコードの収集家というイメージがある。誤解を恐れずに言えば、モンドか。

しかし、この番組でかかるのは基本的には歌物ポップスのレコード。前半は最近仕入れたレコードをかけ、後半は昔のレコード(昔と言っても、70-80年代くらいのものもあり)をかけるという番組内容で、最後は日本のレコードもかかる。期待していた突飛なレコードはかからないが、売れ線ではないようなポップスのレコードが紹介されるのは個人的にとても嬉しい。

前置きが非常に長くなったが、この番組で知ったアーティストが、今回紹介するArlo Parks。

ロンドンのまだ20歳そこそこの歌手なのだが、声がとにかくとても良い。上手い下手はあまりよくわからないが、メランコリーと清涼さの中間のような、鼻が詰まった素晴らしい声の持ち主で、1発で魅了されてしまった。歌い上げるでもなく、囁くでもなく、歌い方に特徴はないのだが、不思議とハマる歌声で、ビョークなどの独特さはないが、自分には何故か心を射抜かれるものがあった。

また、バックトラックもとても自分好みで、ローファイ目のブレイクビーツのようなリズムに、シンセのパッドや、管楽器、ギターの音などが簡単に入るというとてもシンプルな作り。マッシヴアタックやポーティスヘッドのようと言っては言い過ぎだし、近いわけではないのだが自分はそう感じた。

そこに彼女の素晴らしい歌声がのることで、一気に楽曲としての精度が高まり、ボーカリストとしての質の高さがうかがえる。

2019年にSuper Sad GenerationというEPがでており、このアルバムの収録曲がそこそこ多いのでアルバムと思われているようだが、本作が一応ファーストアルバムとしてカウントされている。

LAベースのプロデューサー、Gianluca Buccellatiという人とairbnbに泊まりながら楽曲を仕上げていったらしく、とても落ち着いた、リラックスした作品と言えるかもしれない。

ファーストアルバムながら既にに名盤の空気が漂う素晴らしい作品だと思ってたら、今年のマーキュリープライズはこの作品が大賞であったとのこと。マーキュリーの信憑性はともかく嬉しい限り。

ちなみに、12曲中7曲がシングルリリースされているという最近よくある傾向のリリース形態であり、アルバムという概念は最早ないと言えばない作品でもある。

A-2 Hurt

一曲目は語りのみのトラックなので、実質一曲目はこちら。おぼつかないブレークビーツにシンプルな楽器演奏が心地よく、ゆらゆらと踊りたくなるようなこのアルバムの魅力が詰まった一曲と言えるかもしれない。

A-3 Too Good

気怠さもありながらポップさもありつつ、ファンキーなノリもあるという素晴らしい曲。ベースラインと軽いギターのカッティングと、打ち込みリズムの絡みが素晴らしい。

A-5 Caroline

メランコリー路線の楽曲で、途中に鳴る高いギターのフレーズがとても効いている。このギターの音が聴きたくてこの曲を聴いていると言ってもいいかもしれない。

B-2 Just Go

冒頭から鳴るギターの爽やかなフレーズが心地よく、メロディーもとても明るくてとても自分好み。きっと彼女の売りはメランコリーな曲調なのかもしれないが(実際この曲はシングルにもなっていない)、自分はこの手の音の方が好みではある。晴れた休日向き。

B-4 Eugene

アコギの音がなんとなくボサノボっぽくもあり、軽めのビートがチルアウト感も醸しているナイスなトラック。シングル(というよりは先行配信か)にもなっており、ビデオも作られている。

B-5 Bluish

このアルバムは12曲中、7曲がシングルないしは先行配信されているのだが、この曲も数少ない非シングル曲。跳ねるようなビートがとても面白い。

B-6 Porta 400

カッコ良いブレイクビーツにサンプリングフレーズ、ピアノとストリングスの組み合わせにとても踊らされつつ、彼女の心地よい歌声に浄化されるような、最後の曲に相応しいちょっと尖りを感じるようなトラック。

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普段あまり聴かないタイプの曲ではありますし、ラジオで聴いて、良いと思って買うという流れはとても久しぶりで、とても思い入れの深い作品となりました。ビョークのような変わった個性的な声ではないですが、とても心地の良い唯一無二な歌声の持ち主だと思います。是非とも今時に寄り過ぎず、少しずつトラックのバリエーションが増えていくといいなーと思ったりしました。

いつかは007のOPなどを歌えるような素質があるような気がしております。

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