Vol.12 Bomb The Bass / Into The Dragon
Bomb The Bass
Into The Dragon
(1988)
Rhythm King Records
自分がテクノを聴き始めたのは1993年のことであり、多くの人がよく言及しているように、この年は日本のテクノにとって、それは幸福な時だったらしい。中学3年生で高校受験を控えていた自分はクラブなどには行けなかったのだが、その雰囲気はなんとなく伝わってきていた。
そしてイギリスでセカンド・サマー・オブ・ラブなどと呼ばれ、アシッドハウスなどのクラブシーンが大爆発していたのがこの1988-1989年。その頃の狂騒に関しては、最近発売された「レイブカルチャー -エクスタシー文化とアシッドハウスの物語-」という本に詳しくとても面白かったので是非読んで見て欲しいのだが、その渦中にリリースされたこのアルバムのことは全く知らなかったのだ。
Bomb The Bassという名前は知っており、中心人物であるティム・シムノンという人が多くのミュージシャンにリスペクトされているのも知っていた。
また自分初めて聴いたケミカル・ブラザーズのトラックは、彼らの曲をリミックスしたもので、当時はまだダスト・ブラザーズと名乗っていた頃だと記憶している。オリジナルよりも断然素晴らしいその内容に、ボム・ザ・ベースの名前は心にとどまる事なく、古い音楽くらいにしか思っていなかった。
そんな中、たまたま中古盤屋で見つけたのがこのアルバムなのだが、とにかくジャケットに目を奪われた。超アメコミ調の少年の帽子には、ウォッチメンのバッヂが付いており、あのボム・ザ・ベースがこんなジャケットのアルバムを出しているとは!と興味が湧き購入してみた。余程売れたようで、価格もかなり安かった。
聴いてみたら大当たりで、大味なスクラッチにブレイク・ビーツ、エディット感覚満載のサウンドは初期コールドカットのようでもあり、彼らよりダイナミックなそのサウンドに嬉しい驚きを得た。
これがアシッドハウスシーンで受けたのが謎なくらい、マシーンサウンド的というよりもサンプラーとターンテーブルの嵐のようなサウンドで、ヒップホップの影響の強さを大きく感じた。ニューヨークでもヒップホップとハウスが混ざった時期があったとテイトウワが以前言っていたのがその流れなのだろうか?
アルバム全体は各トラック、ラジオのチューニング音と曲紹介のようなものが入り、それからトラックが流れるという通して聴いてねと言わんばかりの構成。
いずれにせよ、初期アシッドハウス的作品と思っていたボム・ザ・ベースは全くのヒップホップであり、初めて聴いたあの音も方向性転換ではなく、もろな音であったのだなーと妙に納得した。
A1: Beat Dis
元々はこのアルバムのリリース元である、リズム・キング・レコーズのメガミックスを制作するつもりで作ったらしいが、まさにメガミックス的手法で次から次へとボイスサンプルからブレイク、スクラッチ、単音シンセのような音が押し寄せるパーティートラック的な作り。しかし硬めのシンセベースラインが重厚な雰囲気を作っており、ヒップホップとの大きな違いは、このシンセベースかもしれない。
A2: Megablast (Rap Version)
これは完全にヒップホップ。とてもヒップホップマナーなトラックで、1小節のループに時折のスクラッチ、そしてラップもしっかりと載っている。
A3: On the Cut
Lessonシリーズのような矢継ぎ早にサンプルが繰り広げられていく、カットアップ的ヒップホップ。テンポはとても早く、確かにハウスと混ぜるとしっくりくるかもしれない。
A4: Don't Make Me Wait
これはラテンフリースタイルの歌ものポップス。冒頭には日本のラジオ番組での曲紹介のようなものが挟まれるがこれはサンプルなのか、これ用に収録したのかは不明。安全地帯の名前なども出るしサンプルか。激しめのギターなども間奏に弾かれており、本場のラテンフリースタイルだとあまり聴けないスクラッチもふんだんに入っており、強烈なエディットら施されていないが、楽曲としてもよい。
B1: Megablast (Hip Hop on Precinct 13)
これもカットアップ系ヒップホップ。有名サンプルが入りまくり擦りまくりのパーティートラック。
B3: Shake It
アシッドハウス風のトラックがようやく登場。シンプルな四つ打ち909リズムにそれ風のシンセが乗る構成。途中サンプルからブレークビーツに切り替わりまた四つ打ちリズムに戻るなど、凝った作りもしてるが地味と言えば地味なトラック。
B4: Say a Little Prayer
サビに向けて盛り上がる、バラードとも呼べそうなR&B的な曲。純粋にいい曲で、この手の音楽は素人がアイデアだけで作れるのが魅力という捉え方もあるが、この曲を聴くと音楽的な知識や教養がある程度ある人達なのかなという気がしてくる。非常にシンプルではあるが、使われる音色的にも80sポップスの一部として評価されることもありそう。
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アーティスト名を知ってはいても、あまりちゃんと聴いてこなかったアーティストをジャケ買いで買って、挙句内容が最高なのは単純に嬉しくなりました。しかし、かなり長い間レコード屋には通っていますが、この目立つジャケをこれまでに目にすることがなかったのは不思議といえば不思議です。
そして、当時のUKアシッドハウスシーンはこのようにハウスやテクノだけでなくヒップホップもいい具合にまぜってたのだなと思うと、とても幸福なことだなと。日本でも一時期ヒップホップを聴く人などもテクノ界隈には一部ありましたが、やはりテンポの問題か、クラブ上で混ざることは少なかったなと。
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