- 運営しているクリエイター
2024年6月の記事一覧
短篇小説「浮きっ歯」
薄暗いバーのカウンター席で、グラスを掲げた男が見知らぬ女の目の中を覗き込んで言った。
「君の瞳に、乾杯!」
テーブルの上で蝋燭の炎が揺れた。女の心も同じように揺れることを、男はひそかに期待していた。
「ずいぶんと歯の浮くような台詞ね」――女はそう言い返してやりたいところではあったが、正直それどころではなかった。文字どおり、瞳に乾杯をされてしまったからだ。幸いグラスが割れるようなことはなか
薄暗いバーのカウンター席で、グラスを掲げた男が見知らぬ女の目の中を覗き込んで言った。
「君の瞳に、乾杯!」
テーブルの上で蝋燭の炎が揺れた。女の心も同じように揺れることを、男はひそかに期待していた。
「ずいぶんと歯の浮くような台詞ね」――女はそう言い返してやりたいところではあったが、正直それどころではなかった。文字どおり、瞳に乾杯をされてしまったからだ。幸いグラスが割れるようなことはなか