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曲なれば則ち全し

『老子』

●『老子』は、
「曲なれば則ち全し、枉なれば則ち正し」
と語っている。訳せば、次のようになるかもしれない。
「曲がっているからこそ生命を全うすることができる。屈しているからこそ伸びることができる」

●これを「曲全」の思想といい、『老子』の処世哲学をもっとも端的に語っている言葉の一つである。

●『老子』は、直線的な生き方よりも曲線的な生き方をよしとする。 先頭に立つよりも後からついて行く生き方を好む。

●なぜなら、そのほうがふりかかってくる危険を避けることができるし、より安全に目的に達することができるからだ。

●「曲全」は、めめしい敗北主義ではない。弱者がみずからの弱さを逆手に取ることによって、粘り強く逆転をはかろうとする方策である。
 考えようによっては、これほど図太い策略はないといってよい。

●中国人は、一般的に曲線的な考え方や行動を得意としてきた。
 たとえば『孫子』の兵法にも「迂直の計」と呼ばれる計略がある。遠回りしながら、かえって相手よりも早く目的を達する戦略であるが、これなども明らかに『老子』の主張する「曲全」と同じ発想である。

●この点、われわれ日本人は、一発の先制攻撃に期待をかけ、それ押せ、やれ押せと、直線的な行動を得意としてきた。むろん、これにも長所がないではない。だが、問題なのは、途中でエネルギーを使い果たし、肝心の二の矢、三の矢が続かなくなることだ。

●人生は、マラソンレースのようなものである。

●小さいときから全力疾走を強いられたのでは、たちまち息切れを起こしてしまうにちがいない。これでは、逆転力など期待すべくもない。『老子』のいう「曲全」に学んで、力をためる術も身につけたいところだ。

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