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読書感想文、センスの哲学、千葉雅也

初めて読んだ千葉先生の本は勉強の哲学です。今回は本屋でたまたま見つけたセンスの哲学を読みました。
千葉先生の本は、途中でまとめをいれてくれたり、難しい表現を簡単な言葉で言い換えてくれるので読みやすくて好きです。

ちなみに僕は、宮崎駿の「君達はどう生きるか」を楽しめなかったセンスのない人間です。筆者の言葉を借りるなら、センスが無自覚な人間です。
「君達はどう生きるか」は、映画館に観に行きましたが、これはどんな意味なのかと頭を働かせながら2時間険しい顔で鑑賞しました。結局意味なんかわかりませんでした。

センスとは

簡単にまとめると、センスとは、ものごとを直感的に把握する能力だそうです。意味や目的から離れ、だたそれ自体のリズムを楽しむ能力だと。だから、「君達はどう生きるか」も意味なんか考えず、ただ映像、音楽や言葉を楽しめばよかったのです。
本書では、リズムとはなにかが丁寧に説明されていて、センスに無自覚な人間も今後実践していけるような構成になっていると思います。実際の芸術作品を例にし、リズムの把握の一例が紹介されたりもしています。

すでにセンスがある人にとっては何を当たり前のことを長々と書いているのか、と感じるかもしれません。筆者はおそらくセンスがある方だと思いますが、感覚的に当たり前にできていることを、ここまでわかりやすく言語化するのは、本当に大変のことだと思います。僕は、なぜ自分が自転車に乗れるのかを自転車に乗れない人にわかりやすく言葉で説明することはできません。

自分に身近なもののリズム

せっかくなので、自分の生活に近いもののリズムについて考えてみました。
私は趣味で犬の肖像画を色鉛筆で描きます。歴も浅いし、素人の趣味なので芸術と呼べるような代物ではありませんが、家族にプレゼントするととても喜んでくれるので、楽しく描いています。インスタでいろんなアーティストの動物の肖像画を見るのも大好きです。下の絵は、大好きな愛犬の絵です🥰

では、肖像画のリズムは何でしょうか。
一つは、目に浮かんでくる作成風景だと思います。肖像画に実物が近ければ近いほど、長い作成時間が想像され、見えるものがどんどん遠くに離れていきます。
リアルな絵が好きなら写真でいいじゃないかという意見もあるかもしれませんが、やはり違います。
写真は一瞬を切り取りますが、リアリズムは時間的、空間的幅があります。微分的なのが写真で、積分的なのが肖像画と言えるかもしれません。
例えば、あまりに実物に充実な肖像画があり、初めは写真と勘違いしていたとします。でも、それが実は人が描いたものだと気づいた時、作品の見方が一瞬で変わります。そして、作者の技術や、作品にかけた時間などが頭に思い描かれます。

インスタなどで、いろんなアーティストのペット肖像画を見るのですが、僕は少し色鉛筆で描かれた感が残っている方が好きです。少し粗めの紙を使うと紙の材質と色鉛筆の質感が残ります。これは実物との差異ですが、おそらく作者の方があえて残しているものです。なので、この差異は不十分な再現性ではなく、筆者の言葉を借りればヘタウマです。ヘタウマとは、余っているようなズレで、ポジティブな意味です。モデルの完璧な再現をそもそも目標にしてないのです。

文化資本へのアクセス

年齢や属性に捉われず、芸術に触れる機会は設けてあげた方がいいと感じました。
僕は身内に発達障害者がいるので、なにかとそのような属性の人と関わることが多いのですが、どうせ芸術の意味なんかわからないだろうと決め込んでそのような機会を提供していない場合が多いように感じます。
知的障害を伴う発達障害児の家庭には、幼少期をすぎてもアンパンマンしか子供に見させないっといった、無自覚に子供の可能性を制限しているケースが少なからずあると思います。
ですが、そもそも、芸術は意味を理解しないといけないというのが、センスが無自覚な人間のバイアスです。リズムは、知的レベルにかかわらず、誰もが感じ、楽しむことができるものではないでしょうか。

もちろん、今の社会では静かな美術館などに発達障害児を連れていくのは、親御さんにとって簡単なことではないことは理解していますし、批判するつもりもありません。そういう意味でもより寛容な社会になっていってほしいと思っています。

またこれは発達障害者の属性に限ったことではないでしょう。「君達はどう生きるか」も好き嫌いがはっきり分かれているという印象を受けました。文化資本へのアクセスも格差・分断が進んでいるということでしょうか。

リズムを感じやすい分野はひとによって違う

僕はバックパックで20カ国くらい旅したことがあるのですが、目的地はだいたい綺麗な景色がある場所でした。綺麗な景色を見ている時は、意味なんか考えずに、ただ何十分も見続けることができます。どこまでも広がるモンゴルの平原は、何時間でも眺めていられました。
ですが、映画や美術作品をただ眺めるのは苦手です。きっと人ぞれぞれリズムを感じやすい分野があるのでしょう。自分が得意な分野から少しずつセンスを自覚していければいいのではないでしょうか。

もう一回「君たちは生きるか」チャレンジしてみようかな。
芸術について全くの無知なのでいつか時間がある時にまとめて学んでみたいですね。

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