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VRが普及した少し先の未来…ふたりが織りなすのは、まだ名前のない関係『VRおじさんの初恋』

【レビュアー/ミヤザキユウ

新しいメディアが生まれると、そこには新しい関係のかたちが生まれます。

本や漫画の登場で「作者と読者」が生まれたり、アイドルの登場で「ファン」が生まれたり。最近なら「フォロー」という関係のかたちはTwitterなどのSNSの誕生に伴って発生したものかと思います。

そこで考えてみると面白いのが、これから生まれてくる、あるいはもっと浸透してくるであろうメディアからどんな関係のしかたが生まれてくるのかということ。

その一つには「VR」があるんじゃないでしょうか。Oculus Questなどの登場で高性能かつ比較的安価なデバイスが市場に出始めていますが、まだまだ一般的とは言えないかと思います。

『VRおじさんの初恋』は、そんな現実ではまだ浸透しきっていないVRのテクノロジーが、今よりも発展した世界での新しい関係性を描いた作品です。

終わりが近づく世界で「痴女」と出会った「おじさん」

物語は、主人公・ナオキ(中身はおじさん)がとあるVR世界で「痴女」と出会うところから始まります。

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『VRおじさんの初恋』(暴力とも子/一迅社)より引用

『VRおじさんの初恋』の世界ではVRのテクノロジー発達に伴い、さまざまなVR世界が存在します。人は好きにカスタマイズした自分のアバターを通じて、自分の好きな世界で過ごすことができるのです。

VR世界はリゾートのような世界、青春を過ごせる学校、ファンタジー、あるいはアダルトなバーチャルセックス用の世界…などなど多様性に溢れていています。

しかしナオキがいたのは、過疎のあまり、もうすぐサービス終了してしまう世界。特筆すべきところもない地味な場所でした。ナオキは、その世界の終わりを見届けるために1人でこの世界にやってきていたのでした。

そこに突然現れたのが「痴女」ことホナミでした。突然無言でダッシュで寄ってきたり、アバターの露出度が高すぎたりと、怪しすぎるホナミ。

実はVRの初心者で、操作方法がわかっていなかっただけなのですが、静かに過ごす予定だったナオキは妙なやつと会ってしまったと思ったのでした。

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『VRおじさんの初恋』(暴力とも子/一迅社)より引用

名前も知らないけど、出会ってたくさん過ごした2人

終わりかけの世界で一緒に時を過ごしていくなかで、ナオキとホナミの距離は自然と近づいていきます。

VRだけあって、一緒にドライブをしたり、海で泳いだり、といった身体的な体験を伴う思い出が生まれたり、休暇が終わるギリギリまで一緒にいて、過去のトラウマを晒すような会話をしたり。

いつしか2人は、恋人同士のようになります。

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『VRおじさんの初恋』(暴力とも子/一迅社)より引用

それでもナオキもホナミも、お互いの現実での名前も顔も、性別すら知りません。

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『VRおじさんの初恋』(暴力とも子/一迅社)より引用

今でもSNSや掲示板でテキストだけ、音声だけの関係を他人と持っている人はいると思います。でも身体的、精神的に近い(ように感じている)のに、現実の相手のことを何も知らないってことはないんじゃないでしょうか。

物語が進むと、ホナミの現実の姿も明らかになります。そして、ナオキとホナミが現実で出会う時も訪れます。現実での出会いを経て、最終的に2人が落ち着いた関係のかたちは、これから僕らの世界でVRが普及した時にも、どこかにあったらいいなと思える理想的なものでした。

それが『VRおじさんの初恋』。

もしかしたら、こんな話がフィクションじゃなくなる日もそう遠くないかもしれませんね。