反転する日常の意味、9-nine-の新海天ルートについて【悲恋ノート】

※この記事は負けヒロインと当て馬男子を愛してやまない筆者が、失恋についてひたすら語るだけの記事です

先日、『9-nine-』をクリアした

タイムループと異能力というコテコテに使い古された題材の恋愛シミュレーションゲームだが、ループにまつわる主人公の能力と独自のギミックにより、最後まで熱く盛り上がることのできる作品だった。

そんなエロゲーの攻略対象の中に新海天というキャラクターがいる。

彼女は主人公の実妹であり、まさに直球逃げ場なしの近親相姦をするというなかなかに攻めたルートだ。

しかし、原作では第2作にあたるこの実妹のルートは、別の点でも他のヒロインと一線を画している。

ギャルゲーとは、メインヒロインをプレイヤーが好きに決定できるゲームである。それはメインヒロイン級のヒロインが何人もいるということでもあるし、あるルートを選ぶと他のヒロインは負けヒロインになるということでもある。

しかし、他のヒロインが他ルートで負けヒロイン的な振る舞いをするかということ答えは否だ。たいていの場合は主人公のことを好ましくは思っているものの、特に存在感を主張しないサブキャラクターとして描かれる。

つまり、失恋をしてくれないのだ。

筆者は常々、他のルートで他ヒロインの存在感が薄くなることが不満だった。

もちろん、誰もがドロドロの愛憎劇を見たいわけではないので妥当ではあるし、何より本人のルート同様に強い恋愛感情を抱かせてしまえば、メインヒロインの存在を食ってしまう危険性すらある。

だからこそ、他のルートで他のヒロインの失恋を描くことは難しい。

しかし、天ルートは違った。

新海天は主人公にずっと道ならぬ感情を抱いていた。誤った欲求を満たすために、兄の写真を隠し撮りし続けるるほどに。それほどまでに狂おしい愛情を抱いていながら、徹底して喧嘩ばかりの仲良し兄妹という偽りの仮面を被り続けていたのだ。

心が割れそうなほどの覚悟を胸に、彼女は日常を過ごしているというその事実が、彼女のルートで暴露されることになる。

さらに、兄はそんな妹の情熱を知っていつつも見て見ぬふりをしており、そんな日常を守るために家を出て独り暮らしを始めたという事実も同時に暴かれる。

新海兄妹は崩壊した日常を何食わぬ顔で取り繕っているという事実が、全てのルートの日常シーンに重くのしかかっていくことになる。

天は、決して他のルートで存在感を主張しない。なんなら、ほぼ役立たずの賑やかし役でいることの方が多い。

しかし、天はその笑顔の裏で兄を一途に想い続けている

特定のヒロインが強い恋愛感情を抱き続けている作品といえば、WHITE ALBUMが有名だ。他にも恋愛感情を捨てきれなかったヒロインがいざこざを起こすゲームは少なくはない。

だが、血みどろの愛憎劇に至らずとも、ただ他ルートの日常シーンに呪縛をかけていくことでその想いが表現されるのが、天ルートのすごいところだ。

全てのルートで敷き詰められている、一見当たり前のように見える兄妹のふざけたやりとり全てに、この巨大な感情のしこりと許されぬ激情が浸透している。

こうしてプレイヤーは、他ルートで他ヒロインと付き合うことになった時、天の無邪気な笑顔の裏にある果てしない絶望と失恋と向き合わざるを得なくなるのだ。

これがまさに呪いをふりまくと言った言葉の意味である。

昔から想いを寄せている幼馴染のような攻略対象は決して珍しくはない。そのようなヒロインの多くは他ルートではアクションを起こさずに揺れる感情をただ見せて終わることが多い。(それはそれで悪くないが)

だが、新海天は一切揺れる片想いを見せることなく、一度は崩壊した嘘で塗り固められた日常を見せ続けていくことで、全てのシーンに失恋の影を落としていくことに成功した。

明るいコメディ要因と思いきや、とんでもない爆弾だった。

こんなヒロインが色んなエロゲーにいたらいいなと願わずにはいられない。

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