喫茶店の裏側とクリームソーダの真実
ある老舗の喫茶店でアルバイトをしていたことがある。
その店は、雑誌や本でよく紹介され、テレビにも出るくらい有名な、行列のできる純喫茶店だった。
メニューの見映えがよいため、SNS世代の若者であふれかえっていた。(いわゆる写真映え)
「いつかカフェとか喫茶店で働きたい」「カフェ・喫茶店で働く人=おしゃれピープル」と憧れと少々の偏見でアルバイトとして入ったのだが、それが間違いだった。
「一人暮らしをしているから料理ができるだろう」という謎の理由で、
キッチン担当をすることになったのだ。
キッチン担当の朝は早い。開店前に一通り準備をしなければならない。
メニューで使用する材料を(その日に売れるであろう数量を予想して)切ったり、容器に小分けしたり、アイスクリームをすぐ出せるようにあらかじめいくつか形作る作業をしたり。
開店してからも、ひたすら黙々と注文されたメニューを作っていく。
繁忙期や満席になった時のキッチンは大騒ぎだ。注文がひっきりなしに入る。
ただでさえ狭いキッチンに、キッチン担当が3人いても手が回らないほど。
「これわたしがつくります!」
「そっち任せるわ!」
と、声が飛び交う。
まるでバレーボールの試合で自陣にボールが飛んできた時のように即座にポジション(役割)を見極めて、作らねばならない。
スピード勝負である。
でも雑にはできないので、できる範囲でだ。
大人数で来る客を、申し訳ないけど何度も恨んだ。(だってみんなバラバラのメニュー頼むんだもん)
飲食店は大変というのがやってみて初めてわかった。
喫茶店で働いてよかったな〜と思うことは、
アイスクリームディッシャーをうまく使いこなせるようになったのと、クリームソーダが作れるようになったことだ。
アイスクリームディッシャーとは、アイスクリームを丸くすくうための器具で、オタマのようなスプーンのような…あれだ。
クリームソーダの作り方はとてもシンプルだ。
グラスに大きめの氷を3つほどいれ、ソーダをそそぐ。シロップを入れて、アイスクリームをのせる。チェリーを1つのせたら完成だ。
かわいくてきれいなクリームソーダを家で作れるようになったのは、自慢できる。
今後何かの役に立つだろう…と、思っている。
…立ってほしい。
ちなみに、昔ながらの純喫茶のクリームソーダのソーダは緑色のメロンだけでなくピンク色のストロベリーや水色のブルーハワイなど様々な色のものがあったりするが、全部同じ味である。
もう一度言おう。
全部同じ味です。
オレンジ色のクリームソーダを注文した女の子たちから「オレンジ味だ〜!」と言う声が聞こえてきた時、
紫色のクリームソーダを「何味ですか?ブドウですか?」と聞かれた時、
「全部同じです!!!!(泣)」
と何度心で思ったことか。
色は違っても、お祭りの屋台のかき氷と同じである。
人間の味覚というのは不思議なもので、
この味だと言い聞かせると脳?舌?が勝手に勘違いして、本当にその味がする錯覚に陥るようだ。
そんなこんなで、突然外から謎のでかい虫が入ってきたり、倉庫でネズ●が出たり、オーナーとバトッたりと色々とあったが、今ではいい思い出だ。
喫茶店の裏側を知ってしまうと、飲食店で働いている人の苦労がわかる。同情が生まれた。
せめて客としては、いい客でありたいと思う。
世の中の飲食店で働いている方々、お疲れ様です。
皆さんに幸あれ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?