個人的2022年上半期ベストアルバム
早いもので2022年も折り返しなので、上半期よく聴いたアルバムを10枚選びました。(順不同)
柴田聡子 / ぼちぼち銀河
柴田聡子の待望の6枚目のアルバム。自身のバンドセット "柴田聡子inFIRE" の集大成とも言える前作『がんばれ!メロディー』のリリース後は、adieu(上白石萌歌)やRYUTistなどへの楽曲提供などを手掛けるなど、ここ数年、彼女のソングライティングの才能と進化には驚かされてきた。満を持して発表された今作は、そんな期待を裏切らない名曲揃いの1枚だと思う。「あなた」と「わたし」の二人称的な視点で書かれることの多かった前作に対し、今作は一貫して内省的な歌詞が目立ち、コロナ禍の分断や閉塞感を想起させる。しかし単にネガティブなイメージで終わるのではなく、その先にある希望に目を向けているところが良い。いつの日か、どこか遠くへ連れて行ってくれる日を待っているような気がする。
Peach Pit / From 2 to 3
Peach Pitはカナダの4ピース・インディーポップバンド。3枚目となる今作は、Paul McCartneyやGeorge Harrison、Neil Young、Eaglesなどから大きな影響を受けたという60’s〜70’sロック/フォーク・ミュージックをテーマにした作品。軽やかなアコースティックギターに乗せた哀愁あるメロディーラインがとにかく秀逸。聴く場面を選ばないというか、「迷ったらとりあえずPeach Pit聴くか〜」となることが非常に多かった上半期。
Laura day romance / roman candles 憧憬蝋燭
東京のバンド、Laura day romanceの2年ぶり2枚目となるフルアルバム。コロナ禍真っ只中の2020年にリリースされた前作『farewell your town』では、1枚のアルバムを通して "架空の街とその生活" という1つの大きなテーマを描いたのに対し、今作は実に多様な解釈を許すアルバムだと思う。各トラックにそれぞれ原題と副題が並べられていることからもその意図が読み取れる。繰り返し何度も、そしてたまには曲順を入れ替えたりしながら長く聴き続けたいアルバム。
「Sad number」や「fever」のような、メガヒット間違い無しのキラーチューンも持ち合わせておきながら、アルバムではそれらを伏せて、コンセプトを重視し音響的な部分で勝負している点にも、メンバーの文化的な素養の深さと覚悟を感じる。M5「ether 満ちる部屋」はSufjan Stevensの影響を色濃く受けているようにも思える。アナログ欲しい。(2枚買います!)
坂本慎太郎 / 物語のように
勝手にサイケ・ニューウェイブなイメージを持っていたので、6年ぶり4作目となる今作は驚くほどポップで明るく、そして親しみやすい音像に衝撃を受けた。チープなリズムマシンの打ち込みやトロンボーンの音色がよりアルバム全体に脱力感を持たせている。
M3「物語のように」M7「浮き草」でのAYA(Ba)のコーラス、とても良いなあ
Jordana / Face The Wall
米国メリーランド州出身の女性SSW。近年はClairoやSnail Mail、Soccer Mommyといった10代後半〜20代前半の若いベッドルーム・アーティストが注目されるようになってきたが、今作は初のスタジオアルバムということもあり、いわゆるベッドルーム・ポップの枠組みから大きく飛び出し、大胆で派手なエフェクトが目立っている。日本も実力や才能ある若いアーティストに良質な録音環境をどんどん提供してほしいな。
宇多田ヒカル / BADモード
自身8枚目となるオリジナルアルバム。『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』の主題歌としても話題を呼んだ「One Last Kiss」をはじめ、アニメ『不滅のあなたへ』主題歌の「PINK BLOOD」など、2018年以降リリースしてきた傑作シングル曲を詰め込んだ1枚。バラードからR&B、ヒップホップやクラブミュージックと、楽曲の幅広さと洗練されたクオリティに度肝を抜かれる。(というか6歳の息子を育てながらこれだけのアルバム作れるのヤバすぎる…)Netflixでは、今年1月に開催した初の有料配信ライブ『Hikaru Utada Live Sessions from Air Studios』の映像が公開されているのでそれも観てほしい。
Big Thief / Dragon New Warm Mountain I Believe in You
2019年に発売した2枚のアルバム『U.F.O.F.』『Two Hands』をきっかけに、その名を全世界に知られるようになったUSインディーロックバンドの3年ぶりとなるニューアルバム。
収録曲が20曲もあるため一聴するのも大変だったが、Adrianne Lenkerの才能溢れるフォークソングも、バンドメンバーやエンジニアによる奇抜で実験的なサウンドアプローチの楽曲のどちらも素晴らしい。M2「Time Escaping」で鳴っているスティールドラムのような音は、ギターのブリッジに名刺を挟みながらピッキングすることで作った音だそう。対照的にM15「Promise Is A Pendulum」では、Adrianne Lenkerがこの曲を書き上げた時、寝転がった状態でスマートフォンを胸に載せ、その前にギターを据えてその場で録音したボイスメモ音源をそのまま使っているらしい。(おもしれ〜〜)
[INTERVIEW] Big Thief
僕たちはみんなこの“生きている図書館”の一部なんだ
Fuvk / Split Death
テキサス州オースティンで活動するSSW、fuvkとインタラクションデザイナーMostyn Griffithの共作で、スロバキアのポップレーベル Z Tapesから150本限定カセットでリリースした音源。M6「Winter Storm Of '21」はこれまでに無い疾走感のあるインディーロックな雰囲気の曲で、昨年1月にリリースされたアルバム『Imaginary Deadlines』以降の演奏スタイルの変化も感じられる。寝る前によく聴いていました。
Pinegrove / 11:11
2020年の大傑作『Marigold』に続く5枚目のスタジオ・アルバム。録音はリモートもしくはサポートメンバーが分かれてスタジオを訪れながら行われたそうで、それらの音源のミックスはDeath Cab for Cutieの元ギタリストであるChris Wallaが担当。前作はEvan Stephens Hall(Vo)の内面的な部分について描かれていた歌詞が、今作では環境問題や政治的なメッセージへとシフトしている。涙腺を揺さぶるようなメロディーラインは今回も健在。いつか生で演奏を観られる日が来るといいな。
優河 / 言葉のない夜に
OLD DAYS TAILORのメンバーとしても知られる、日本のインディーフォーク女性SSW、優河の4年ぶりの新作アルバム。バンドセット "魔法バンド" のメンバーには、岡田拓郎・谷口雄 (ex. 森は生きている) 、千葉広樹 (蓮沼執太フィル) らが所属しており、特に岡田や谷口は今回のアルバムに収録された10曲中、5曲の作曲に関わっている。また、TBS系ドラマ『妻、小学生になる。』の主題歌として書き下ろされた「灯火」はYouTubeで200万回以上再生されるなど、世間の注目度が一気に高まった作品でもある。(ドラマも良かったぜ、、)
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