見出し画像

02 デジタルターン

紆余曲折がありやっと建築を始めるわけですが、 「この空間気持ちよくないよね」問題といいますか、「いい空間って何だろうね」問題というか、母校の京都工芸繊維大学に限らない話だと思いますが、大学の建築教育では、学校を設計しろみたいな課題が課されて毎週か隔週くらいのペースで図面と模型を先生に評価していただくシステムなのですが、建築の設計の良し悪しの判断は概ね評価する建築実務者の先生方の判断にに委ねられます。そこが割と暗黙知というか、例えば建築はちゃんと作らなければダメだという先生に見ていただくと、OMAのような奇抜な建物を設計してみると、「でもクライアントの人はこれに金ださないと思うけどなあ、」と、内心ではえ~それいっちゃうます~?と混乱したり、一方で、デザインに優れた設計をされる先生のエスキースで設計を手堅く作りすぎると、「うーん、やりたいことは分かるし凄くよくできてるんだけどもう少し自分が何を作りたいが考えてみたら?」のようなアドバイスをいただきこの前OMAみたいに作ったらお金が下りないといわれたのですが、、、と思ったり、 余談ですが、熱い方ですと「君のこの先ずっとそんな設計を妥協するような人生でいいの?こんなのは建築にすらなってないよ」、と設計以前の生き方の戒めを頂いたりもします。( これらは実際はもっと穏やかな表現ですし、ロジカルで親身な建築の先生方も沢山学校にいらっしゃいます! )、 でも、こういった定性的な判断を下す場面というのは教育の場に限らない話です。一方で、デザイン経営工学過程で経営者側の考え方にも触れて、不動産価値の算定はdcf法でwaccが~という側の定量的プロセスを思いだすと、 空間の良さとは?みたいな曖昧な指標で、意思決定するのもどういうものかな、と当時の自分は思っていたのでした。定量的な意思決定と建築家的な直観はどこで交わるのだろう、それか敢えて断絶させたままの方がスムーズなのだろうか。学校で課題をこなしていても疑問が晴れる様子は無かったので、よい建築デザインを分かるために建築コンペをやってみようということに。 なので学部の間は、学校から課せられる課題を粛々とこなす傍ら、全国規模の建築設計デザインコンペティションでひたすら腕試しをしていました。
やっていて結果的に得るもののあったように思います。 最初1年間は出せども出せども佳作にすら入れず自慢のアイデアがなぜ響かないのか猛省していましたが、どうやら良いデザインとはアイデアの良い悪いじゃなく、良いデザインは共通してモノのナラティブ(物語)=コンテンツを生み、そして健全なコミュニケーションの工夫によって=メディア、アイデアを伝搬させる、それが総じて上手いヤツが勝つというか。プロセス全体として、少ない限られた提案書枚数でアイデアをアピールするという構造かつ競合が多様にいるレッドオーシャン状態という前提の中で相手との対話を引き出すような情報提供側から技が大切になってくるのかと。 例えばキャッチーなコンセプトでお、なんだこいつは、と驚きを喚起させてみたり、コントラスト強めの迫力レンダリングイメージで本能レベルで目を引いてみたり、文章では起承転結を用意して、(建築的に言えば、か、かた、かたちの論) 左脳で読んでくださった方にも満足感も提供するある種のおもてなしを考えること含め、情報をいかに相手に気持ちよく伝えるかということかと。コンペにも慣れてきて一等とか獲れるようになってテンションが上がったりするのも束の間、自分の中で疑問が生じ始めていました。コンペを続けた先に何があるんだろうか。大局的な視点に立ってみれば、コンペとは企業にとってはCSRで、新製品のアイデア開発で、ある時は優秀な人材を囲い込むプールである側面も少なからず併せ持っており、多くの学生も薄々そのこと自体はご了承していてある企業への就職目的に建築のコンペ実績を重ねるということもある。 自分のコンペ動機は、主にデザインとはなにぞ?という疑問を明らかにしたかったという根底があって、ついでに海外旅行するためのお金を欲しかったというのはありますが、確かにデザイン提案と審査員の方々の反応を通して、良いデザインの形、みたいなものは多分感覚として掴めてきた感はありましたが、以前として明確な体系化をできずにいました。その時代で良いデザインと評価されるものが社会にとっても良い、ではないことはあり得ますし(例えばデンマークのオルボーグのコープヒンメルブラウンの建物は、ポストモダン代表する建築としてよく考慮されたデザインだけれども、当初の市の予算の10倍以上超過した噂物件でもある。)、良いデザイン、良い空間とされるモノと定量的な評価が接続されず断絶されたままだと、どちらか片方の論が暴走するリスク、良いデザインだけど役に立たないしコスト高いとか、性能はいいしマーケ的に完璧だけど誰も興味もってくれないとか起こりえるし、あんまり目指すべき未来ではないよなあと考えていました。

画像1

↑建築学科に入って雑誌とか海外の事例を見ながら良いデザインてこうですか?とか思いながら試行錯誤するKIT建築学生ライフ。

画像2

↑コンペの受賞会場。今思うと良かったのは外向的じゃない自分のようなタイプでも同世代の熱のある人達に会える機会になったことかもしれない

そんな頃合いに、確か最初は、藤村龍至さんのインタビュー本で、松川研究室のセクションがあり、そこでは住宅の設計をプログラムで自動設計する取り組みについて紹介されていました。正直何がどうして建物が自動生成できるのか意味が分からなかったですが、痺れました。このくらいの時期にBIG Ideasで働いていた人の話を伺う機会も丁度あって海外コンペで連勝するBIGの特徴的な形態操作の裏を支えるクールでセクシーなcomputational技術の活用の背景が見えてくるに従って、デジタル技術の建築産業への浸透は好むと好まざるにかかわらず長期的なグローバルトレンドとして確実に進行していくだろうと思うようになり、自分の価値観の中でデジタルターン(デジタル革命)が到来していました。これなら良い空間というモノを定量的に表現できるんじゃなかろうかと。その時はまだGrasshopperを使ったことがなく周りにデジタルに詳しい人がいなかったのでテキストやオンラインの教材をあさりながら独学で身につけようとしました。 1か月程お世話になったNoiz ArchitectsでComputational Desginを社会実装する人達の働き方とモノの考え方はそれまで全く触れたことが無い文化でした。ロボットとかゲームエンジン等の新技術をプロセスに取り入れることにチャレンジングで、建築畑の人達なのに反応拡散系のパターン生成が~、とか、ここはGANを使って~、みたいな一体どこでそんな他分野の知識と技術を身に着けてきたのかと 。 

そんなこんなでComputational Designを自分の設計に対しても取り入れていくに従って課題も見えてきました。 何のためにデジタルするの?というそもそもの話というか、遺伝的アルゴリズムでも、Deep Learningでも、プロジェクトでこういう手法を使う時、そこには結果を評価するためのフレームワークがあって機械の反復計算で結果は目的関数に対して最適化されていきます。 結局の大枠のフレームワークは人間が設定するものでオートメーション化というのは聞こえはいいけれどもコンピュータで全ての課題を最適化しようと頑張るのは逆に効率が良くない考え方のように思えてきたのです。 例えば”良いオフィス”を自動作成するとして、階段、エレベーターからデスクまでの距離を最小化するような レイアウトを考えるとすれば、オフィスを利用する人の肉体疲労を最小化する点では最適解ですが、オフィス内のコミュニケーション量を最大化しようという目標を加えた場合、廊下の幅を広げて敢えて動線を長くとった方が人がたむろできる場所が増えて会話溢れる職場になるかもしれない。話がややこしくなるのはそもそも”良いオフィス”という問題設定を定量的に表現することが難しいからです。今回は距離とコミュニケーションの話だけだけど、実際は光、風、熱的な快適度、視線の抜け感とかあるし、こうなってくると変数がたくさんある連立方程式を解く話になるんだろうけど、どれだけの項を不可分に考慮すれば”良いオフィス”に十分に近似できて、どの項にどういった定数を掛けたら実際の満足度に近い結果がでるのか、というところの計算前に式を組み立てる過程は人が調整してる。人間というフィジカルな生き物が住む社会でのルールに対しての目的変数の設定は、廊下を長くするといった一見合理的でないパラメーター設定を導入する発想の転換が必要とされる時もあるかもということで、ロジカルシンキングで息詰まったコンサル会社がデザインファームを買収し始めた時に抱えていたであろう同じような課題が見えてくるわけです。そう思うと、皮肉なことに、デジタルターンが来た後も私が建築学科に入って最初に思った「いい空間とは何か」問題が再燃してくるのです。私たちの社会は どういう目的 変数の元に最適化されるべきなのか、そういう目線での体系立ては無いものなのか。

なんだか見えなくなってきたなぁと思っていた頃に、トビタテ奨学金が決まり、デンマーク王立芸術アカデミー(KADK)へ留学する機会を得ることができました。京都工芸繊維大学のいいところを挙げろ、と言われたら交換留学の協定校が豊富なことと自分は思っているのですが、留学に際して色んな国のプログラムを見ていて、KADKのArchitecture and Extrem Environment プログラムが目に留まりました。

画像3

↑お世話になった場所。匂いの感じとかまだ覚えてる

次回からデンマークの話!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?