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【中国経済】新興EVメーカー「蔚小理」の躍進 「中国版トヨタ」は誕生するか


僕が初めてEVに乗ったのは6年前。中国・北京で、テスラでした。ハンドル前のディスプレイが巨大なiPadのようでまず目を引かれ、運転時の揺れがゼロだったことにも驚きでした。それ以降、東京に暮らし始めてからは一度も乗っていません。

昨今、トヨタがようやく重い腰を上げEVに力を入れるようになりましたが、すでにEVが身近なものになったお隣中国では、どのような現地勢力が生まれ、どのように受け止めてられているのでしょうか。

今回は許可を得て、中国語記事を翻訳してみました。ちょっと話が「盛られて」いる感は否めませんが、せめて雰囲気だけでも伝わればと思います。


中国版トヨタは生まれるか?

中国の新興自動車製造企業、蔚来汽車、小鵬汽車、理想汽車3社の月間販売台数がそれぞれ1万台を超えた。設立から5〜6年、最初に車を発売してからわずか3〜4年であるにも関わらず。

第3四半期の決算で、3社の営業収入は倍増以上に。販売台数はそれぞれ10,878台、15,613台、13,285台に達した。特に蔚来の販売台数は(訳者注:前期比で)197%と一番の急成長を見せた。

過去を振り返ると、民間企業として鳴り物入りで登場した吉利汽車は、最初の3年間は合計で2万4千台しか売れなかった。 今の国内の民間自動車製造企業の勢力は、昔とは比べ物にならない。

蔚来など3社はまだ赤字だが、粗利率と納入量の増加を背景に赤字幅は大幅に縮小している。その中でも、ONEシリーズの販売価格の引き上げにより、理想汽車の純損失は2150万元まで縮小した。

売上総利益率(粗利益率)がプラスに転じることは、健全なビジネスの重要な指標で、蔚来は「売れば売るほど赤字になる」という心配をすることなく、袖を開いて仕事に励むことができる。「蔚小理」(訳者注:頭文字3つを繋げた呼び方)の3社が技術や新工場建設で激しく競争していることを考えると、黒字化の達成は「もし」ではなく、「誰が一番で誰が最後か」の問題と言ってよい。

グローバルな視点から蔚小理やBYDに代表される中国の新興自動車メーカーを見てみましょう。メードインチャイナがどのような歴史的プロセスにあり、日韓が歩んだ道を登っていく可能性はどれくらい大きいのか、世界的な自動車メーカーが生み出せるのかどうか、そして自動車産業を席巻することはあるのかーーー。

まず結論から言います。可能性は大きい。では、我々の具体的な分析を見ていきましょう。

蔚小理の台頭は天の時、地の利、人の和

(訳者注:天の地、地の利、人の和は、中国の思想家である孟子の言葉であり、これら3つがあってこそ大事が成し遂げられるという意味。)

中国の新興自動車メーカーの台頭は決して偶然ではなく、天の時、地の利、人の和の全てが揃っているからだ。

タイミングは、世界的に自動車がガソリンから電気にシフトしている真っ只中。EVはわが国の石油資源依存を解消できるエネルギーソリューションであると同時に、国の持続可能な開発戦略と呼応していて環境面でも一石二鳥と言える。そこで、ダブル補助金やグリーンプレートといった優遇政策のもとに、変化の嵐の匂いを嗅ぎつけた若い起業家たちが、強力な技術者集団となってゲームに参入してきた。

こんな風にして、新しい自動車メーカーの「人の和」が揃いました。 需要面では、中国の自動車市場はまだ飽和にはほど遠い状況にある。

未来智庫の資料によると、2018年の中国の人口1000人あたりの自動車保有台数は173台にとどまり、米国の664台とは大きな開きがあります。 同シンクタンクは、中国の自動車保有台数のピークは5億〜5億5千万台で、それが2050年頃にやってくると予測している。

特に、Z世代が徐々に自動車購入の主力になることは注目に値する。彼ら彼女らはネットに囲まれて育ったので、ユーザー体験やデザインを重視する蔚小理に好感を持ちやすく、これら新興メーカーにとっては成長の機会となる。

供給面では、国内新勢力の革新力は過去最高水準に達している。 新エネルギー車(NEV)の核心である「三電」(訳者注:バッテリー、モーター、電子制御)に関しては、蔚小理もBYDも、バッテリー部品と管理システム、および車両のスマート化に研究の重点を置いている。

蔚来を例に取ると、南京に電気駆動システムとバッテリーの製造を専門とする先進技術製造センター(XPT)を建設し、現在、世界最大級の「三電」製造拠点の一つとなっている。同工場のモーター、ギアボックス、電気制御システムが組み込まれたEDS電気駆動システムは蔚来の独自開発で、同社のES6はまさにこのフロント永久磁石+リア誘導モーターの構成を採用し、最大トルク725Nmの動力を実現し、高いモジュール性と効率性を実現している。

「バッテリー」の頂点にあるBYDも例外ではありません。

現在、新エネルギーバッテリーには、三元系リチウムとリン酸鉄リチウムの2種類があり、前者は低温耐性に優れ、航続距離が長い、後者は高温耐性に優れ、安全性が高いという特徴がある。BYDが自社開発した「ブレードバッテリー」は、リン酸鉄リチウムの技術を用い、構造革新により、EVの航続距離を向上させたのみならず、高エネルギー密度の三元系リチウム電池と同程度の性能を実現した。

BYDは自社で使うのみならず、他の海外ブランド向けに輸出しており、やや大雑把な例えとして言えば、電池技術は新エネルギー車(NEV)時代の「インテル、入ってる」に相当する。

ユーザー体験、コア技術、起業家的な冒険心、エンジニアカルチャーという4つの要素が、新しい中国の自動車メーカーに集約されている。

中国国産新勢力 vs 日韓オールドマネー


中国の新興自動車メーカーの産業実践を見ると、中国のメーカーは、ガソリンから電気へ、製造・組立から積極的な技術革新への歴史的転換が可能であり、中国ですっかり定着している現代やトヨタに代表される日韓のオールドマネーと対決し始めることも可能だ、と分かる。

現在、日韓自動車産業の希望であるトヨタと現代自動車の販売全体が低迷している。2020年の現代自動車グループの世界販売台数は、前年比11.8%減の635万851台。トヨタの2020年度の世界販売台数は、前年度比5.1%減の992万台だった。 特に、中国での現代自動車のシェアは大幅に低下し、10年前と比べると現代は中国市場で見かけにくくなった。

具体的に車種を比較すると、さらに心強い。

オーナーズガイドのモデル別販売台数ランキングでは、日産「軒逸」とトヨタ「カムリ」が依然として上位を維持している。 ファミリーカーの「カムリ」の11月の販売台数は26,121台を、蔚小理の中で販売が最も好調な小鵬汽車は、11月に全ての車種を足して計15,613台を販売し、カムリとの差は徐々に縮まっている。2022年か2023年にはカムリを追い抜くと予想されている。

これまで英米独日韓が独占してきた国内のファミリーカーランキングでも、中国製テスラを除いた自主開発ブランド4車種がトップ10入りを果たした。

日本や韓国の自動車メーカーは、遅れていた国や遅れていた産業が後から追い越していく典型なので、その台頭の歴史からは、中国の自動車産業の法則や将来の潜在力を垣間見ることができる。

輸出、それこそが日韓オールドマネーが世界に進出するきっかけとなった

まずはデータを見てみましょう。1970年、日本の自動車産業全体の生産台数は528万台で、そのうち輸出が21%を占めていた。 韓国の自動車産業も1990年代に台頭してからは同じように輸出路線に打って出て、総生産台数130万台のうち34万台を輸出し、特に現代自動車は約23%を海外に輸出していた。

この膨大な輸出台数の背景には、ジョー・スタッドウェル著のHow Asia Works: Success and Failure in the World's Most Dynamic Region(訳者注:日本語未翻訳)が示唆した「北東アジアと東南アジアの経済発展トレンド」の表出が関係する。スタッドウェル は、日韓に代表される東アジアが、東南アジアより経済的に優れている要因として、農業における家族的で仔細な実践、輸出志向の製造業戦略の作成、そして両者に奉仕する金融に対しての適当な規制の3点を挙げていた。

輸出志向の製造業戦略は、日本や韓国の自動車産業を勃興させた大きな理由の一つだ。当時、日韓両政府は期せずして自動車会社に「輸出指令」を出していた。日本では、輸出実績に応じて企業が税制優遇を受けることができた。 韓国では、企業が受ける銀行融資は、輸出実績によって決まっていた。

輸出というと、往々にして「やれるものならやってみろ」という意味を含み、国民からお金を稼ぐのは本当の意味での能力ではなく、能力があるのであれば世界の人々から稼いでみよ、ということで、そうすることで、自分たちの車を世界の厳しい競争の場に立たせて戦わせ、それで初めて何が足りないのか、どこを補えばいいのか分かるようになる。厳しい実力主義と相まって、輸出は日韓の自動車メーカーが製品開発力を高める最大のインセンティブになっている。

輸出こそがある国の自動車産業の実力を測る最強のリトマス紙と言える。

いま中国の自動車メーカーが、当時の日本や韓国の自動車メーカーに劣らず、海外に出ることを意識していることは喜ばしいことだ。

蔚来と小鵬はすでに海外で経験を積んでおり、最初の進出先としてノルウェーを選んだ。小鵬は去年から2年連続でノルウェーにEVのG3を100台輸出し、今年10月には蔚来がノルウェーでのES8発売と納車開始を発表している。同国では、顧客サービスを活用するためにNIO APPとNIO HOUSEの提供も開始した。

自動車の海外進出はもちろんのこと、車の基幹部品も暇を持て余していない。 例えば、来年にはBYDがテスラやトヨタに「ブレードバッテリー」を供給するという報道があるし、BYDのブラジルやメキシコなど中南米への海外展開においては、自動車とバッテリーのダブル進出が期待されている。

このことは、「オールドマネーの道を歩み、オールドマネーに逃げ場をなくさせる」と表現できる。

自主革新の道を歩む

輸出の裏には、やりたいかやりたくないかだけでなく、できるかどうかの問題がある。実際に重要なのは、自動車産業の中核となる研究開発力だ。

理由は簡単。ドイツ車やアメリカ車と世界で競争するためには、製品技術が他より優れているか、他より安いか、そのどちらかでなければならないからだ。

前者はコアとなる研究開発能力、後者はコスト管理能力が試金石となる。その両方が揃えば、世界に通用する自動車会社にならないということはないだろう。

自主性を重視するのは、中国の自動車産業が長い間、受動的だったから。表面的には、合弁モデルで国内消費者から簡単にお金を稼ぎ、自動車の価格は外国製より2割高く(路峰著『走向自主创新:寻求中国力量的源泉(自主革新へ:中国パワーの源泉を探る)』より引用)、中国自動車産業の利益を確保し、業界は一見大きくなったように見えるが、各界からは「大きいけど強くない」と長年にわたって批判されてきた。

理由は簡単。

日本や韓国の自動車産業が直面する厳しい輸出規律とは異なり、中国の自動車製造業は長い間、海外進出の圧力とは無縁だった。巨大な国内市場のおかげで、優秀なOEMである限り、輸入税を高くして輸入車を締め出せば、国内市場のパイを分け合って安心して儲けることができるのに、わざわざ研究開発のリスクを負う必要がどこにあっただろうか?

「図面のネジが間違っていることを証明する十分な証拠があっても、外国側は部品の修正を許してくれない」と、呂峰教授がインタビューした自動車技術者は語っていた。合弁モデルでは、独自イノベーションを起こす可能性はほとんどない。

気づけば無駄にした時間はもう30年に達しようとしている。その間、中国の消費者は高い代償を支払ったが、依然として温室の中にいる「共和国の長男たち」を育てられていない。

温室効果ガス対策で、伝統的な自動車メーカーは不活性化した。しかし、今日の激しい競争環境は、テスラの猛烈な攻勢を前にしても蔚小理をめげず立ち向かわせ、売上を急増させ、世界を舞台に対決する勇気を持たせた。

当初の温室を作る戦略とは異なり、中国は猛獣テスラを投入し、ナマズ役を買って出たのだ。 同時に、補助金やライセンス、合肥などの地方政府による投資や土地・工場の提供、さらにはサプライチェーン形成の支援など、さまざまな産業政策が登場した。

蔚小理のような独立系ブランドがあってこそ、上流での発言権を獲得し、下流の裾野サプライチェーンを支えることができる。そうして、電池技術からチップ技術、車両システム、レーザーレーダー、自動運転機能まで、この長い国内裾野メーカーが台頭する機会を得て、ようやく「国内代替」が実現されるのだ。

中国の新興自動車メーカーの新エネルギー車路線は、世界トップクラスのプレイヤーの誕生に直結している。中国の自動車サプライチェーンが強固になるにつれ、そのように信じられるようになるだろう。

現在の蔚小理は、販売台数では1960年の日産やトヨタにほぼ匹敵している。それ以降の60年という年月は遠く感じられるが、自主研究開発の道をしっかりと歩みさえすれば、先人の深い蓄積の肩に乗って前進するチャンスはある。蔚小理の海外進出は、その良い予兆だ。

中国自動車産業の時代が到来しようとしている。

原文:周天财经 中国有可能诞生自己的丰田现代吗?作者白雪 https://mp.weixin.qq.com/s/t4HCiziCKyNoml5A6FwDpw


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