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成長するコミック市場、進む電子化

出版の市場規模は1兆6742億円(2021年) 【グラフ】

出版科学研究所の「日本の出版統計」によると、2021年の出版物の販売金額は1兆6742億円です。1996年にピーク(2兆6564億円)を迎えましたが、そこから減少傾向が続いていました。しかし、2010年代終わりに底を打ち、増加に転じています。

電子書籍が出版市場を牽引

電子書籍の販売金額は、2021年の出版市場全体の27.8%を占めています。販売金額は前年から18.6%増加しています。紙の書籍や雑誌の販売金額がほぼ横ばいなので、電子書籍が出版市場の成長を支えていることがわかります。電子書籍の販売金額のうち9割を占める電子コミックスが出版市場の成長を牽引していると言えます。

紙の書籍や雑誌が前年と同程度の販売金額を維持しているので、必ずしも単純に紙が電子に置き換わったわけではなさそうです。今後、電子書籍(特にコミックス)による読書習慣が広がるにつれ、出版市場全体の成長も期待できるでしょう。

コミック市場は出版物全体の4割(6759億円) 【グラフ】

2021年のコミックス(コミックス+コミック誌+電子コミック)の市場規模6759億円で、過去最大となっています。前年から10%拡大していて、出版市場の40%を占めています(ここまでとは思いませんでした)。

急成長する電子コミックス市場、いまや6割

電子コミックスの販売金額が紙のコミックスを追い越したのは2017年のことでした。その後も増え続け、2021年には前年比で20%増加し、4000億円を超えるまで成長しました。いまではコミックス市場の約6割を電子コミックスが占めています。

コミック雑誌市場は3年連続10%超の縮小

電子コミックスの好調さに比べ、コミック雑誌はますます売れなくなっています。雑誌の2021年の市場規模は558億円でした。

コミックス(紙+電子)の販売金額は雑誌の11倍もあることから、雑誌で作家を育ててヒット作を生み出し、コミックスで儲けるというビジネスモデルは健在ということなのでしょう。ただ、土台となるコミック雑誌市場が縮小し続ければ、読者数が減ることで、このビジネスモデルがうまく機能し続けるかはわかりません。

少女・女性向けマンガ雑誌の市場規模は、少年・青年誌の1/5 

2023年11月の日版の店頭売上前年比調査(対象店舗:日販取引書店におけるPOS調査店)をもとに、紙の少女マンガ誌の市場規模をみてみましょう。「雑誌コミック」カテゴリーのうち、少女・女性はマンガ雑誌市場の約15%、少年・青年は84%を占めています。少年・青年は、少女・女性の5倍以上の市場規模があります。単純に言えるものではないですが、読者数もかなりの差があります。

出所)「2022 年 11 月期 店頭売上前年比調査」(日販)

2021年のコミック雑誌の市場が558億円(上述)だったので、単純にあてはめると、少女・女性向けのコミック雑誌の市場は80億円程度と推定できます。

読者の減少が止まらない少女マンガ誌の現在

日本雑誌協会の印刷証明付部数を見ると、少女・女性向けマンガ雑誌の雑誌別の1号あたりの発行部数は次のグラフのようになります。22誌の合計部数は89万部。第1位はちゃお(16.3万部)、第2位はりぼん(13.6万部)、第3位はLaLa(6.4万部)でした。


出所)印刷証明付部数(日本雑誌協会)

少女・女性マンガ雑誌の発行部数(22誌)は、この3年間で38%も減っています。読者の1/3以上が消えたということになります。長期的に見ると、2013年からの9年間で市場が1/3にまで小さくなってしまったことがわかります。

出所)印刷証明付部数(日本雑誌協会)

雑誌別に見ると、発行部数第1位の「ちゃお」の部数の減り方が凄まじいです。一時期、「ちゃお」が一人勝ちのような状態だったので、その反動なのかもしれません。一方、部数を減らしているものの、落ち込みが最も少ないのが「りぼん」です。ただ、「りぼん」も一時期250万部を誇ったといいますから、隔世の感があります。減少率を見ると、小学館の「Sho-Comi」や「ベツコミ」、集英社の「マーガレット」、「ザマーガレット」の減り方が大きいです。これらの雑誌は、発行部数も多くないので、苦戦を強いられていると言えるでしょう。

出所)印刷証明付部数(日本雑誌協会)

アプリによるプロモーションに力を入れる出版社

読者が紙の雑誌を買わなくなり、電子書籍でコミックスを読む習慣が広がっているので、出版社は電子書籍アプリやWeb配信を強化しています。出版社系の電子書籍アプリには、集英社のマンガmee、講談社のPalcy、白泉社のマンガParkなどがあります。これは、コミック出版分野ではデジタルマーケティングが主戦場になりつつあるといえます。アプリで毎日、気軽に、無料で読んでもらうことによって、紙の雑誌を買わなくなった読者に、もう一度マンガを読む習慣をつけてもらって、電子コミックの販売につなげようとしているのだと思われます。電子コミックの伸びを考えると、当然の戦略と言えます。

ヒット作や新人作家もアプリから

今もヒット作は紙の雑誌から生まれることが多いですが、最近はアプリやWebサイトに掲載されるオリジナル作品も増えていて、雑誌が果たしていた機能をアプリが一部代替するようになってきています。象徴的だったのが、「このマンガがすごい! 2023」のオンナ編のベスト10の半数が、アプリやWebサイトに掲載されたものでした。今後ますますこの傾向は強まると思います。
※「このマンガがすごい!WEB」 https://konomanga.jp/special/145771-2

おわりに

今回は、少女マンガ出版事業がビジネス的にどうなっているのかを、数字をもとに考えてみました。電子化の流れは止まらないと思うので、少女マンガの描き方、売り方、読み方もどんどん変わっていくのでしょう。私はこの流れに身を任せながら、これからも少女マンガを読んでいこうと思っています。

少女マンガについておしゃべりする場所がどこにも見当たらないので、無人の荒野となったmixiで「少女マンガについて語りませんか」コミュニティを運営しています(無謀)。よかったら遊びに来てください。
https://mixi.jp/view_community.pl?id=6374937

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