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足関節捻挫をすると腓骨が前方に移動する?

今回は足関節捻挫と腓骨の位置異常について考えていきたいと思います。
治療院やスポーツ現場で一番多く出会う疾患かもしれません。

足関節捻挫といえば前距腓靭帯や踵腓靭帯の損傷が第一に考えられますが、足関節捻挫後に腓骨の位置異常が起こっているかもしれないというのを前提に考えられた治療法があります。

MWM(Mobilizations with Movement)と言われるものでマリガンさんが考案したテクニックです。
マリガンコンセプトと呼ばれるものですね!
詳しく勉強したい方はこの本おすすめです📕

簡単に説明すると…
関節を正しい位置に誘導してその場所で運動する事で痛みや可動域を改善させる徒手療法です。

このMWMテクニックの中で、足関節捻挫をした際に腓骨が前方に移動する事があるので、前方移動した腓骨を後上方に誘導した状態で内反方向への運動を患者にしてもらうというテクニックがあります。

文字で説明されてもどういう事かわからないと思うので記事の後半に実際の徒手療法とテーピングの動画もシェアしておきますので是非見てください👀

今回の論文で多く出てくるCAI(Chronic Ankle Instability)というのは慢性足関節不安定症と言われ、足関節内がえし捻挫の後遺症と呼ばれるものです!

足関節内反捻挫の際に、足部全体に回外(内反)方向の力が加われば多少なりとも腓骨は前方に移動しそう…な感じはあります。

という訳で足関節捻挫やCAIと腓骨の位置異常は関係しているのか論文を探してみました📖

論文①

腓骨は、片側性 CAI の被験者の脛骨に対して有意に前方に配置されていました。反復的な足首の不安定性発作が腓骨前方の位置を引き起こしたのか、 それともより前方の位置が損傷の素因となったのかは不明です。(1)

1)Hubbard TJ, Hertel J, Sherbondy P. Fibular position in individuals with self-reported chronic ankle instability. J Orthop Sports Phys Ther. 2006 Jan;36(1):3-9.

確かに。片側にCAIがある人では腓骨の前方移動はありそうだけど…
①CAIになった→足関節不安定になる→腓骨の前方移動が発生
②個体要因として腓骨の前方移動が存在→足関節捻挫を繰り返しやすい要因になっている
①と②のどちらなのかは不明って感じですね。
個体要因として(人によって)腓骨の幅や長さが違うと思うし、その人の体重やシューズ、生活パターンによってもアライメント異常は引き起こされそうな感じがあるからこれだけではなんとも言えません。


論文②

脛骨幅を正規化すると、健康な足関節を持つ人々と比較して、CAI を持つ人々の腓骨の位置に有意差が見られました。
結論として、健康な対照と比較して、脛骨に対して腓骨遠位が前方に配置されていることがCAI患者で観察されました。この腓骨の位置の違いは、CAI の一部の症例で、痛みや機能障害の持続と再発に寄与する可能性があります。(2)

2)Weerasekara I, Osmotherly PG, Snodgrass S, Tessier J, Rivett DA. Is the fibula positioned anteriorly in weight-bearing in individuals with chronic ankle instability? A case control study. J Man Manip Ther. 2021 Jun;29(3):168-175. doi: 10.1080/10669817.2020.1844852. Epub 2020 Nov 13.

こういう研究を見ると「じゃあCAIや足関節捻挫では腓骨を後方に移動させるような徒手療法をすれば良いんだな!」という風に思いたくなってしまうけれど、一部の症例でという事を忘れずに目の前の患者さんやクライアントの状態に合わせて、使えるものを選択していくべきですね👀


論文③

前脛腓靭帯および/または骨間膜への潜行性損傷は、足関節外側捻挫の一部の患者に関与している可能性があります。
CAI を伴う足首の腓骨は、遠位 10 cm から外果までのすべての基準点で、対側の健康な足首の腓骨よりも有意に外側 (0.57 ~ 0.68 mm) に位置していました。健康な足関節とCAIの足関節の間に、腓骨の前後の位置の有意差はありませんでした。
本研究で検出された差の大きさは小さいもの (0.57 ~ 0.68 mm) でしたが、効果の大きさは中程度でした。体重負荷が遠位脛腓関節を引き離す傾向のある力を生成することを考慮すると、体重負荷条件ではより大きな差が検出される可能性があります。(3)

3)Kobayashi T, Suzuki E, Yamazaki N, Suzukawa M, Akaike A, Shimizu K, Gamada K. Fibular malalignment in individuals with chronic ankle instability. J Orthop Sports Phys Ther. 2014 Nov;44(11):872-8.

前後の位置に有意差なしという結果で前方への移動ではなく外側への腓骨の移動が見られたと言う事でした。
この研究で言う前後の位置に有意差なしというのは…
「前後の位置に差があったとしても、その差がCAIが引き起こした腓骨の移動なのか、個体差が原因の腓骨の移動なのかはわかりませんね〜」と言う様なイメージです。
この研究は、非荷重の状態でCT画像を撮影して位置を比べているのですが、本文にもあるように体重負荷がかかると、より大きな腓骨の移動が確認できそうですね👀

また前半部分にあるように『痛み』として事象が確認できていないだけで、前脛腓靭帯の損傷や下腿骨幹膜の潜行性損傷があるのかもしれないですね。
現場で働いているATの方からも「足関節捻挫って思っているよりも前脛腓靭帯の損傷まで伴っている事が多いよ〜」って話聞いたことがあったので非常に面白い文献でした👏

👀読んだ感想

確かに「CAIによって腓骨の前方への移動は起きる」と断言はできませんがCAIの患者に腓骨の位置異常が起きている可能性はありそうでした。
現場でこの部分を特異的に評価するのは難しいと思いますが、あるかもしれないという気持ちで評価をしたりリハビリテーションを組み立てていくことは大切かもしれないですね。

✋徒手療法

この動画が実際の徒手療法とテーピングになります!

✂️テーピング

Figure1(4)

💭最後に

僕も足関節捻挫に遭遇することが多いので、この徒手療法を使うことがあります。

最初は…
「いやいや腓骨を後方に誘導して足を動かしてもらうだけで、痛みがなくなって歩けるようになるのか〜?」
と半信半疑な気持ちだったのですが、足をつくのも痛かった選手が、普通にスタスタ歩けるようになるケースが何度もありました!

このような状況を前にすると「痛みがないから復帰できる」と多くの選手は思いますが、痛みがなくなったからと言って靭帯の組織的な治癒が起きたとは言えません。
『痛みがない≠治った』

痛みが減ったり、消失するような治療をするのであれば、選手にも患者さんにも、この部分は丁寧に説明し理解してもらうべきだと思っています。

また、腫脹や靭帯の組織的な損傷に対しては適切な圧迫やoptimal loading、超音波などの物理療法なども併用しながら、このテクニックが使われるべきだと思います。

実際にテクニックを使った後にテーピングを貼ったところ『1日中、普通に歩けました!』という声もあったのですが…
『このテーピングの強度で活動中の腓骨の前方移動を防げるのか?』と言う疑問はあります。
感覚的な部分や心理的に安心というのもありそうですね。

変化が大きく出るような徒手療法は自分を大きく見せることも出来るので、すぐに使いたくなってしまいますが…
『本当に使う必要があるのか?』
『使うにあたってメリットがデメリットを上回っているのか?』
などなど一度立ち止まって様々なことを考慮した上で適切なテクニックを選択できるのがプロフェッショナルだと思いました💭

最後まで読んで頂きありがとうございます🙏

REFERENCE


1)Hubbard TJ, Hertel J, Sherbondy P. Fibular position in individuals with self-reported chronic ankle instability. J Orthop Sports Phys Ther. 2006 Jan;36(1):3-9.

2)Weerasekara I, Osmotherly PG, Snodgrass S, Tessier J, Rivett DA. Is the fibula positioned anteriorly in weight-bearing in individuals with chronic ankle instability? A case control study. J Man Manip Ther. 2021 Jun;29(3):168-175. doi: 10.1080/10669817.2020.1844852. Epub 2020 Nov 13.

3)Kobayashi T, Suzuki E, Yamazaki N, Suzukawa M, Akaike A, Shimizu K, Gamada K. Fibular malalignment in individuals with chronic ankle instability. J Orthop Sports Phys Ther. 2014 Nov;44(11):872-8.

4)May, James M. et al. “Patient Outcomes Utilizing the Mulligan Concept of Mobilization With Movement to Treat Intercollegiate Patients Diagnosed With Lateral Ankle Sprain: An a Priori Case Series.” Journal of sport rehabilitation 26 6 (2017): 486-496 .

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