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スターターのこと

サワードゥとは、狭い意味では粉と水だけで起こしたパン種のこと、広い意味ではこの種を使って焼いたパンのことまでを含める。サワードゥのパン作りではイーストも果物も使わずに、粉に水を加え一定の温度をキープして、粉にくっついている酵母を起こし、パンを焼いていく。このとき一番最初に起こす種のことをスターター、サワー種、ルヴァン種、ルヴァン等と呼ぶ。

スターターの起こし方にはいろいろなやり方があり、これが正解、というものはない。小麦粉にくっついている酵母だけではなく、キッチンの壁や空気中に漂う酵母たちも取り込まれているので、同じ起こし方をしたとしても、出来上がるスターターはその時々の酵母たちの顔ぶれによって変わってしまう。

古代メソポタミアの農家の庭先の壺の中スペルト小麦。そこに軒先からぽちょんぽちょんと雨水が滴ること数日。ほんのりいい感じに「発酵してしまった」小麦に気づいた家人が捨てるにはもったいないと、ためしに焼いて食べてみたらいつもよりずっと食べやすくおいしかった。おそらくそんなことがサワードゥのスターターのスターター、だったのではないか。そんなことを考えながら、スターターの瓶の底をのぞきこんで香りを確かめる。

よくスターターに名前をつけてかいがいしくお世話をしている人を見かける。日本の糠床と同じく海外でも「何年モノ」なのかをちょっと自慢したりする文化があるそうだ。ちなみに今私が使っているスターターは3年半くらい。まだまだ若輩者である。

スターターを起こすときに気をつけていることは3つだけ。どれもとてもシンプルで人間にも心地いいこと。サワードゥのパン作りはエシカルでもある。

▪️3つのポイント

① 未精製
スターターを起こすときは、小麦粉の表面にくっついている酵母を目覚めさせて使うので、真っ白に精製された粉ではなく、未精製の全粒粉、できれば無農薬のものを使うとよい。欲を言えば挽きたて、それもゆっくり挽かれた粉がいい。ゆっくり挽かれた粉は高温に晒されていないので、酵母もたくさんついているし、ミネラルやアミノ酸や酵素がたくさん含まれており、スターターの味になんとも言えない深みを醸し出してくれる。

② 新鮮な空気
酵母は底の方にいるので、表面の空気に触れている生地をはぎとって少量の種を残し、そこに新しい粉と水を継ぎ足すようにしてよく攪拌し培養していく。この作業をリフレッシュ、かけ継ぎと呼ぶ。せっかくぷくぷくしてきた種をごっそりはぎとるのはなかなか抵抗があるが、少ない酵母に多くのエサをあたえたほうが効率よく酵母数を増やすことができる

ちなみに、リフレッシュ時にはぎとった捨て種(ディスカード)はスコーンにしたりシナモンロールにしたりバナナブレッドにしたりクラッカーにしたりピザにしたりと、おいしく食べるレシピがたくさんあるので絶対に捨てないように。最初は面倒に感じるリフレッシュも、捨て種の「副産物」はどれも風味豊かで抜群においしいので、いずれそっち目的でいそいそとリフレッシュに励むようになる。

③ 一定の温度
四季のはっきりした日本のキッチンでは1年を通して同じ温度を保つのはなかなか厳しい。人間が季節の変わり目に体調を崩しやすくなるのと同じように、酵母も暑くなったり寒くなったりする環境は苦手だ。

酵母にとってもっとも快適な気温は、これも人間と同じくだいたい20℃から27℃くらいまで。厳密な温度管理は不要だが20℃を下回ると酵母の働きはすこぶる悪くなるし、30℃を超えるようだと余計な酸味が出たりゆるくなりすぎたりしてよくない。

なお、適当な温度の場所が見つからないときはヨーグルトメーカーを使うとよい。ネットで2000円くらいから購入できて塩麹や甘酒などの発酵食品も手軽に作ることができる。

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