「人を殺してはいけない理由」を改めて考える

※おことわり
この記事は、純粋な倫理の問いとその周辺の事項について考えるものであり、特定の事件や実在の人物を指摘・誹謗中傷する目的で書いたものではありません。

直感的、しかしどこか引っかかる問い

 「なぜ人を殺してはいけないのか?」という問い。直感的な部分では「いけないこと」と確信しているし、実際に人を殺すつもりなんて全くないのに、どこか引っかかるところがある。死刑を受け入れる覚悟があれば、何をしてもいいのだろうか?

"人を殺してはいけない理由"

 教科書的な説明をするならば、「社会を維持するためのルールに背むことになるため、他人を殺してはいけない」ということになろう。社会を維持するためには、「他人の嫌がることをしてはいけない」というルールを、社会の構成員すべてが遵守する必要がある。そのルールに背いた構成員に対しては、処罰が課される。

 他人の嫌がることを全くしないというのは、普通に生きている限り不可能である。程度の問題である。悪意なく他人のものを使っちゃったり、なんの気なしに秘密をばらしてしまったりするのは社会的に認容される程度のものだろうが、相手の物を盗ったり、プライバシーを侵害したりしてはいけない。暴行したり、監禁したりしたら、窃盗やプライバシー侵害よりも重い処罰を受けることになるだろう。他人の嫌がることの最たる例は、その相手を殺してしまうことであり、最も重い処罰を受けることになる。


 ではこの説明は、今にも犯罪を犯そうとしている人間を止めるのに役立つだろうか。渋谷に向かう車両のなか、決意を決めた顔でナイフを手にするひ弱そうな少年と二人きり、あなたはどんな言葉を口にするだろうか。

社会に生きているということ

 自分が100日後に確実に死ぬと分かった場合、あなたは何を考えるだろうか。もし私がそんな状況に陥ったとき、穏やかな気持ちで死を待つことができるか正直わからない。程度の差こそあれ、何かしてしまうかもしれない。

あなたは、恐ろしいウイルスを名も知らぬ誰かからうつされたことがわかった。同じような宣告を受けたほかの人間はもれなく宣告から101日目に死んでいった、そんな恐ろしいウイルスだ。あなたも同様に、101日目に突然容態が急変して死ぬことがはっきりしている。どう頑張っても102日目を迎えられる可能性はない。最悪の宣告にメンタルはボロボロだが、身体を確かめてみるとどこも変わったところはなく、むしろコンディションは良いくらいである。宣告の日から23回目の夕方を迎えた。

 ニュースでは毎日、殺人事件が起きたとか、自動車事故で大学生が死んだとか、誰かの大不幸をわけもなく報道している。そして、誰がどこで死んだなんて、三日もすれば九割九分忘れている。死んだ人に思いを馳せることは痛みを伴う行動であるから、いつの日からか何も見ていなかったかのように行動するようになってしまった。

 自分が死んでも、社会は何も変わらない。100m先のマンションに住む人にとってさえ、アリやハエが死ぬのとなんら変わらない。むしろ、地域の野良猫が車に轢かれて死んだときのほうが動揺するかもしれない。これは残酷なことだ。

薄氷たる人生

 いま現在は(幸運なことに)健康に生きられている人のうち、何%の人間が幸せな死を迎えることができるだろうか?いくら医学が進歩しているとはいえ、いくら早期発見で助かる病気が増えたとはいえ、運悪くひどい病気にかかってしまったら・ひどい事件に巻き込まれてしまったら。今まで考えていた人生設計がもろくも崩れ去ってしまうだろう。

 SNSの発展のせいか、他人の行動が手にとるように分かる時代になってしまった。SNSで発信する人の多くは、自らの美しい部分のみが映るように投稿をする。我々は必要以上に自分のことを卑下してしまいがちである。人間のレベルなんて大して変わらないにも関わらず、自分はなんて劣った人間なんだと勘違いしてしまう。

 人生は災難だらけなのに、自分の目の前には前途洋々たる道が広がっているように勘違いしている。

生まれながらの勝者

 法律によって行動を規定できる相手は、同じ社会で生きていきたいと思っている人だけだ。この前提条件を満たさない相手に対して、法律は無力だ。

 社会から放擲される人が居てはならない。自分の死を心から悲しんでくれる人が、誰しも居なくてはならないと思う。人間の価値とか勘定とかそういうのではなく、我々ひとりひとりは生まれながらにして素晴らしい存在なのだ。父が精子は死屍累々たる生存競争を勝ち抜いて母の卵子にたどり着いたのだ。それだけで素晴らしいことだ。我々は強く、生まれながらにして勝者なのだ。

 我々が歩む将来において、超自然的なものはなにも存在しない。ただ自分と他者と、物理法則とがあるのみだ。誰のせいでもないし、誰のおかげでもない。ただ時間が止まることなく流れていくだけ、それが世界なのだ。困ったらとりあえず30秒腹式呼吸をしよう。

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