寒いねっていえること
今日も散歩に、空気を感じに、空を見に、宇宙に近づきに行こうということだ。
自分のポケットに入れたカイロをお花が咲いたみたいに開かれた手に渡した。
昨日と同じ噴水の横のベンチに腰を下ろした。
水は出ていない、音もしない噴水。
しばらくの間座りながら
昨日と同じように空を見上げながら、
空間に抱かれた。
たまにする取り留めもない会話も愛おしく、
そして沈黙、静寂が何よりも私は愛おしく感じる。
とくに言葉を介さなくても、空間を介して私たちは愛し合っていた。心を通わせ合っていた。
私だけがこう思っているのか、
いや間違いなくふたりともそうであったと私は信じる。
その後私たちは、昼間明るい時間に見つけた見晴らしのよさそうな外付け階段へ登ってみることに。
しかし、6,7階まであるうちの3階あたりまでのぼったところで、鍵のかかった扉に通せんぼされてしまった。
屋上までいけると思っていたのに。
ちょっとがっかりしたけど、こういうのも冒険をしているみたいで楽しい。
そのあと別の建物を探しに歩いてみることにした。
すぐ近くにあった建物から、いつもなら誰も気にしない階段が私たちに存在感を見せつけた。
階段は結構高いところまである。
見上げるとそこは屋上だ。
さっきみたいに扉に通せんぼされているんだろうなとも思いつつ、
少しのドキドキを胸に登ることにした。
前を行く私、
まだいけると伝えると、嬉しそうな顔がみえた。
予想以上に上まできた。
上り続けた。
とうとう、登る階段の上に次の階段がなく、
そこは夜空が広がっていた。
屋上まで来たんだ。
先に上に上がった私は、
街の方を指さす。
そして微笑みながら手招きしていた。
はやく見てほしい。と。
屋上へつながる最後の平面にカラーコーンが置いてあった。
こういう物理的な「ダメですよ」の印には私は弱い。
誰かがつくった“意味”を無視するのが怖いんだ。
まぁここまでかと思いつつ、階段の最上段に腰を下ろして街を見下ろし、空を見上げた。ここでも十分うつくしくて、たまらなくうれしさが溢れてくる空間だった。
先へ行こうと言われた。、
臆病な私の心は、
わくわくと、喜び、期待に満ちたその目と声に、心が体よりも先に引っ張られた。
自分でもあの時、あのバーを越えた瞬間何を考えていたのか覚えてないけど、
ただ、宇宙に足を踏み入れたような、いきたかった場所に、ようやく着いたような感覚だったのは覚えている。
屋上から見渡す空は誰にも、
なにも、遮るものはなく、ただ上も横も永遠に広かった。
空を見れば、まるで私たちは昨日の今日で出会いたてみたいに、夜空の星たちに向けてあなたは〜座の星だっけ?と存在を確認し合った。
もう仲間入りだ。私たちのいる屋上は宇宙といっても何らおかしくないだろう。
星たちは私たちのために決まった待ち合わせ場所にいてくれている。
私たちがどこにいようと、私たちが迷わないようにいつもそこにいてくれる。
同じ仲間でも私たちだけは彼らに特別扱いしてもらっているんだ。
屋上から地上を見下ろすと感じるその感覚は、
私がよく翔んで見る夢みたいな高さだった。
ただ、いつもはあんまりいい気持ちでその高さから下を見ていなかった。
だから今日最初、ちょっと夢にいるみたいな高さから下を見るのが怖かった。
だけど、今日は夢じゃない。
ただそこにいたいからそこから見ている。
その感覚だけだった。
見下ろした先に何があるかよりも、見ていることに喜びを感じていたのがいつもの夢と違うところだった。
その後屋上の縁に腰を下ろし、
風になり、世界をぐるりと見渡し、宇宙まで昇った。
その時の静寂がいつまでも続けばいいと思った。
そこでは言葉なんてそんなに必要なかった。
空間を介して心から愛し合っていた。
そう信じている。
私たちはこんなことを考えてわくわくした。
今日みているものは、ひとつを私たち二人で半分こしてるんじゃない。
きっと私たち二人がそれぞれ見たことで二倍になって、それを半分づつ併せて一つを2つ分作っているんだと。
宇宙を授かったんじゃない。ふたりで創ったんだ。
帰り際、こう言われた。
ここに入っちゃいけませんよのこのバリケードはこっちからみたら向こうに行っちゃいけませんだよね、と
都合が良すぎて笑った。
もう、そうに決まってるよ。
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