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何事もなく回る回る
月も雲もひとつもなくても、
それでも空に向かって歌う毎日。
僕はそれで空が微笑んでくれる気がして
その時間が好きだった。
それだけだった。
でもある日僕は突然に声に力がなくなって、
声を出すだけで咳が止まらなくなった。
歌いたい。あのワンフレーズだけでも、
と思ったとしても、
その短い1小節ですら気持ちよく歌えない。
だんだんと咳の回数が増えるたび、喉の奥で血の味がした。
それはまるで僕の震わせていた空気のゆとりを無くし、
潰していく重い重い鉄の塊のような味にも感じた。
外で吸う空気は冷たくて、
それがいつもよりも怖かった。
かといって言葉を言葉にして、音を音にすることから離れる気持ちはすぐにはなく、
むしろ僕の言葉と頭に浮かぶメロディは今まで以上に止まらなかった。
きっともがいていたんだと思う。
でも、ある時僕は血を吐いた。
し を綴っていた紙が赤黒く滲んだ。
その時ふと思ってしまった。
僕は本当に歌っていたんだろうか。
僕の声は僕にしか聞こえていなかったのかな。
本当は空なんて無くて。
よく考えたら僕らは、
僕らの肉眼で鏡を通じて以上の形で自分の目をじっと見つめられない。取り出さない限り。
それと同じで僕は自分の声も純粋な空気だけを震わした音として、聴くことはできずに死んでいくんだ。
いつもこの骨が邪魔をしていた。
だとしたら、僕一人の声が出せなくなることなんて、
何の意味もないだろう。
空も、誰も聞いてこなかったものが、
ただただ誰も聞いてない状態で閉じられるだけだ。
何も変わらないだろう。
もっと大きな規模で動いていた僕を取り巻く世界なんてなおのことだ。
誰も見向きもしないだろう。
アリが待つ横断歩道のために止まってくれる車はない。
ましてや、勇気をだして進んだとて轢き殺され、
世界はそれにすら気づかず、太陽を沈めるだろう。
何かしたいけどなにもできない。
体調が苦しいわけでもない。
何かしなければと思っても、
もう声が出せないなら、ただこの布団が気持ちいいんだ。
どうせだったら寝て夢の中に生きたいけど眠くもない。
不安だ。
安心感に包まれていたい。
やりたいことは山ほどあった。
諦めているはずなのに、受け入れているはずなのに、
これ以上もう失うのが怖くなって、
無意識に居心地のいいとこにいようとした。
あの人に会いたい。温かい空に会いたい。
あって抱き絞めてほしい。お願いだ。
そしたら今日はもう満たされるかなと思い、祈った。
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