原告記(仮)#66 「20220620*大阪地裁判決」

2022年6月20日、
「結婚の自由をすべての人に」訴訟
大阪地裁判決を傍聴した。

昨年3月17日の札幌地裁。りょーすけさんと私が原告として違憲判決を聞いたあの瞬間、そこに至るまでの日々を思い巡らせながら、傍聴席で開廷の時間を待った。
りょーすけさんの隣には山縣さん、村木さん…長く活動してきた2人の姿は心強い。

法廷の真ん中を分ける柵越しに、関西訴訟の弁護団、原告の川田中家(川田さん・田中さん)の2人、テレサさん・麻智さんカップルの横顔が視界にあった、が…あまり見つめられるのも嫌かなとか、よく考えればそんなことないのに…みんなを直視出来なかった。

14:00 開廷
着席した裁判長が、おもむろにメガネをかけた仕草がなぜか印象に残っている。
まず主文が読み上げられた。
『原告の請求を棄却する』
札幌のときと同じ始まりだった。
でもここから、裁判長の口から"違憲"という言葉が出ればいいのだ。

1年前、画期的とも言われた札幌地裁の違憲判決。閉廷後すぐ、裁判所の正面玄関前で行われた囲み取材で私は、その喜びを「一生忘れない」とコメントしている。
でも"一生忘れない"のはそれだけではなかった。いまも時々まざまざと思い出せる。
"違憲"の言葉が出るまで…まるで時間の感覚がなかった。

▷札幌地裁、
武部裁判長の口から棄却が告げられた瞬間にまず感じたことは─。
こんなにもあっけなく、たった一文で決まってしまうのか…
棄却でも、判決文のなかで"違憲"と出れば実質的勝訴と事前に聞いていたにも拘らず、一気に突き落とされた。
いま過ぎていくこの時間は巻き戻せない、つまり、どうにもならない。
ついていけない頭のままで、それでも次々と判決文が読み上げられていく。
無抵抗のまま斬りつけられているような苦しさ、それでも、武部裁判長の声に集中するしかなかった。
一語一句を噛みしめるような武部裁判長の語り口は、やっと最後に発せられた"違憲"の言葉と等しく、前半においても有無を言わせぬ説得力があった。
無力感と絶望、押し潰されるような感覚はいまも忘れない。

▶大阪地裁、
最初、良い話もいくつか出てきたなかで"違憲"の言葉が出ることの期待をもった、たぶん誰もが─。
でも途中からチグハグな印象になっていった。そこに連動していたのか、裁判長の動作が気になった。言い間違え、手元の判決文の用紙をめくるときのぎこちなさ、そして後半、明らかに早口になっていた。
見ていて不安になった…判決文の内容以前に、この人は大丈夫なのか。
合憲判決。
最後、かけていたメガネを外す動作も、平静を保っている風の演出じみて見えた。
この裁判長は早くうちに帰りたいのかなと感じた。

▷札幌地裁判決の場において、
一つの謎が残っている。
武部裁判長が違憲の内容にかかる前の一瞬、言葉をつまらせた。一部報道で「泣いた」と出ていたが、決して泣いてはいない。
その理由を多くは、これまで日本でそうなかった違憲判決を出すことのプレッシャー、或いはその熱意があらわれたものなのか、そう推測するむきがほとんどだった。

いや、もしかしたら…
大阪地裁判決を傍聴してから、ふと気がついた。
武部裁判長は、"違憲"に触れる判決文の後半ではなく、むしろ主文から始まって前半部分まで、そこで感極まったのではないかと。
判決文がどれほど原告の心を刺すものなのかわかっていて…目の前に着席している原告たち一人一人にしっかり向き合い、その覚悟を持って判決文を読んでいく…その緊張が思わず途切れた瞬間だったんじゃないか、そう思った。
判決は私たちの主張がすべて通ったわけではない。でも、この判決文に辿り着くまでに、三人の裁判官たちがどれだけ思慮を尽くしてくれたのか、それは十分過ぎるほどに伝わっている。

▶大阪地裁の裁判官たちは、
この判決文を書くのにどれだけの時間と葛藤を重ねたのだろうか。
関西訴訟の原告一人一人の生をどう考えていたのだろうか。
原告たちが意見陳述や尋問で伝えてきた願いや生活の実態が、3年以上の時間をかけて導かれた結論から、まるで見えてこないのは何故だったのか、、、

判決が出たあと、囲み取材。
川田中家とテレサ・麻智4人の足元に集音マイクが束ねられ、報道陣が取り囲む。
札幌のときは一人一言程度で手短に終わっていたが、かなり長く質問が途切れなかった。屋外でほとんど聞き取れなかったが、なかには、いまそんなこと聞かなくてもと感じた質問もあった。
それでも、きちんと真っ直ぐに、いまある思いを言葉にする川田中家とテレサ・麻智4人の内面を思うと、早く早く解放してやってくれ、こんな判決を受けた直後なんだから、そう切に感じた。
ニュースでも流れている「…まだまだこれから!次は大阪高裁」と書かれた旗だしの映像は、2人の弁護士が原告に代わって執り行われたものだ。
弁護士のことを代理人と呼ぶ。文字通り、代わりになって原告たちを守っていた。

一部報道で、大阪地裁判決について、札幌の違憲判決から「後退した」との記事があったが、それは違う。
札幌は人権問題だった。大阪は、結婚は男女のものという"価値観"で終わっている。そもそもが、同一線上にない。

札幌は近く2回目の期日がある。当然、この先に控訴審での判決を迎えることになる。どんな判決であっても、一度経験したことなので、おそらく自分は大丈夫だという気がしている、たぶん…そうありたい。
りょーすけさん、最近受けた取材で、この裁判は負けないと断言していた。なぜなら「勝つまでやるから」

いま、大阪地裁判決について、たくさんの「怒り」と応援の声が上がっている。とくに「怒り」は、人間の尊重すべき大事な感情だと改めて感じている。
関西弁護団は、川田中家とテレサ・麻智の4人に、匿名でもう1カップルが原告に名を連ねているが、控訴審に向けて動き出した。


麻智さんや川田中家は、判決から数日後、それぞれ思うところをSNSにあげている。
理路整然とした文章は、不謹慎だけれど、美しいと感じてしまった。
どんなに傷ついても、私たちは、より強くなって前進していく。
…でもどうして、この社会のなかで、あらゆるマイノリティは強くなっていかなければならないんだろう。

川田中家の声明(おそらく、田中さんが主に書いた文章だと思う。)のなかで、一箇所だけ引っかかるところがあった。
「ぼくらは悔しいけど泣かない。」
その通り、その意思に共感する、でも。

でもね、田中さん、
野暮なことを言うようだけれど、
泣いていいんだよ。
僕は、むしろ、泣いたりジタバタしたり、やりきれない時間も、この裁判を通して感じたことすべて、みんなの全部を全肯定したいと思っている。

田中さんが今回新たに作った関西訴訟弁護団のロゴマーク。このデザインに込めた想い、川田中家の一文を最後に引用しておく。

『わたしたちの涙が、最後には虹色の花となって報われてほしい。』


りょーすけさんと私も参加した、報告集会の様子はこちらから↓

…またイタリアンに行くんだ我々は!


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