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「創英企画」の誕生から消滅まで


まえがき

創英企画の話をする。
創英企画、といってもわかる人はそう多くはいないと思うので、わかりやすく言うと、
「創英角ポップ体」の「創英」のことである。

↑創英角ポップ体(創英ポップ体1)

そのフォントに親の仇の如き憎しみを抱く人は数知れずとも、それを作成した会社のことを知る人はそれ程多くはないだろう。
正直なところ僕もそこまで意識したことはなかったのだが、最近になって調べてみたら色々と動きがあったことがわかった。しかしその割に全然言及が無かったので僕が言及しようと思い筆を執った次第である。

近頃流行りのキュレーションブログのようにインターネット上で調べた情報をまとめている。出来るだけ信頼性の高い情報源を選んではいるが、検証などは全然していないので参考までによろしくお願いしたい。

要するに

創英企画、消滅していた
という話である。とても悲しいが、これも時代の流れなのだろう。

それにしても会社のことはあまりよく知らなかったので、消滅に至るまでの全体の歴史を調べてみることにした。興味ない人は適宜読み飛ばすべし。

「株式会社創英企画」とその歴史

ここで言う創英、「株式会社創英企画」というのは梅原秀之氏によって昭和48年(1973年)12月に設立され杉並区に本社を置いた企業のこと。(参照

全く同じ名前で昭和50年に開業しデザイン・印刷業などをしている株式会社創英さんや昭和55年に開業した株式会社創英企画さんとは別の会社だ。ややこしい。

元々は駐車場や賃貸マンションの管理をしていた会社のようだが、何故か書体制作の道へ進んでいる。企業サイトの書体制作ポリシーというページに書体字母の作成年が載っており、それによれば少なくとも1984年には書体「創英太楷書体11」を完成させていたようだ。

創英太楷書体11

80年代といえばワードプロセッサ(ワープロ)の時代で、そのワープロ用の書体として作られていたのだと推測できる。インタビュー記事において、創英角ポップ体がワープロの顧客に対し目立たせる目論見で制作されたという話が載っているためだ。

書体は「字林」シリーズと称されており、1994年にかけて9人の書体デザイナーにより34書体の字母が完成した。この「字林」という名称は商標登録もしていたらしい。書体の名前はシリーズ名と関係なくどれも「創英」で始まっているのだが。

やがてパソコンが普及しDTPの時代が到来すると、「字林」もデジタルフォント化された。

そして各書体は「キヤノン」「リコー」の2社に委託され、発売されることになる。

創英企画書体「字林」

キヤノンで「字林」は「FontGallery」という、デジタルフォントを詰め合わせたCD製品に搭載された(これは2007年に販売終了してしまっているが)。

一方リコーでは、個別書体の販売のほか、かの有名なソフトウェア群「Microsoft Office」へ書体を提供した。

その結果、日本の様々なシーンに創英角ポップ体が溢れることになるのだが、それはまた別のお話。

その後

色んな意味で人気を博すことになるフォントを世に送り出した創英企画だったが、その後はどうなったか。

前項でも触れたが、2016年6月22日にデイリーポータルZというウェブメディアで創英角ポップ体についてのインタビュー記事が掲載され、様々な秘話が明かされている。

これでまだ創英企画は健在であるかのように思われていたのだが……。

しばらくして、ホームページの消滅が確認されたのだ(2017年の頭ぐらいには消滅していた様子)。

その後は特に動きもなく、誰も触れることもなかったようだ……。消滅について他に何かわからないかなと思い「創英企画 リコー」でググったところ、すぐに答えが出てきた。

2016年の11月22日、インタビューから丁度5ヶ月後に、リコーからプレスリリースが出されていたのである。

リコーインダストリアルソリューションズ株式会社は、株式会社創英企画より同社の保有する全書体の字母権利を譲り受けることとなりました。

創英書体の字母権利取得により、フォントのラインナップ強化へ - リコー

それは、全書体の字母権利譲渡という大ニュース。

創英はリコーに書体を託し、そっと姿を消していったのだ…。その後2018年1月23日に会社登記が閉鎖され、完全に消滅したようである。

あとがき

なんとも悲しいことだが、創英企画は消滅していた。

社長さんもデザイナーさんも高齢化していたようだし、まあそういうことなのかもしれない。

諸行無常、しかし杉並区に「株式会社創英企画」という会社が存在し、フォント販売や駐車場経営、CDの録音製作を行っていたということは、誰かの記憶の中に残り続けるし、残り続けてほしいものだ。

また「創英企画」や「字林」は無くなったが、フォントは「リコーの創英書体」として残っている。フォントが使い続けられる限り、創英の魂は生き続けるだろう。

よく見かけるあのポップ体にはこんな企業の背景があるのだと思うと、見方も変わってくるんじゃないだろうか。

でも34書体のうち20書体は未だに発売されていないので早く商品化してほしいし創英書体詰め合わせパックとか欲しいのでリコーさんよろしくお願いします。

ではまた。

創英角ポップ体最高!!!!!

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