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『よくできた犯罪』シーズン2に向けて覚えておくべきいくつかのこと

まだ正式決定ではないらしいが、Netflixでドラマシリーズ『よくできた犯罪(原題:a Good Crime)』のシーズン2がまさかの配信開始という話が出ているらしい。

この『よくできた犯罪』を知らない人のために、概要を記しておく。概要は2004年にイギリスで製作された1シーズン11エピソードのミステリードラマだ。現在このドラマを配信しているサービスはなく、DVDは日本では絶版になっている。俺も誰か友達にDVDを借りて見た記憶があるのだが、それが誰だったのかは思い出せない。ある種カルト的な人気があるドラマだと思ってもらえればいいだろう。

『よくできた犯罪』のストーリーはこうだ。事件はある郊外の学校で起こる。体育館の倉庫で死体が発見され、学校の教師も生徒も誰もその死体になった人物に見覚えがない。警察も手をこまねく中、その学校の生徒である主人公ニックは独自に生徒や教師に聞き込み調査を重ねていく。次々と犯人の候補が現れては消え、また死体がいったい誰なのかも二転三転していく。そして犯人である決定的な証拠が見つかる。その証拠によると、犯人は主人公のニックであることは間違いなかった。そして、同時に見つかった別の動かしようのない証拠によると、その死体もまたニック以外にはあり得ないのだ。

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ドラマはここでエンドロールが流れ、1話が終了する。投げっぱなしの展開なのだが、これからシーズンの残りのエピソードを使って真相が明らかになっていく……というわけではないのが、このドラマの非常に特異性が高いポイントだ。

1話目から続けて2話目を見た人は間違いなく違和感を覚えるだろう。2話目はまた1話目の最初から始まるからだ。1話目の最初のカット、教師のエリオットが校庭で遊ぶ生徒たちの間を何かを探すように歩き回り、画面では彼の足だけをひたすら写したあの場面だ。1話目はそのまま足が止まったところでカメラが上昇していき、エリオットを演じるジェイダン・キングの困惑しきった表情が映し出されるのだが、2話目も全く同じ展開なのだ。違うのは映し出される顔。そこに映っているのはジェイダン・キングの顔ではなく、1話目で右往左往する警官のスコットを演じたジョー・リースの不景気な顔なのだ。

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「同じ話が繰り返される」、これが『よくできた犯罪』の特徴だ。本国イギリスでは、同じ話が続いていることに気づいた視聴者が「放送のミスだ」と放送局にクレームを入れたこともあったらしい。クレームに際して、このイギリス人が「壊れているのはうちのテレビかい? それとも君たちの頭のほう?」と言ったかどうかは定かではない。

そして、もう1つの重要な特徴は1話ごとに配役が違っていることだ。1話目でエリオットを演じたジェイダン・キングは2話目では用務員のジェイクを演じているし、3話目で女刑事ビオラを演じているリリー・クラインは7話目では売店で「ソーダは売り切れだよ」と主人公にそっけなく言う女を演じている。主人公のニックにいたっては毎回必ず配役が違う上に、8話では女性のケイト・マーフィーが演じている。おまけに監督の名前もすべてのエピソードで違っている。

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ただ、配役以外のストーリーのすべてが同じなのかというとそういうわけでもない。細部で微妙な違いがいくつかあり、それがファンたちの議論の種になっている。たとえば、以下のような違いがある。
・1、3、4、7話目での凶器であるナイフは、2、5、9話目ではスパナに、8、10、11話ではアイスピックに替わっている。
・主人公ニックと共に調査をするベンの妹(3、8話目では弟)のジェスが常に抱えている人形は1、2、4話では熊、3、5話ではよくわからない宇宙生物(イカ?)、6、9-11話では赤い犬、7、8話では首のない動物のようなものに変わっている。
・ニックは学校の屋上で凶器が隠されたロッカーの鍵を1‐5話で見つけるが、6話以降では鍵の存在はなく凶器は地下のボイラー室に隠されている。

ここに上げたのはほんの一部だ。数え始めたらキリがないほど変わっている。それほど変わっているのに、ストーリーの構造自体は変わっていないというのが『よくできた犯罪』の重要な点だろう。昔、同じ話をひたすら何週にもわたって放送し続けたアニメはあったが、外形だけが変わらずに中身が変化しているストーリーというのはドラマでもアニメでも例がないのではないだろうか。

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「BBCの悪ふざけ」「本当は毎回変わる監督名はただの飾りに過ぎず、一人の有名な映画監督(たとえばダニー・ボイルやテリー・ギリアムなどの名前が噂されている)が冗談で作っている」「AIによる自動生成で配役や詳細が変化している」など、この作品の意図についてファンの間ではここ15年ほど議論が続いているが、結論に至ってはいない。新しいシーズンが制作されず、制作者もひたすら沈黙を保っているので結論に至るわけがないのだ。

まあ、新シーズンを見ればすべてが明らかになる。なんて甘い期待を持っているわけではない。むしろ、見たことでより混迷が深まる可能性の方が高いだろう。新シーズンのキャストにはビル・マーレイ、アダム・ドライバー、マーゴット・ロビー、マハーシャラ・アリ、キース・スタンフィールド、ビル・キャンプなどのハリウッド俳優たちが多数クレジットされてて明らかに怪しいし、その中にはすでに死んでいるオーソン・ウェルズ、ヒース・レジャー、マーロン・ブランド、リバー・フェニックスなどの名前まであってもはや悪ふざけの域を超えている。

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ただ、それでも俺は見るだろう。よかれあしかれ『よくできた犯罪』の虜になってしまったのだから、見ないという選択肢はない。これに他の人を巻き込みたいので、ぜひ未見の人も試しに見てほしい。DVDが入手困難な状況でシーズン1を見たことがないという人も、シーズン2から見ても全く問題ないことだけは間違いがない。一応、シーズン2の放映開始は9月18日を予定されている。ただ、これも本当かどうかはわからない。その不確定さこそが『よくできた犯罪』という映画の罠なのだ。





※このドラマはこの世に存在しません。

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