銀行員のキャリアvol

銀行員のキャリアvol.1 - CFOの仕事

普段は借金の話ばかりをしている私ですが、銀行員のキャリアについて考えるべく、定期的に銀行員のキャリアについての記事を書いていきます。

IT化やAIの発展に伴い、銀行は『これからは人が要らない時代になる』とよく言われております。じゃあ、現役銀行員は今後のキャリアをどう考えたらいいのでしょう?

今身につけておく能力、積んでおく経験、転職するならどういった業界や職種があるのか。

幅広く金融に携わる人(銀行員ももちろん、そうじゃない人も)へのインタビューを通じて、お届けしていきます。

初回は、森永康平(もりなが こうへい)さん。

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株式会社マネネCEO / 経済アナリスト。
証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。
現在は複数のベンチャー企業のCFOや監査役も兼任している。
著書『親子ゼニ問答』 (角川新書)。
日本証券アナリスト協会検定会員。
Twitter:@KoheiMorinaga


金融教育ベンチャーのCEOや経済アナリストとして活躍される一方で、複数のベンチャー企業でCFO(最高財務責任者)を兼任されている森永さんに、CFOというお仕事、求められる能力、銀行員のセカンドキャリアとしての可能性についてお聞きしてきました。

目次
1.CFOとしてのビジョン(無料)
2.CFOになった理由
3.CFOに必要な資質やスキル
4.CFOの仕事の面白さ
5.銀行員のキャリアとしてのCFO


1.CFOとしてのビジョン

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メリル
株式会社マネネは「お金の不安をなくす」というテーマを掲げていらっしゃると思いますが、CFOという仕事との関連はどう考えていますか?

森永
もともと子どもの金融教育をしたいと思いマネネを起業したのですが、一方で大人もお金のこと分かってないじゃんという問題意識もあり、今では大人にも金融教育をしています。そうやって全員のお金の不安をなくそうと日々頑張っているのですが、実はいまは会社のお金の不安もなくしたいと思って、それでCFOという仕事もしています。会社は「法人」と書くように、会社も「ヒト」なので、そういう意味では一緒なのかなって。

子どもも大人も法人もヒトであり、日本は、法人を含めてお金に対する知識がない故に、お金のことで困っているヒトが多いと思っていて、みんなの不安をなくしていくのが自分のミッションだと思っているし、不安がある限りは自分のビジネスは消えることがないと思っています。

僕が食いっぱぐれる時は、僕の夢(お金の不安をなくす)が達成した時だと思っているので、それは嬉しい悲鳴ですね(笑)

僕の夢が実現したら、対面の証券会社は経営のピンチが訪れると思います。情報の非対称性をマネタイズの源泉にしている証券会社が対面は多いですからね。もっと言えば、FPすらいらなくなると思っています。みんなが適切な判断ができれば相談する必要がないですから。

そういう意味では、銀行ももはやいらないかもしれない。融資だって、お金持ってるヒトがお金を必要としている人とマッチングできるウェブサービスやアプリがあって、自分で相手を審査して判断できれば完結しちゃうわけだから、銀行も要らなくなるかもしれない。現金も電子化されてしまえば、金庫もいらない。既にAIが自動的に審査する機能を持ち始めていますし、中国ではクレジットスコアリングが個人レベルでも行われています。

全員の金融リテラシーが向上すると、多くの金融機関は要らなくなるわけです。今後は支店の数も減っていくでしょうし、各社の人員削減のスピードも上がるでしょう。

ただ、そうなるのにはまだまだ時間がかかりそうです。

これだけ「資産運用が~」とか、「投資が~」と言われても、実際に行動を起こしている人はほとんどいなくて、日本は専門家が思ってる以上に金融へのハードルが高いと思っています。

ここ1、2年で出た僕の結論は、想像以上にみんなが投資をしないし、できない。

この数年でFinTech企業が大型の資金調達をしているけど、日本で投資が市民権を得るまでには相当高い壁があると思っています。もっと言えば、壁を超えられないままなくなってしまうFinTech企業もこの数年で出てくると予測しています。その理由は、彼らがダメなのではなく、いくらいいサービスを作って、素晴らしいUI・UXを実現したとしても、それを使う人がいてはじめて成り立つのに、そこまでいってないのが今の日本。まだ早すぎるんじゃないかと思います。

もっとその手前で、投資のハードルを下げたり、リテラシーを向上させる仕組が必要だったはずです。

メリル
リテラシー向上って観点で思うのは、人任せな人が多く、そのままじゃダメだと言う人がいても聞く耳を持たない人が多いと感じます。

森永
そうですね、他責の人が多い印象です。貧乏なのは、人のせい、環境のせい、政治のせいみたいな感じで。

でも、生まれた環境で人生が決まってしまうということはなくて、貧乏な家に生まれても、スマホとネットがあれば誰でも稼げる時代ですから。実際に知人で家がとても貧しかったけど、いまでは学歴も職歴もないけど、普通のサラリーマンの何倍も稼いでいる知人もいる。

ただ、そんなことをTwitterで言うと、(認めたくないからなのか)炎上する。

メリル
それでも、そんな人に対して金融リテラシーを向上させていくのが、森永さんのビジョンだと思うのですが、どのようにアプローチしていきますか?

森永
地道にやっていくしかないので、日常生活で会った人、セミナーに来てくれた人、仕事で接点を持った人に、まずは全力で自分の考えを共有し、信頼を得て広げていく。
魔法みたいに日本全体の金融リテラシーが急に向上するなんてあり得ないので。

そうやって草の根活動を続けていくうちに、「俺もそっち側に回るよ」と仲間が増えていったら、向上のスピードも上がっていくと思います。

アホかって言われるかもしれないけど、愚直にやるしかない。

さっき言ったとおり、なかなか聞いてもらえないし、ツイートしても限界があるんです。でも、対面で話せば、しっかりと聞いてもらえる実感がある。

だからこそ、関係した人たちを変えて、その輪を広げるしかないと思っています。効率性を求めても仕方ないです。

メリル
僕も借金noteを書いて、DMで相談が来たりしますが、1:nじゃなく、1:1だと人が変わるという実感はありますね。マイナスを救うという観点では、僕もできることはしていきます。

森永
僕がスポットで取り組む案件のなかには、債務整理の仕事もあるんですね。ウシジマくんにとんでもない多重債務者が出てきたりしますけど、法人でもそんな感じの企業ってあるんです。

基本的に資金の出し手は立場が強いので、油断すると借り入れをしている企業は弱みにつけこまれることだってあります。

実際に、僕が資金繰りをなんとかつないだ会社で印象的なことがありました。

資金繰りに目処がたったあと、打ち上げに行ったのですが、その二次会の時に、経営者が急に号泣しだしたのです。ようは、そこまで追い込まれていたんです。緊張の糸がほぐれたのでしょう。

でも、従業員に対して、追い込まれていることは言えてなかったわけです。そんなこと言ったら従業員は次々と辞めていってしまいます。一発逆転がある限りは決して言えません。本当にギリギリまで粘るわけです。

だから経営者は飲み会で号泣するまでに至ったんですね。でも、従業員は本当の状況を知らないので、「社長、なに泣いてるんですか!」って、いじったりするわけです。経営者というのは、すごく孤独で、全部のプレッシャーを一人で抱えているんです。

僕は全部見ていたのでよくわかりました。サラリーマン時代は、経営者は孤独だと言われても、ピンと来なかったが、この立場になって物凄く実感するようになりましたね。

外部CFOの醍醐味はこういう所にもあって、財務データを見ているから、僕には資金繰りの状況がわかるし、経営者は外部の人間である僕にはあらゆる相談や愚痴が言えるわけです。

醍醐味っていうと失礼ですが、法人にお金が絡むとこういうドラマが生まれるんです。

メリル
お金という企業にとっての命に直接関わるからこそ、見える世界ですね。

森永
まさに、ヒトにとってお金は命みたいなものなんです。僕が、お金の不安をなくしたり、金融リテラシーを向上させたり、家庭で金融教育した方がいいと言ったり、お金のことを隠すなと言っているのは、そこが理由なんです。

誰しもがお金を使ってますよね?と思っているわけです。

何らかの形でお金を手に入れ、それを使って当たり前のように生きているのに、「お金の話は隠すべきだ」、「人前でお金の話をするのは卑しい」という発想は腐っていると思っています。なんで隠すの?と疑問に思うわけです。

お金のことはおおっぴらにすべきだし、透明性を持って語られるべきです。

CFOに話を戻すと、みんなにとって関係がある、企業にとっては血液のようなお金に関することを、間近で見ながら責任を持って取り組むので、時には悲惨な結末を見ることもあります。

例えば、人員整理をしなければならない時があるわけです。どれぐらい人件費を削減すれば、キャッシュフローが持つか。人件費の削減と、それに伴う売上の減少のバランスはどうかなど、ひたすら計算をし続けて最適解を出していきます。経営者が自ら雇った、育てた、引き抜いてきた人に別れを告げるという、経営者がやりたくないことをしなくちゃいけないんです。

お金を通じて、経営者と二人三脚で取り組む中での、きつさ、プレッシャー、エグさだったりがあるからこそ、うまくいった時は嬉しいし、敗戦処理をするときの辛さは半端じゃない。

ただ、ここに携われるということは、自分自身の人間力も物凄く鍛えられます。本当にメンタルが弱かったらこんな仕事は身が持ちません。本当にきついです。

投資家との交渉は常にきついプレッシャーの中で繰り広げられるし、ハッタリをかましつつも、嘘はいけないし、誠実でいるところは守らなければならない、といった駆け引きもヒリヒリします。

学生や社会人経験の浅い人達がよく憧れているビジネスコンテストやピッチコンテストといったキラキラした世界では感じられない人間模様や、お金が絡むことで見えてくるリアルさ、生々しさに惹かれていますね。

ただ、僕の場合、あくまでも外部でいることで寂しさに似た思いもありますが、だからこそ冷静でいられるし、その上で客観的にアドバイスすることが求められています。

CFOを目指すのであれば、時にはヒトの命にも関わり、ひり付く局面が多々あり、そういった過酷な状況に身を投じることになるんだよってことをわかって欲しいですね。CFOっていう肩書がかっこいいから自分も目指したいって思っている人もいるかもしれないですけど、そんなぬるい考えで目指すなら絶対やめた方がいい。最近、よくSNSで流れてきますけど、「総額〇〇億円を調達しました!」とか言って、腕組んでドヤってる写真を載せたいとか、ネットメディアに取材をしてもらいたいだけなんだったら、やめた方がいい。実際は泥臭い業務ばかりだし、モテもしないですよ。

大企業はともかく、中小・零細企業では、比喩表現ではなく、人の命に関わってくるのがお金の問題です。ドラマの演出ではなく、リアルに起こるわけです。そんなまるでカイジのような世界に踏み込む覚悟が必要ですし、失礼になりますがそこが面白さでもあるんです。


2.CFOになった理由

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森永
2018年の4月まで台湾に単身赴任していたのですが、日本には奥さんと子どもが2人いたんですよ。
3人目が産まれて、奥さんもそろそろ復職もしたいっていう話が出ました。
子ども3人もいて奥さん1人では無理なので帰ろうと思ったものの、サラリーマンとして日本に戻っちゃうと朝から夜までずっと働いて時間に融通がきかず、事実上単身赴任をしているのと変わらないので、だったら起業しようということで会社を立ち上げました。

会社を立ち上げるというのが先に来てるので、何をするか決めていませんでした。私が父親から金融を学ぶ環境を作ってもらって、大人になってからすごく得をした経験があって、自分の子ども子どもにも金融教育したいなと思ったのですが、それなら日本の子ども全員に金融教育した方が世の中的に意味があるかなと思って、いまの会社の主要事業に金融教育を設定しました。

とはいえ、最初からお客さんがいるわけじゃなかったのですが、facebookで独立したことを報告したところ、執筆や講演の仕事の誘いがきて、それをまた報告している中で、CFOの誘いをもらいました。

一方、独立した時点ではCFOをやるなんて思ってもいないし、私は経理や財務の経験がないので、自分が声をかけられた理由はわからなかったものの、話を聞いたところ、私自身が経済環境を把握して先読みする能力があって、企業の会計も理解していて、かつ新規事業や法人の立ち上げ経験もあることを評価いただいていることがわかり、それであれば、経験がないという短所はカバーできると思ったので引き受けました。

そして、私がその会社のCFOに就任した旨のプレスリリースを出したところ、立て続けに同じくCFOの誘いをもらって、一時期は最大5社兼務してました。

メリル
なろうと思ってなったというよりは、金融教育の会社立ち上げをきっかけに、ご自身のこれまでの経験、人間関係を通じてお誘いがあったんですね。

森永
はい、なので、どうしたらなれるかを聞かれても困ります(笑)。
ただ、本当に素地もない素人をCFOとして誘う経営者なんていないので、マーケットや経済、ファイナンスがわかっていると認知されていたから誘われたのは間違いないですね。なので、最低限そういった知識・経験は必要ですし、そういう人間だと思われている必要はありますね。

3.CFOに必要な資質やスキル

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メリル
財務や経理の経験がない中で、CFOに就いてギャップはありましたか?

森永
財務・経理の経験はないと言いましたが、財務部や経理部での業務経験がないというだけで、運用会社でアナリストとして個別株の分析はしていましたから、財務諸表は普通に理解できますので、実務的な細かい知識をやりながら覚えていきました。誤解なきよう言っておきますが、全く無知ではなく、アナリスト時代の素地があったので、あとはやりながらでカバーできたということです。

メリル
マーケットや経済、財務や経理の他に最低限必要な知識はありますか?

森永
それは、どのポジションでCFOをやるかがポイントです。
例えば、大企業なのか、中小企業なのか、零細企業なのか、ベンチャーなのか。
属する会社の規模や成長フェーズで求められる能力は変わると思っています。

僕の場合、CFOとして機能できた要因の一つは、「アナリストやエコノミストとして調査業務以外に、事業会社で、新規事業や子会社の立ち上げやマネジメントの実務経験があったこと」。ただの、調査畑のリサーチャー、アナリストの経験しかなかったら、机上の空論を吐くコンサルタントみたいになっていたでしょう。そんなんじゃ、真剣に事業と向き合ってる経営者には響きません。むしろハレーションになりますよ。データはそうでも、人はそうじゃないって。

実務経験があったからこそ、マクロ経済や業界動向はこうだけど、実務上はこうしたほうがよくて、経営陣と従業員の関係を踏まえると、この選択肢がベストだ、みたいな話ができたので、経営者とも信頼を構築できたんだと思います。

人間がやっている以上、データだけでなく実務を踏まえた議論は欠かせない。

CFOと聞くとかっこいいけど、小さい会社であればあるほど、全部やれとなってしまう。データや数字周りはもちろん、売上が上がってないなら営業だってやります。僕もAIの会社で、事実上、営業部長みたいなこともやり、資金調達しながらクライアントも増やすといったことをしています。

なので、企業規模で求められる能力は異なってくるわけです。

メリル
実質、実務のトップのようなイメージでしょうか?

森永
経営者の相談相手でもあり、実務も担うイメージです。

僕が珍しいとされるポイントは、完全に外部であることもポイントです。取締役でもないし、株主でもない。あくまで業務委託です。CFOが完全に外部の人間っていうのは、日本だとまだまだ珍しいです。

外部CFOには良さがあって、社員からすると顧問みたいな外部の人間というイメージで、経営者とツーカーだけど、あくまでも外部の人なので、経営者の仲間じゃなく、忖度することなく、外から客観的に意見を言える人という印象なので、社内の様々な情報が集まってきます。

馴れ合いじゃなく、プロフェッショナルとして、客観的に違うことは違うと言えるアドバイザーはこれからニーズも出てくる職種でしょう。

あと、僕は上場企業、外資系企業、ベンチャー企業、海外駐在、ベンチャーや海外での会社立ち上げ、フリーランスとほぼ全てのポジションを経験しているので、全ての良し悪しを語れるのも強みだと思っています。

なので、参画先での起こりうる事態に対して先読みがしやすくなります。

また、CFOという立場から、客観的に数字やデータをエビデンスに意見できるので、経営者は感情的にならず意見を聴きやすいんだと思います。それを繰り返すことで、「あいつの言う通りになった」と信頼を構築できています。

メリル
反発されたりはしないんですか?

森永
耳障りのいいことを言うばかりじゃないので、当然あります。
外部からCFOを獲るくらいなので、うまくいっていないことが多いです。
うまくいっていない原因に言及するものの、経営者はそういうことは言われたくない、従業員は気づいていても主従関係があるから経営者言いにくい。全員がなんとなく思っているけど、言えないでいることを外部の人間に言われるのは、やっぱり気持ちよくない。

メリル
真実は言われたくないものですよね。

森永
分かっていることをデータをエビデンスに言語化されると、もはや事実として受け入れざるを得ない。それを繰り返し、解決策も提示してあげることで、反発はなくなっていきます。むしろ、向こうから相談されるようになっていきます。

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