対話力とは何か

近頃、「対話力」というものが取り沙汰されますね。
コミュ力などと呼ばれるものも、この一種でしょうか。

OECD(経済協力開発機構)が行う国際学力調査の枠組み、
「キー・コンピテンシー」Education 2030でも、
○異質な集団で交流する能力/
 他人といい関係を作る能力
 協力する。チームで働く能力
 争いを処理し、解決する能力
を、育むべき能力と設定しています。

これらはひとことで言えば、
「意見の異なる人と対話をする能力」だと思うのですね。
しかし、これがなかなか難しい。とくに大人には難しいです。

中には「そんなことはできるはずがない」と諦めている人もいるでしょう。
私が会社で人と打ち合わせなどをしていても、
「対話になる」状況もあるのだけれど、
多くの場合は単なる言い合いで終わってしまうこともあります。

対話って、いったいどうすればできるのか。

本当は言いたいことがあるけど、場の空気を乱してしまうから黙っている。

こうすれば、結論には早く到達できますね。
でも、それって「対話」の結果ではありませんね。

ここのところ、「対話」について考えていました。
私自身、対話ができるときもあれば、
うまく対話ができない場合もあります。

自分の例を振り返ると、
それは「相手による」ということがわかってきました。
ここで言う「相手」とは、相手の立場のことではありません。
その人が持つ固有のキャラクターに依存している、という意味です。

逆に、対話にならない場合、というのも、やはり同じです。
ある特定の人とは、まるで対話にならない。
どうしてなのか・・・・

自戒も込めて考えていました。

人と会話していて、例え意見がちがっても決して感情的にならず、
声を荒げたりせず、平穏に意見交換ができるのは、どういう場合か。

人と人が会話するとき、話す側と、応える側がいますよね。
「答える」ではなく「応える」です。
相手の発言に応じる側ということですね。

で、対話力というと、何か、
話す側のスキルのように思ってしまう場合が多いと思うのです。
「話し方」の重要性を説いている書籍なんかもありますしね。

でも、「対話力」そのものは、
本質的には「応じる側」のスキルなのですよね。
そこに気付けるかどうかなのだと思います。

あの人は、自分の思い通りにならないとすぐに怒ってしまう。
あの人は、議論が下手だ。

そういうシーンに出会ったことは誰しもあるのではないでしょうか。

私も人と会話していて、感情が高まった経験は何度もあります。
けれども、そのときに毎回必ず感じている感覚があることに気づきました。

それは相手が自分の存在を認めていないと感じる、という感覚なのです。
それは自分が発した言葉に対して、
相手がどのような態度で反応するかということで決まります。

例えば、相手の発言に対して「そんなのダメだよ」といきなり返すのか、
それとも「なるほどね」のひとことが言えるか。

「理解」と「了承」はちがうのですよね。

で、人は必ずしも相手に「了承」までは求めていないのだけど、
「理解」は求めているんです。

「言っていることは理解できる。
 でも、そうはしない方がいいと思う。」というのと、
「そんなのダメに決まってる」では、対話の質がまるでちがうわけです。

対話とは、意見をキャッチボールさせながら、
互いの立ち位置を少しずつ変えていく事象なのだと思います。

実際に誰かと2人でキャッチボールしているときに、
突然豪速球を投げたり、相手の球を無視したりせず、
互いに少しずつ移動していって、最終的にいい感じの場所に落ち着く。

それが理想のイメージでしょう。

会話のキャッチボールを本当のキャッチボールに例えると、
恐らく「対話力」は相手がキャッチできるボールを投げること、
と解釈されがちなのですが、
実際には、ちゃんとキャッチする捕球能力の方が重要なのです。

投げるのが下手の人の球も、しっかり取って、ときには拾って、
相手に投げ返してあげる。これが「対話力」なのだと思うんですね。

そう考えると、受ける側の方ばかりが譲歩するのか?
と思われるかも知れないですが、そういうことではないのです。

人は、相手がちゃんとキャッチしてくれれば、態度を変えていくものです。
ちゃんとキャッチしないとか、キャッチする気がないように見えるから、
どんどん暴投になっていく。

もちろん、キャッチした球は投げ返すわけで、
今度は立場が入れ替わって最初に投げた側が応じる側になる。
その応じ方がまたキャッチするスキルだ、ということですね。

言い方よりも、応え方。そこにスキルがあるのだと思います。

この人には何を言ってもいつも否定されるんだよな、
と思っている相手には、
もう普通のコミュニケーションは無理だと思われますよね。

逆に、この人はとても話しやすいという人は、
いちど受け止めてくれるからではないでしょうか。

「対話力」とは、とりあえずいちど受け止めてみる、
という力なのだと思います。

もちろん、相手が受け止めない人だった場合は、こんどはこっちが対話力、
つまり受け止め力を駆使して、
相手の受け止め力を引き出す必要がありますね。

経験的にいっても、
対話というのはいいときにはどんどん良くなります。

これは、片側の受け止め力の高さが
相手の受け止め力を引き出すからなのでしょう。
相乗効果というやつですね。

対話ですから、本当は言う側にもスキルがあると思います。
でも、いちばん肝心なのは相手の言葉に応ずるときなのだ、ということを
頭の片隅に置いておくと、使えるチャンスがあるかも知れません。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?