対話力とは何か
近頃、「対話力」というものが取り沙汰されますね。
コミュ力などと呼ばれるものも、この一種でしょうか。
OECD(経済協力開発機構)が行う国際学力調査の枠組み、
「キー・コンピテンシー」Education 2030でも、
○異質な集団で交流する能力/
他人といい関係を作る能力
協力する。チームで働く能力
争いを処理し、解決する能力
を、育むべき能力と設定しています。
これらはひとことで言えば、
「意見の異なる人と対話をする能力」だと思うのですね。
しかし、これがなかなか難しい。とくに大人には難しいです。
中には「そんなことはできるはずがない」と諦めている人もいるでしょう。
私が会社で人と打ち合わせなどをしていても、
「対話になる」状況もあるのだけれど、
多くの場合は単なる言い合いで終わってしまうこともあります。
対話って、いったいどうすればできるのか。
本当は言いたいことがあるけど、場の空気を乱してしまうから黙っている。
こうすれば、結論には早く到達できますね。
でも、それって「対話」の結果ではありませんね。
※
ここのところ、「対話」について考えていました。
私自身、対話ができるときもあれば、
うまく対話ができない場合もあります。
自分の例を振り返ると、
それは「相手による」ということがわかってきました。
ここで言う「相手」とは、相手の立場のことではありません。
その人が持つ固有のキャラクターに依存している、という意味です。
逆に、対話にならない場合、というのも、やはり同じです。
ある特定の人とは、まるで対話にならない。
どうしてなのか・・・・
自戒も込めて考えていました。
人と会話していて、例え意見がちがっても決して感情的にならず、
声を荒げたりせず、平穏に意見交換ができるのは、どういう場合か。
人と人が会話するとき、話す側と、応える側がいますよね。
「答える」ではなく「応える」です。
相手の発言に応じる側ということですね。
で、対話力というと、何か、
話す側のスキルのように思ってしまう場合が多いと思うのです。
「話し方」の重要性を説いている書籍なんかもありますしね。
でも、「対話力」そのものは、
本質的には「応じる側」のスキルなのですよね。
そこに気付けるかどうかなのだと思います。
※
あの人は、自分の思い通りにならないとすぐに怒ってしまう。
あの人は、議論が下手だ。
そういうシーンに出会ったことは誰しもあるのではないでしょうか。
私も人と会話していて、感情が高まった経験は何度もあります。
けれども、そのときに毎回必ず感じている感覚があることに気づきました。
それは相手が自分の存在を認めていないと感じる、という感覚なのです。
それは自分が発した言葉に対して、
相手がどのような態度で反応するかということで決まります。
例えば、相手の発言に対して「そんなのダメだよ」といきなり返すのか、
それとも「なるほどね」のひとことが言えるか。
「理解」と「了承」はちがうのですよね。
で、人は必ずしも相手に「了承」までは求めていないのだけど、
「理解」は求めているんです。
「言っていることは理解できる。
でも、そうはしない方がいいと思う。」というのと、
「そんなのダメに決まってる」では、対話の質がまるでちがうわけです。
対話とは、意見をキャッチボールさせながら、
互いの立ち位置を少しずつ変えていく事象なのだと思います。
実際に誰かと2人でキャッチボールしているときに、
突然豪速球を投げたり、相手の球を無視したりせず、
互いに少しずつ移動していって、最終的にいい感じの場所に落ち着く。
それが理想のイメージでしょう。
会話のキャッチボールを本当のキャッチボールに例えると、
恐らく「対話力」は相手がキャッチできるボールを投げること、
と解釈されがちなのですが、
実際には、ちゃんとキャッチする捕球能力の方が重要なのです。
投げるのが下手の人の球も、しっかり取って、ときには拾って、
相手に投げ返してあげる。これが「対話力」なのだと思うんですね。
※
そう考えると、受ける側の方ばかりが譲歩するのか?
と思われるかも知れないですが、そういうことではないのです。
人は、相手がちゃんとキャッチしてくれれば、態度を変えていくものです。
ちゃんとキャッチしないとか、キャッチする気がないように見えるから、
どんどん暴投になっていく。
もちろん、キャッチした球は投げ返すわけで、
今度は立場が入れ替わって最初に投げた側が応じる側になる。
その応じ方がまたキャッチするスキルだ、ということですね。
言い方よりも、応え方。そこにスキルがあるのだと思います。
この人には何を言ってもいつも否定されるんだよな、
と思っている相手には、
もう普通のコミュニケーションは無理だと思われますよね。
逆に、この人はとても話しやすいという人は、
いちど受け止めてくれるからではないでしょうか。
「対話力」とは、とりあえずいちど受け止めてみる、
という力なのだと思います。
もちろん、相手が受け止めない人だった場合は、こんどはこっちが対話力、
つまり受け止め力を駆使して、
相手の受け止め力を引き出す必要がありますね。
経験的にいっても、
対話というのはいいときにはどんどん良くなります。
これは、片側の受け止め力の高さが
相手の受け止め力を引き出すからなのでしょう。
相乗効果というやつですね。
対話ですから、本当は言う側にもスキルがあると思います。
でも、いちばん肝心なのは相手の言葉に応ずるときなのだ、ということを
頭の片隅に置いておくと、使えるチャンスがあるかも知れません。
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