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I.W.ハーパーとAさん

I.W.ハーパー12年。もう終売しているとついさっき知った。

私はラム酒が好きなのだが、いろいろなラム酒がある中で、バーボン樽で熟成されたものに惹かれることがしばしば。美味いなぁと飲むわけだが、じゃあバーボンやらテネシーウイスキー飲もうかしら。とはならない。私にとってのバーボン、テネシーウイスキーはそんなもんである。

ただ、その酒に思い入れが全くないことはない。お酒を飲みだして10年。自分にあるI.W.ハーパーの思い出を書こうと思う。

5年ほど前。私は無職だった。
仕事をナメていたのかもしれない。上司がキツい人だった。何かの掛け違いでうまく仕事がいかず、結果も出せず、我慢もできず、直属の上司に相談したら話が大きくなり、仕事を辞め、無職のまま上京した。
すぐに仕事なんて決まると思っていた。でも全然決まらない。それを見かねたとあるバーのマスターが、ウチで働けと声をかけてくれた。
オーセンティック(あってるだろうか?)な雰囲気。でもマスターやお客様は気さくでいい人ばかり。大好きな店である。基本的に皿とグラスを洗う仕事だが、あのバイトのおかけで今の自分があると言っても過言ではない。店から貸与されるはずだったベストが入らなかったり、バイト初日に店とトラブった人が乗り込んでモメたり、前途多難なスタートだった気がするが、楽しく働かせてもらった。

バーはいろいろなお客様が来るものである。このお店は本当にいい人ばかりだったが、クセがある人も若干いらした(何度も言うがいい人である)。その中でもAさんというお客様がクセのある方だった。
どれくらい本当かわからないが、店のある町の不動産王でビルを何軒も持ち、愛車はポルシェだかランボルギーニだかのスーパーカー。金持ちなのだろう。
マスター曰く、変わった人だから気をつけろ、とのこと。それは間違いないだろう。
そのAさんが毎回飲まれていたのが、バーボン。表題にもあるI.W.ハーパーだった。

毎回ソーダで割って飲まれていた。岡村靖幸の「カルアミルク」にもあるように、それくらいの世代の方は、モルトよりバーボンなのかもしれない。その頃の感じをまだ持ち続けたいからこそのハーパーだったのかもしれない。今となってはそう思う。
ただ、この飲み方が様になる。形がいいとかいうのかもしれない。格好いい大人の酒飲みは、高い酒だろうが安い酒だろうが格好がつくのである。その飲み方で、たとえ不動産王やスーパーカーオーナーであることが全部嘘だとしても、それを本当とさせるくらいの格好になる。私はそのAさんとその飲み方が好きだった。


長いこといろいろなお店で飲ませてもらっている。おそらく人より酒には少し詳しいくらいになっているのだろう(少なくともラムくらいは)。まだまだAさんには及ばないが、格好がつく飲み方をしたいなと、空いてしまったI.W.ハーパーの瓶を眺めながら思いを馳せたりしてみる。

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