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「ミカエル話法」を読み解いてみる
なぜミカエルの返事はズレているように感じるのか
マスターズウェビナーが始まって半年ほど経つ。
教室が閉鎖となったトロント本部が4月にいち早く始めた。
当初はモスクワ本部は乗り気でなかったが、トロント本部とのコラボウェビナーが好評だったためか、6月ごろからウェビナーがスタートした。
飛行機が飛ばず、ビザも出ない。相互の行き来ができないのが残念だが、オンラインのおかげで毎週、マスター達のクラスに出られるようになった。まさに人生万事塞翁が馬というやつだ。
思ったのだけど「ミカエル話法」というのがある気がする。質問に対してミカエルが全く答えになっていないような話をする。でも実はミカエルはその質問に真摯に答えており、聞いている側もなんとなく納得させられる。でも論理的には飛躍が多くて、振り返ると「?」となることも多い。
そういうことが度重なるので、ミカエルの受け答えを録音して、何度かプロの翻訳家に日本語で文字起こししてもらったことがある。するとやはりズレている。文字起こしのほうが同時通訳よりも細かなとこまで分かるのだけど、やはりズレているのである。翻訳家の方も、「ミカエルは質問にまっすぐ答えませんね」と苦笑いして言っていた。
なぜそのズレを感じるのか。
質問者の視点と、ミカエルの視点で大きなズレがあるのだろう。そのズレとはレイヤー(層)のズレではないだろうか。つまり質問者が意図したレイヤーと、ミカエルが相手にしているレイヤーがまるで異なる。それをズレとして認識しているのだ。
異なるレイヤー
ではどのように異なるのか。
例えばトラウマについての質問をミカエルが受けたとする。
この場合、質問者自身もトラウマを抱えており、その解決策を求めてミカエルに尋ねる。しかし話すことが憚られるため、あえて一般論として質問を投げる。つまり一般論の装いをした個人的な質問をする。そのため「個人レベルのトラウマについての一般論」として「解消法」を期待する。
しかしミカエルは「そもそもトラウマとは何か?」という「そもそも論」から入る。そのそもそも論から、トラウマがどのように人類に影響を与え、社会に影響を与え、というトラウマと人類の関係性について語る。だから個人的なトラウマの対処法を期待していた質問者からすると、「何かずれた答え」という認識になる。でも全くずれているわけでもないので、なんとなく納得した気になる。
ミカエル話法
実はこの「ミカエル話法」には、普段のクラスに通じるシステマの論理構造を見ることができる。
システマを学び始めた人がまず面食らうのが、「対処法を教えてくれない」ということだ。「ハイキックがきたら、こう受ける」「タックルがきたら、こう対処する」といった、格闘技や武道にありがちなパターンが一切、出てこない。
そうではなくて、理解することを教える。
人の体がどうなっているか、人の心理がどうなっているか。自分がどんな状況に置かれているか、それに対して自分がどんな反応を示しているか。
これらの情報を集め、分析し、理解することを教える。つまり情報のインプットと整理を優先させる。
すると自ずと、対処法がわかってくる。
敵の位置も規模もわからないのに、闇雲に撃ち返したって意味がない。でも位置と規模、目的といった情報を収集できれば戦いを戦略的に進めることができる。
対処法は千差万別だ。ある人に使えるものが、他の人に使えないなんてことはざらだ。状況が異なれば、なすべきことは全くことなる。だからマスターキーのような万能の対処法はない。でも情報を得て、理解するということは万人に共通する。これが戦いのマスターキーなのだ。
だからミカエルが語る時はまず問題の背景を理解させようとする。それも問題の根元から理解するために、これ以上遡りようがないくらいの「そもそも論」から話が始まる。そうやって時間や空間を超えたマクロな視点からまず問題を語り、徐々に個人レベルのミクロな視点へとシフトしていくのだ。
ミカエルのミクロ話法
ただ必ずしもその順番で論理が展開する訳ではない。しばしば見られる例外が、質問者が極めてプライベートな質問を、具体的にしたケースだ。その場合はミカエルは質問者にいくつか質問を浴びせて、問題の輪郭を明確にしていく。そしてその問題の核に切り込んでいく。つまり情報収集の対象が質問者となるのだ。質問者がどんな人で、どんな環境に過ごし、何を問題と感じているのかということを、理解するのである。
その過程で、質問者自身も気づいていなかったことに気付き、傍にいる聴衆も問題の核に迫っていく。そして不思議なことに多くの問題は、その問題が明確になった時点で解決してしまうのだ。
内在した感情や違和感は、本人と一体化してしまっている。だからこそ言うに言われぬストレスを感じる。それが言語化されることで自己から切り離され、客観視できるようになるのだ。
ミカエルはその手伝いをする。
そして聴衆も悩みを客観視するプロセスを共有し、悩みの解消をとも体験する。
システマのクラスを日常に生かす。
ミカエルとの対話は、創始者自身がそれをどう実践しているかを目の当たりにできるまたとない機会だと思う。
ミカエルがシステマのコンセプトを語り、ヴラディミアが具体的なワークを提示する。期せずして構築されたこのバランスは最高だ。体を動かす練習がメインになる都合上、クラスで練習するのはヴラディミアのウェビナーの内容が主になる。しかしその根底にはミカエルの教えがあるのだ。
システマ東京が主催するミカエル・リャブコ、ヴラディミア・ヴァシリエフによるウェビナーの最新情報はこちらからどうぞ。
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