見出し画像

動きを深める読書ガイド-二人の野口先生編

二人の野口先生

身体の使い方に興味を持つようになって、色々な本を読んだ。

私は何を学ぶにしてもまずルーツを辿るので、源流となる書籍や流儀に行き着くことになる。大きな影響を受けたのは、野口整体と野口体操だ。奇遇にも同じ「野口」姓の人が同時期に創始したため混同されがちだが、それらを学ぶことで得たことが、システマを学ぶ上でも大きく役立っている。

野口整体の本

甲野先生を始めとして、私がいた古武術界隈にいると野口整体の話はしばしば耳にする。それで興味をもって本を読み始めたところハマってしまって、刊行されているものはだいたい読んだ。一部は図書館で、図書館にない分は全生社から直接取り寄せて読んだ。

野口整体の創始者は野口晴哉師。10代の頃から天才治療家として名を轟かせたが、ある日突然、治療をやめてしまうのだ。

私が特に読んだのが、エッセイだ。整体の専門的なことは読んでもよく分からない。風邪をひいたら足湯するみたいな技術的なことや、健康法的なことよりも、断然「どのように生命に向き合うのか」という根底の哲学のところに興味があったからだ。

一般的には「整体入門」や「風邪の効用」が入門書ということになっている。

野口整体の全体像をざっくり掴むために最初に読む本、という意味ではこれらはとても良いとおもう。

ただ、健康法として野口整体をみてしまうのは、ちょっともったいない。生命の本質、動きの本質に迫る哲学としての野口整体に触れるなら、やはりエッセイのほうが良いんじゃないかと思う。

上記の「大絃小絃」もそうだし、「叱り方褒め方」などの潜在意識教育関連の本も良い。

Amazonだと高い中古が目につくのだけど、野口晴哉師の著作は意外と図書館に置いてあるし、全生社から直接買うことも可能だ。

野口整体といえば人体を12種に区分する体癖論があるのだけど、これはなかなか取り扱いが難しい。本来、体癖論とは人をより深く洞察するために生まれたものだ。だが下手に体癖論をかじると、それが色眼鏡になってしまって逆に人のことが見えなくなってしまうのだ。

野口晴哉師の白眉は、「治療を捨てた」という点にある。

だから病を取り去ることはしない。むしろ活かす方法を「指導」する方向にシフトする。なぜ野口晴哉師がそこに至ったのか。その裏側にある思いや経緯に思いを馳せながら読むと良いんじゃないかと思う。

その意味では、野口昭子夫人の著作が良い。

もともと「朴歯の下駄」というタイトルだったが、近年になって「回想の野口晴哉」というタイトルでちくま文庫から発売された。タイトルになった「朴歯の下駄」は野口晴哉師が愛用していたもの。私が整体協会本部に通っていた時は、玄関の下駄箱の一番上に朴歯の下駄が置いてあったものだ。あれは今でもあるんじゃないかな。

野口整体はそこから派生した先生の活躍で広く世に知られることになった。岡島瑞徳師、河野智聖師、三枝龍生師、片山洋次郎師などがそうだ。甲野善紀先生は治療家ではないけど、野口整体の名前を広めた功労者である。あとは身体均整法もそう。創始者の亀井進師は野口晴哉師と一緒に研究をしていたが、考え方の相違で袂を分かつことになった。だから今でも野口整体の体癖論と均整法の12種体型学はそっくりだ。また精神科医の名越康文先生も野口整体の影響を受けているので、性格診断に関する本はもろに体癖論だったりする。

それぞれのアプローチに良さはあるし関連書籍は膨大にある。でも探源という意味ではまず野口晴哉師の本に触れるのが良いのではないかと思う。

野口体操の本

野口体操は学芸大の教師野口三千三師によって創始された体操である。

20年ほど前に亡くなったが、今は羽鳥操先生が後を継いでいる。最近、YouTubeチャンネルが開設されたのもちょっとした話題になった。

最近、いろいろな形で広まっている、身体をゆすってゆるめる系のボディーワークは、多かれ少なかれ野口体操の影響を受けているんじゃないだろうか。野口体操の書籍はそれほど多くはない。中でもド定番と言えば、なんといっても「原初生命体としての人間」だろう。

あとは「おもさに貞く」も良い。野口体操のホームページもある。

私は野口体操については実際のクラスにほとんど出ていない。朝カルで行われていた羽鳥先生のクラスに一期出ただけで、あまりピンとこなくて続かなかった。ただ、時期が最悪だったってのもあるように思う。野口三千三師が亡くなった直後だったのだ。ほんの数ヶ月の入れ違いで、野口三千三師にお会いすることが出来なかった。もしあと1年早く朝カルで、創始者本人にお会いできていればずいぶん印象も変わったんじゃないだろうか。

ただ力の抜き方や重みの感覚など、野口三千三師の本を読みながらあれこれやってみたのが良かった。野口整体が「生命」の根源に迫るなら、野口体操は「動き」の根源に迫る方法論だと言える。

システマ以前に他にも色々と影響を受けたものはあるのだけど、今でも色濃く影響を受け続けているのはやっぱり二人の野口先生だね。


ここから先は

0字

¥ 300

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

お読み頂きありがとうございます。投げ銭のかたはこちらからどうぞ!