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そこで突っ込んだら負けだ

突っ込んだら負け。

人生にはそういうことが多々ある。

例えばミカエルが「合気道のルーツはロシアだ」と言ったとき。

日本人なら総ツッコミだろう。「いやいやいや、植芝盛平が創始したれっきとした日本武道ですよ」と。

しかし、こういう明らかなツッコミどころで、突っ込んだら負けなのだ。

植芝盛平師は出口王仁三郎と大陸に行き、馬賊に囚われた。そしてこの時、コサックはユーラシア大陸全土に広がっていた。だから植芝盛平はコサックと戦い、その際にシステマの源流となるロシア古武術と接し、インスパイアされる形で合気道を構築した。

だから合気道のルーツはロシアなのだ、と。

実はこれが事実かどうかは、どうでもいいし、確かめようもない。合気道の成立、植芝盛平師の行動をロシア側から見たらそう解釈できる、ということだろう。同じ史実でも立場が異なれば解釈が全く変わるのはよくある話だ。

それに「合気道はシステマの影響を受けていない」ということを証明することはできない。「ない」ということを証明することはできない、という悪魔の証明になるからだ。

システマを学ぶ側にとって有益なのは「合気道のルーツはロシアなのだ」と語る、ミカエルの思考回路を探ることである。

そこにはロシア人特有の物事の考え方がある可能性が高い。ロシアの文化や歴史が反映され、それはシステマにも何らかの形で影響を与えている。そしてそれは日本人のものとは根本的に異なる部分がある。

日本人はやはり西側諸国の一員であり、ロシアは東側である。

この構図の起源はとても古く、十字軍にまで遡る。現在の西側、東側の構図は中世に端を発しているのだ。ロシアがトランプを選挙で勝たせたとか、トランプが北朝鮮を訪問したとか、その辺の時事ネタもずーっと根っこを辿れば十字軍まで行き着いてしまうのだ。

現代日本人は、東側の論理に対してとても疎い。学校で学ぶ世界史がほぼ西洋史であるように、西側の一員として西側としての教育を受けているからだ。だから生粋の東側の人たちとは、どこか根本で歴史観、世界観が異なると考えたほうがよい。

どちらが正しく、どちらかが間違っているということではない。

単に、立場が変われば見方が変わる、というだけのことだ。

だからロシア人であり、愛ロシア者であるミカエルが何を考えているかを理解しようとしたら、まずそのへんのことを踏まえなくてはいけない。

中国に中華思想があるように、ロシア人にはユーラシア思想がある。

ユーラシアとは「ヨーロッパ+アジア」。

つまりヨーロッパとアジアの両方にまたがる我々こそが世界の盟主である、という考えだ。その視点に立てば中国やインドはちょっと大きな半島のようなもので、アジアもヨーロッパもまるごと辺境の地ということになってしまう。

「そんな馬鹿な」と、ここでもツッコんだら負けだ。

そういうものだとまるごと飲み込んで、ユーラシアの盟主に対するリスペクトを持つのが良い。それが彼らの誇りであり、彼らの中での真実なのだから。

そうすることではじめて、日本もまた「日出ずる国」としてのリスペクトを得ることができる。

「自分を理解する者は、聡明で力のある者だ」

そういう合理化が働くからだ。

そして実際にそのように接したほうが、お互いにとってメリットが大きい。

だから突っ込んだら負けだ。

突っ込みどころでこそ、そこにどんな真意があるかを探るべきなのだ。

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