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回帰の誤謬〜部下の教育と自己認識に現れる共通の罠

みなさんは回帰の誤謬という言葉を知っていますか? 回帰とは平均回帰のことで、誤謬(ごびゅう)とは誤り・エラーのことです。早い話が、「ものごとはだいたい平均に回帰するのに、その挙動に必要以上の意味を見いだしてしまう」ことです。

多くの日は同じくらいの成果をだすけれども、たまには大当たりもし、たまには大きなミスもするということです。あたりまえ過ぎて馬鹿馬鹿しいかもしれませんが、多くの人は、大当たりも大ハズレも長続きしないこということを忘れがちです。

上記は、日々のパフォーマンスはおおよそ正規分布にしたがうという仮定のもとで論じています。成長がプラトーに差し掛かっている場合で、かつ短いタイムスケールで見る場合は、この前提でも大きな問題はないはずです。
統計が分かっていれば陥らないはずの認識ミスに、統計が分かっていても、人はよく陥ってしまいます。

この回帰の誤謬は、部下の教育の際と、自己認識の際によく現れます。

部下の教育の場合

部下が失敗すればどやしつける上司がいたとします。この場合、残念なことに、部下の翌日のパフォーマンスは(なにもしなくても)その人の平均に戻る傾向があるので、上司は「俺が喝を入れるとあいつはしっかりやる」「あいつがヘマをやったら怒鳴らなければ」と誤学習します。

同様に、部下が上手く行ったときに褒めると、翌日の部下のパフォーマンスはやはり平均に戻ろうとするので、上司はやはり「褒めても碌なことがない」「甘やかしてはダメだ」と誤学習します。

確率上、正規分布のアップサイドだけをとり続けることはできません。上司にできるのは、部下の能力の平均を向上させることですが、そのことを忘れている人はたくさん存在します。

自己認識

自己認識も同様です。自己のパフォーマンスは正規分布しているのに、パフォーマンスが下がったときに必要以上に自分を責める人がいます

なぜか? 自分を責めた次の日には、ほとんど必ず平均ほどのパフォーマンスが出せるからです。しかし、これは明らかに誤りです。パフォーマンスは勝手に平均回帰するのだから、自分を責めても責めなくても平均には戻るのです。

同様に、自分が高いパフォーマンスを出せたときに、良い気分になることを極端に嫌う人がいます。なぜって、やはり次の日は平均までパフォーマンスが落ち込むからです。それは誰のせいでもなく、統計的な真理に過ぎないにも関らず。

一番つらいケースは、正規分布のアップサイド「たまたま上手く行った自分」を本当の自分だと誤解している人です。こういう人の場合、毎日のパフォーマンスの八割くらいは納得いかないはずです。そういう人は、自分のパフォーマンスの平均値を測り直すことが大事です。

自己認識の場合も部下の教育の場合と同じく、できることは、その日その日の短期的なパフォーマンスの上下に一喜一憂するのではなく、平均値を上げられるように、長期的な目線で能力向上に努めることです。

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数年単位のスパンで見れば、人は意外と他者の失敗は憶えていないし、成功実績だけを記憶しているものなので、継続して学び続けていれば良いのだと思います。何かミスった日は不貞寝して、明日平均に戻れば良いのだと思います。

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