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自分の論文と同じテーマの捏造論文を見つけたので通報してみた


ある日、google scholarから気になるタイトルの論文がオススメされてきた。タイトルを見る限り、私が学生の頃に書いた論文に非常に近い話のようだ。

この論文は、とある確率モデルの振る舞いについて計算したものだ。この分野では、厳密に計算できるモデルは限られているので、解けることが知られていない(現実的に意味のある)モデルを提案して解くと、研究成果として認められるという文脈がある。

似ている内容

さて、この論文で提示されているモデルだが、私の論文で昔提示したものと酷似していた(該当論文に対する引用は無い)。ちなみにそれ自体は大きな問題ではない(少しでも違っていれば)。ただ、私の論文では、解けるギリギリまで一般化しているつもりなので、そこからちょっとでも何か変更を加えたモデルは「普通は」解けないはずである。

不自然に似ている式変形が…

なにか新しい理論的な進展があるかと思いながら読み進めると、どこか見覚えのある式変形が・・・
似たようなモデルを計算しているのだから式変形が似るのは当然なのだが、明らかに私の論文(のいくつか)から式変形をそっくりとってきている(特定のマニアックな文脈でしか、やる必要のない計算が含まれていたり)。ただ、モデルが微妙に違う分、式の形が少しだけ異なっている(単純な変数の置き換えレベル)。

怪しい結果

そんなことを思いながら読みすすめていると、あることに気がついた。
これ成り立ってなくないか…??
しかし、著者らが示している、数値実験の結果と、理論による予測は見事に一致している(普通、これをもって、計算が正しいことを確認する)。しかし、よく見ると、実験結果と理論線が論理的にあり得ない領域にまでプロットされていることに気づいた。これ、「やってる」のでは・・・

そう思い、同じセッティングでシミュレーションを実装してみた(昔取った杵柄である)。論文を読むと、そもそも実験を行う際に指定しなければいけない重要パラメータに関する記述がすっぽり抜けており、そもそも数値実験をやっているのかすら怪しいが、それはさておき(このパラメータに結果が依存しないという理論を提示しているので、それが正しいとすれば何に設定しても良いはずだ)、やはり全然違う結果がでてくる。。。ちなみにこの出てきた結果は簡単な近似計算で説明がつくので、私のシミュレーションが間違っているわけではなさそうだ。

つまり、彼らは私の論文を参考に架空の理論をでっち上げ、それに整合する実験結果を捏造して、それらが一致していることを示しているのではないかという疑惑がでてきたわけである。

通報してみた

これは放ってはおけまいということで、以上の結果をレターにまとめ、ジャーナルに連絡をしてみた。ちなみにこのジャーナル、acceptance rate 20%、impact factor 4.3程度の数学系では恐らくそれなりにしっかりしたジャーナルである。

剽窃および捏造の疑いということでレターを投稿したのだが、一か月ほどして、編集委員の評価で「剽窃とまではいえない(モデルが少し違うから)」という連絡が届く。アイディアと式変形を模倣しているのはほぼ明らかなので、この結果にはやや疑問も残るが、まあ良いだろう、こちらにはまだ捏造がある。というわけでレターを修正して出し直せといわれ、対応。

このあとどうなるかというと普通のComment論文として処理されるとのこと。その場合、私が書いたレターが著者に送られ、著者には反論を書くチャンスが与えられる。その二つを外部のレビュワーが審査し、
1.私のレターだけ掲載
2.私のレターと著者の反論合わせて掲載
3.何も掲載しない
のどれかの判断が下る。

私のレターでは、言い逃れができないように、著者らの結果がいかに間違いであるかを徹底的に証明しているので、反論のしようがないはずである。というわけで、反論は来ずに終わるかと思いきや、驚きの展開がまっていた。

大反論(捏造)

エディターから連絡が来た。どうやら著者から反論が返ってきてレビュワー回ったらしい。そして、レビュワーが彼らの反論に対して私の意見を聴きたいといってきたとのこと。

送られてきた反論を見ると、何やら怪しげだが尤もらしい理論計算が大量に書かれている。また、追加で色々なシミュレーション結果も示されている。なんなんだこれは???

一瞬、私の壮大な勘違いだったのだろうかと思わされたが、幸い、そうではなかった。よくよく読むと、論文本文には記述の無い、謎の新しい理論をでっち上げる(しかも説明が雑で何をしているのかが非常に分かりにくい)ことでレビュワーを煙に巻くような内容で、一つ一つ精査していくと完全に支離滅裂なことが分かる。完全に舐めていたが、相手は捏造論文を通し切っているわけで、この手のごまかしは朝飯前というわけだ。

しかも、「こちらはデータもすべて公開します」などとオープンレポジトリにアップロードしているが、日付は最近のもので、私が指摘した「論理的にあり得ないデータ」は綺麗に削除されていた。また、追加で出してきたシミュレーション結果(今回は正しく実装したと思われる)は私が最初に示した結果とほぼ一致していた。

これらをまとめて再度、彼らがいかにめちゃくちゃなことをやっているかを示してレビュワーに送付した。

決着、その後。。。

その結果、程なくして無事、私のレターだけacceptされ、彼らの反論はrejectされた。これで彼らの論文に書いてあることが滅茶苦茶であるという主張が認められたわけだ。現在は、彼らの論文タイトルページに私のコメント論文へのリンクが付されている。

ここで、あることに気づいた方もいるしれない。そう、元の論文は撤回されず、そのままのうのうと掲載されつづけているのである。恐らくこのような出鱈目なものを掲載したことに対するペナルティも受けていないのではないだろうか。

特にジャーナル編集委員からの連絡もなく、恐らく本件はこれで幕引きということになりそうだ。私としては別に著者らを罰することに興味はないのでどうでもいいことだが(したがって著者や論文タイトルについてはこの記事では特に示していない)、なんとも歯切れの悪い結末ではある。ここまで悪質なケースは多くないのかもしれないが、このような行為が世の中から無くなることを祈るばかりである。

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