見出し画像

親を悲しませた夏、2024

7月、定年してすぐ父が倒れた。

食事がとれず、
体も声も別人のように痩せ細り

若くてかっこよくて自慢だった父は
祖父以上におじいちゃんになっていた。


実家は車で片道1時間ほど。

話し相手になって励まそう。
散らかった家を片付けて気持ちよく暮らしてもらおう。
クーラーをつけよう。
映画好きな父のために動画のサブスクも。

そんなこんなで何度も行った。

クーラーをつけるのが特に難題で
設置できたと聞いたときは奇跡に感謝した。

それでも
4畳半の和室につけられるエアコンはないそうで
父のベッドは同じ2階の洋室に移動した。

一日中寝てるのも暇だろう。

寝ながらテレビが見られるように
テレビも移動しよう。

「この辺に台持ってきて置くよー」

父に声をかけて作業をはじめる。

液晶32型なのにやたら重い。
懐かしの亀山モデルAQUOS。
腰痛持ちにはキツイ。

しかし、定年した父に
できるだけ快適に暮らしてもらいたい。

姉は仕事が忙しいらしく
車で5分の距離なのに全然来ない。

私がやるしかない。

周辺機器の配線を次々と引っこ抜く。

なんとかテレビの移動ができた。

あとはブルーレイも移動してと……

そのとき

「なんかお父さん泣いてるわ」
母が言った。

ん?

最近よく怒ったり泣いたりするとは聞いてたけど

今?

娘に迷惑かけて申し訳ないと思ってるのかな。

隣の部屋をのぞく。


「こっちの部屋でテレビが見たいなんて言ってない……俺の楽しみを奪わないでくれ……」
そう言って父は静かに泣いていた。

──思考回路がうまくはたらかない。

ただハッキリわかるのは

良かれと思ってしていたことは

父を苦しめていた。

え……

どこから?

いつから、そう思ってた……?

父に謝り、テレビと周辺機器、配線を元に戻して
そそくさと帰る。

帰り道で泣いた。

わたしは、傲慢で無力だ。


心のどこかで
自分が絶対正しいと思っていた。

その結果、
『わたしがかんがえたオトウサンノシアワセ』を
押しつけて苦しめた。

娘がわざわざ来てがんばってくれてるから、と
飲み込んだ言葉。
それが抑えきれないほど
つらい思いをさせてしまった。

この胸に打たれた杭は
生涯抜けない予感がした。

そしてわたしを大きく変えた。

痛みと引き換えに得たことも


そのとき頭に浮かんだのが

今取りかかっている
ダイエットのコンテンツのこと。

これとまったく同じではないのか。

『わたしがかんがえたさいきょうのダイエット法』を
押しつけるものではないのか。

実際に、
先日こんな質問をいただいた。

「食べたいものをガマンして痩せるより、好きなものを好きなだけ食べる人生の方が本当は幸せなんじゃないかって考えてしまいます」

即答だった。
「それは辛いことから逃げる言い訳です、痩せた方が幸せに決まってます」

はたして、本当にそうなのだろうか。

ふたたび、実家のはなし


実家はゴミ屋敷だ。
さらに、身体に障害のある妹は母に頼りきりで
1人では外にも出られない。

この2点を私と姉はとても不安に感じ
ことあるごとに骨を折ってきた。

ある時は部屋を片付け、
ある時は妹の話を聞き、改善策を提案する。

しかし片付けた部屋はまたゴミで埋まり、
妹の生活はなにひとつ変わらなかった。

今やっとわかった。

父も母も妹も、変わりたいなんて思ってないのだ。

口では言う。
「家が片付いたら人生変わる気がする」
「ちょっとは自立してくれないとね」

真にうけていた自分にドロップキックだ。

正直、
言ってることが本心かなんて
本人にもわからないんだと思う。

心からの願いですら、
“こうしなければいけない”と思うことを
言葉にしてるだけの可能性もある。

後悔なく寄りそうには
言葉のむこう側の本心を見つけ出すことが必要なんだ。

それは、自分が絶対正しいと思っててはできない。

だけど現実には
“正しいこと”というのは、ある。

例えば、
ゴミ屋敷ではなく快適な住まいにすること。
痩せて健康になり心身ともに前向きに生きること。

これは絶対的に“正しい”。

でも、これがすべての人の正解ではない。

ちょっとイヤな言い方だけれど

ゴミ屋敷で体にムチ打ちながら
中年の娘の世話をして生きる。

好きなものを好きなだけ食べて
痩せたいなーと言い続けながら生きる。

これが幸せで、これを選ぶ人もいる。

そして、それを無意識に見下して否定していた私に

罰がくだったのだ。

父の涙は

そんな出来事だった。

この痛みは

これから出会う大切な人たちに還元することでしか報われない、と

強く思った。 

本当の幸せを理解する、という概念を知った私は
知らなかった私よりきっと多くの人の助けになれる。

P.S.

今は体調を悪くして
心身ともに弱ってしまっているけど

父は家族思いで優しくて
世界一いい男だ。

今回はすれ違いでお互い傷ついてしまったけれど

懲りずにこれからも
親孝行を狙っていこうと思う。

ただ、しばらくは大人しくしようと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?