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チキンでも武道館でそれなりに笑いをとれた日のこと

2013年の1月、武道館という大きな大きな舞台のステージに立った。

「8,000人にプレゼンって緊張したでしょう?」とよく聞かれる。

確かに緊張した。でも、それは「8,000の人がいること」ではなかった。

スタッフと徹夜で考えに考え抜いた一言一言を、丁寧に、正しく伝えることができるかで必死だった。

リハーサルでは、一回も成功したことなかったのに、本番は噛むこともなければ、目配せ、身振り手振り含め、僕にとっての「奇跡のプレゼン」が実現した。

そして、ありがたいことに8,000人の人たちから応援と共感をもらって、グランプリになった。

その翌年。過去の受賞者として、また同じ舞台に立った。
今回は、人生初のお笑い芸人との掛け合いで「しずる」の二人と、ユニバーサルマナーをおもしろおかしく伝えることになった。

「8,000人に夢を伝える」から「8,000人の笑いをとりにいく」

これは、去年とはまた違うプレッシャーだった。

僕は口達者な方ではないし、決して笑いに精通しているわけでもない。
お笑いの本場大阪に暮らせど、ショートにオチのつく話をする術も、習慣も持ちあわせていない。

本番当日1週間前くらいから、武道館が静まり返ることを夢見たり、いよいよ、どうにか欠席できないかと思索を巡らせた。

そして、当然のことながら、ドタキャンする度胸もない僕は、武道館の会場で、吐き気を抑えながら、楽屋の弁当を食べた。

なんかお腹に入れたら落ち着くだろうとたかをくくったところ、さらに吐き気が強くなって、ステージ上で嘔吐しないかなどと、余計な不安をふくらませる結果になった。

リハーサルでは「風邪か!?昨年の垣内はどこいった!?」と、やはり運営スタッフの皆さんにも、不安を与える始末だった。

そして、楽屋で待つこと3時間。いよいよ本番。

去年もこれくらい待って、待ち時間で疲れきっていた。

「どーもー!」

お笑い芸人さながらの快活な掛け声とともに、最初で最後であろう僕のお笑いステージが始まった。

去年の武道館では、8,000人は景色でしかなかった。
武道館より、30人、50人、100人の講演の方が、聞いている人の顔も、反応もわかるからよっぽど緊張する。

でも、違った。今年は、8,000人の顔が見えた。
去年の数十倍緊張した。

目の前にいる人たちに笑ってもらえているだろうか。
二階席にいる人たちにちゃんと聞こえているだろうか。
目の前にいる審査員の重鎮の方々はどんな反応だろうか。

そして、気づけば、ウケるかどうか、吐かずに終われるか、そんな不安を吹き飛ばして、一つの成長を感じた。

8,000人と向き合って話せることに感動すら覚えた。

結局、ステージで嘔吐することなく、無事終わった。
「面白かったです!」「めっちゃウケてましたよ!」
TwitterやFacebook、会場にいた人たちの声を聞いて、
数時間続いた吐き気は収まり、スベることへの悪夢を見なくなった。

これは、講演先に向かう新幹線の中で書き綴った記事。その日は、50人程の人が僕の話を聞きに来てくれるらしいと知った。

今日も、ちゃんと顔が見える、反応がわかる。
今日も、伝わりやすいように、丁寧に伝えよう。

今日も、そんなことを考えていたら、武道館と同じように緊張している。

きっと僕はこんな風に、いつまでたってもチキンだ。

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