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糸魚川大火から7年 ━ 雁木の町の復興とその課題(後編)

[寄稿]Pen name: 藤倉かずま-高2, 実務長

前回の記事はこちらからご覧いただけます。

4. 復興が進む糸魚川

7年前の大火によって大きな被害を受けた新潟県糸魚川市。大火後、今回のような災害を二度と繰り返さないよう、市が「今までにない町づくり」を掲げ、復興計画が策定されました。
まずは、初期消火を迅速に行うための水源として、町中心部の地下に大型の防火水槽が設置されました。この防火水槽の真上にあたる場所に建てられたのが、駅北広場「キターレ」とよばれる交流施設です。開放感のある平屋建ての建物で、大火に関するパネル展示や実際に使用された消防器具の展示、消防関係者や一般の視察客の受入、ワークショップ等の各種イベント等の実施など、復興と絡めた様々な事業の拠点となっています。

新たに整備された駅北広場「キターレ」。地面の色の薄い部分に防火水槽が埋まる

間口が広く取られているのは、非常の際には窓を開けて、建物の地下に埋まっている防火水槽から水を取るをためだといいます。その他、キターレの敷地内に独自デザインのマンホール蓋を設置し、通常は市役所で配るマンホールカードをここで配布しているのですが、集客効果は『かなりある』とのことで、 熱心にカードを集めている小学生も見たことがあるそうです。

再建して日の浅い街角の金物店

その他にも、再建の予定がない被災者のために公営住宅を整備したり、駐車場や空き地を市が買い上げて公園(兼防火帯)として整備したりと、ハード面を中心にさまざまな施策が進められましたが、特に課題となったのは、糸魚川の町の象徴でもあった雁木の町並みの復興でした。

5. 雁木の町並みをいかに守るか

そもそも雁木というのは、道路管理者や商店街組合が設置するアーケードと異なり、沿道の商家が各々の判断で庇を伸ばし、歩行者に自分の敷地を歩かせるためのものです。1階が商店・2階が住居という伝統的な商家が多かった頃は、サービス精神のアピールや店先への人流形成など色々なメリットがあったのですが、商店が廃業して1階が居住スペースに変わったり、更地にして駐車場として収益化を図る家が出たりして、昨今は雁木の設置がますます難しくなっています。

大火後に新築された雁木。よく見ると所々歯抜けになっているのが分かる

統一感のある町並みは、連続性があってこそのもの。市では、通りに雁木を設けたり、屋根瓦の向きを揃えたりする家に補助金を出して、何とか『まちなみへの美意識』を守ろうとしています。被災した本町通りの周辺を歩いてみると、駐車場の入口、ひいては新築のマンションの裏手にまで、瓦をのせた立派な雁木が建てられているのはこのためです。

雁木をもつマンション

ちなみに、大火が国から災害指定を受けたことが幸いして、こうした復興にかかる費用の大部分は国費により賄われています。雁木の維持は糸魚川に限らず多くの地方都市で課題となっていますが、他の各都市が糸魚川のような取り組みを行えるとは限らない点は、一応頭に入れておく必要があります。

6. 今も残る課題と復興の今後

さて、復興が進み美しい町並みを取り戻しつつある糸魚川の町ですが、この先も解決すべき課題は多く残されています。その1つが、他の地方都市でも多くみられる、「中心市街地の空洞化」という問題です。

焼失地域(黒色)と市街地(赤色)の位置関係を再掲。都市機能の中心は線路の南側に移りつつある。

先ほど紹介したように、大火のあった駅北地区は、古くから商家が形成されていた旧市街です。線路を挟んだ糸魚川駅の南側は、新興住宅地として発展しつつありますが、対する駅北地区は人口が少なく、「スーパーやコンビニに来てもらえる町ではない」とのこと。よく言われる「商店街とスーパーの競合」といった対立の構図は存在せず、むしろ買い物場所の確保そのものが難しくなっているのです。 商業施設の誘致は難しいので移動販売などを活用していく他ない、と担当の方は仰っていました。

駅北に建てられた罹災者向けの公営住宅。買い物は不便な立地という

さらに、こうした「町づくり」より難しいのが、地域のために動き出す人を探す、いわゆる「人づくり」の推進です。復興公園で町づくりに関するワークショップを実施し、活動の輪を広げようとしているそうですが、地域の持続性という意味での復興はまだ先の話。大火後、地域の力になりたいとUターン/ Iターンする人も増えたので、今後も受け入れていく必要があるとのことでした。


糸魚川大火発災7年に合わせて、当時の状況から復興に至る道筋までを順に紹介してきました。もともと「無数の個人の判断」によって作られてきた町を、足並みを揃えて一体感のある形で復興すること、そして個人の中から地域に貢献する人材を見出すことの難しさが、お分かりいただけたかと思います。糸魚川の復興の行く末を、今後も興味をもって見守っていきたいところです。

参考文献

※今回の記事は、「キターレ」で実施している視察のプランを活用し、筆者自身が昨年8月に現地で伺った話をもとに執筆しています。1人2000円を支払えば、職員の方の解説を聴きながら町を案内していただけますので、機会があれば皆様もぜひ足を運んでみてください。
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