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【パロディ】アリとキリギリス(9)

 あるところに、働き者のアリと遊び好きのキリギリスがいました。
 キリギリスはバイオリンが大好きでした。夏の間、キリギリスはずっと涼しい日陰でバイオリンを弾いていました。
 その間、働き者のアリは暑い日照りの下で、冬のために汗を流しながら、一所懸命働き続けました。
「キリギリス君、暑い夏のあいだに冬の食料の準備をしておかないと、冬になって苦労するよ」
 アリがキリギリスに忠告しても、
「僕は今が楽しければいいのさ」
 と言って、キリギリスはアリの忠告をいっこうに聞こうとはしませんでした。

 やがて冬が来ました。
 歌を歌い続けたため、冬の食糧の準備をしていなかったキリギリスは、食料が底を尽きましたが、決して悲観はしていませんでした。なぜならキリギリスは途轍もない悪だくみを考えていたのです。
 キリギリスはアリの家を訪ねました。

 キリギリスはアリの家のドアをノックしました。
「コンコン」
「はあい」
 アリが顔を見せたとたん、キリギリスは持っていた銃をアリに向けました。
「食料を出せ!」
 アリは驚きました。
「キリギリス君、どうして……?」
「食料がなくなったんだよ。どうせ君はたんまりため込んでるんだろう。僕が持てるだけの食料を持ってこい。持ってこなければ、どうなるかわかってるよね」
 銃を向けられたアリにはどうすることもできません。アリは奥からありったけの食料を持ってきて、キリギリスに渡しました。
 やがてキリギリスはアリから奪った食料を持って、アリの家から素早く立ち去りました。
「ひどいよ。キリギリス君」

 アリから食料を奪ったキリギリスは、一人ほくそ笑みました。
「これで冬のあいだの食料は完璧だ。僕は最初からこれを狙ってたのさ」

 その時です。
 空に稲光が走った瞬間、ものすごい轟音がして、雷がキリギリスめがけて落ちてきました。
 薄れゆく意識の中で、キリギリスは考えました。
「バチが当たったのかもしれない。やはり悪いことはできないものだな」
 やがてキリギリスは息絶えました。

(教訓)
天網恢恢疎にして漏らさず。

(曲)
冬の稲妻(アリス)

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