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【講評】山の炭焼き小屋

あさきさんの作品です。

この作品を読んで、ふと思いました。
私が拝読した応募作品は、すべて文章が読みやすくて、質が高いです。
もちろんこの作品も例に漏れず、質が高いです。

次に枚数。
私が講評する作品は必ず字数チェックをされると思ってください。
なぜなら、たった3000文字で物語を作るのです。字数が多いほうが絶対に深みのある話が作れますから。
そういう貴重な3000文字を大切にして欲しいのです。

本小説の文字数は1631文字です。
もったいない。実にもったいない。
せっかくのいい話、泣ける話なのに、あと1300文字使えば、もっと泣ける要素を盛り込めるじゃないですか。
父との思い出とか、父との会話とか、なんでもいいんです。
いろいろな話を入れて、もっと読者を泣かせましょうよ。

そう、この作品は泣けるいい作品なんです。
男手一つで私を育ててくれた、無骨だけど優しい父の一生。
ずっと炭焼きをやめなかったのだけれど、その炭焼きに誇りを感じていた父。最後にその父が亡くなるのですから、そりゃ号泣ですよ。

だからこそ残った1300文字を使って、もっと泣かせましょうよ、ということが作者に一番言いたいことです。
もっと文字数を使って、父との思い出を書きましょうよ、と。

それでは内容に移ります。
この小説も、段落の字下げがないですね。
今回の応募作品の中にも、段落の字下げのない小説が散見されました。
あまりこだわる必要のないところですから、今までの小説の作法を踏襲して欲しいです。

次に細かいことですが。

父は相好を崩さず、笑顔で応えた。

せっかくのいい話なのに、ここで読むのがいったん止まります。
「相好を崩した」を間違って使っています。
この場合、「父は相好を崩した」でもいいですし、「父は笑顔で応えた」でもいいです。
誤字とか脱字なら、変換ミスかな、とか、間違って削ったな、とかで済むのですが、言葉の誤用は読者(審査員)を萎えさせるので注意してください。

父はこの頃から右足が悪く、ひょこひょこと歩いてきた。

この表現はいいですね。
元気だった父が、足を引きずって歩いてくる。
さらりとこういう表現で、父が弱っていることを描写したのは、素晴らしいと思います。
こういうのがたくさん欲しかったです。

他にも少し気になるところはありましたが、この作品に関していえば、やはり圧倒的に気になるのが、字数の少なさです。
いや、字数の少なさではなく、なぜもっと父親とのエピソード(泣かせ要素)を書かなかったのか、ということです。

たとえば、太平洋戦争から帰ってきた父は、戦争のことを絶対に語ろうとしなかった、とか。
あとは、夫が父に挨拶に行ったときの父の様子とか、父と夫との会話とか。
どれだけ父が主人公のことを思っていたのか、炭焼きに誇りを持っていたのか、そういったところを、父に語らせてもいいと思います。
または祐一さんに父のことをもっと語らせるとか。
父に感情移入してもらう話はいくらでも作れますよね。

泣かせたいなら、泣かせる要素をてんこ盛りにして、徹底的に読者を泣かせようとしてください。

あと、この作品は父の一生を掌編小説に書いています。これが悪いわけではまったくないのですが、この字数で期間が長いのは、難易度が高くなるので、注意してください。

絶対に守る必要まではないのですが、小説の枚数とその期間について、私が目安にしているのは、下記の通りです。

1日から1週間……原稿用紙10枚程度。
1カ月くらい……原稿用紙100枚程度。
半年くらい……原稿用紙200~300枚程度。
1年くらい……原稿用紙500枚以上。

あくまで目安なので、例外だらけですけど、参考にしてもらえればと思います。
※絶対に守れと言うものではないですよ。あくまで目安。

最後になりますが、泣けるいい話です。
癒されたいときには、この小説はお薦めです。作者の優しい気持ちが伝わってきます。
皆様もぜひご覧になってください。

小説が面白いと思ったら、スキしてもらえれば嬉しいです。 講談社から「虫とりのうた」、「赤い蟷螂」、「幼虫旅館」が出版されているので、もしよろしければ! (怖い話です)