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8月32日(6)

 いろいろ考えていたら、僕はだんだん不安になってきた。
 もしかしたら、敬介叔父さんの言う通り、僕は仮想空間の人間で、だれかの作ったプログラムの上で動作してるんじゃないかって思えてきた。
 だとしたら、なんらかの操作ミスで、プログラムのバグを引き起こした。そして8月31日の次の日が9月31日ではなく、8月32日になったんじゃないかって。
 そうして敬介叔父さんの言う通り、プログラムの想定外の処理なので、なにが起こるかわからないって。なにか起こったときが、世界の終わりじゃないかって。
 ひょっとして、僕が夏休みの宿題をやらなかったから、こんな特殊なことが起こってしまったのかな。だとしたら、誤動作を生んだのは僕の動きだったって考えられはしないだろうか?
 僕は激しくかぶりを振った。
 そんなことがあるわけがない。僕が仮想空間に生きているなんて、そんなのは突拍子もない想像に決まっている。
 不安になった僕はテレビをつけて見ることにした。
 だけど、リモコンがない。
 しばらくリモコンのありかを探してみたけど、テレビのリモコンが見つからない。
 おかしいなあ。部屋にテレビはあるのにリモコンが見つからない。
 それからしばらくリモコンを探してみたけど、リモコンはどこにもなかった。
「どうしたの?」
 気づくと、お母さんがシャワーからあがっていた。
「テレビのリモコンがなくてね、探してたの」
「たしかにリモコンが見つからないわね。でも、なんでテレビが見たいの?」
 僕は敬介叔父さんの話をしようと思ったけど、なんだか相手にしてもらえなさそうで、口ごもってしまった。
「いいじゃない、テレビなんて見なくても。いまは旅行中でしょ。そんなこと忘れて今日も遊びに行きましょう」
「今日も遊びに行くの?」
「そうよ。今日は山のほうに行こうと思ってね」
「なんか夏休みの楽しいメニューが満載って感じだね」
「そうよ。今日はせっかくの夏休みの旅行だからね」
 でもどうしても気になることをお母さんに聞いてみた。
「ねえ、僕、まったく宿題ができてないんだけど、大丈夫かなあ」
 お母さんは微笑んだ。
「旅行のときなんだから、宿題なんてしなくていいわよ」
 少し違和感を覚えた。いつもガミガミ言うお母さんが、どうしてそんなことを言うんだろう。

(続く)
 

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中学受験 将棋 ミステリー 小説 赤星香一郎
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