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NPC


 魔王のせいで生活はめちゃくちゃだったんだ。うちの村も農作物は芽のうちに焼き払われるし、女はさらわれるし。
 人間同士もギスギスしてていさかいとかもホント多くて、辛かったんだよ。

 でも、俺がどれだけ泣いてても、近所の爺さんにぶん殴られても、いつも兄ちゃんが助けてくれたんだ。

 気は優しくて力持ち、っていうの?
 マジでそれを地で行く人でさ。俺を殴った爺さんを必死になだめて、俺にもすごく優しくて、でもゴロツキが来たら徹底的にのしてさ。
 うちの村には学校がなかったせいで学がなくて識字とかはできなかったし、まあ、その、兄ちゃん正直頭はそこまで回る方じゃなかったけどさ、本当に優しい人だったんだよ。

 その優しさを他人も持ってると思ってるせいで騙されやすくて俺はずっと心配だったけど。
 でも、それに対して「おまえは、おれとちがってカシコいからなぁ」なんて言われちゃったら、ホントさ、もうこれ以上トゲトゲ言えなくなるじゃん。

 そんなときにアンタが来てくれたんだ、勇者様。
 希望の光とか救いの糸とかほんとにあるんだなって思った。
 兄ちゃんのこと必要だって、パーティに入れるって言ってて、心配だったけど誇らしかったよ。
 兄ちゃん頑張ってねって、英雄の弟だって自慢させてねって鼻水垂らして泣きながら見送ってさ。

 ……うん。勇者様、ホント魔王倒してくれてありがとうな。
 今は村は豊かだよ。ある日突然死ぬかもしれない、なんて考えることなんてなくなって平和そのものだよ。

 兄ちゃんは、帰ってこなかったけどさ。
 勇者様はあのとき兄ちゃんを送り出した俺みたいに泣きながら語ってくれたもんな。最期までかっこよかった兄ちゃんの姿。
 魔王の魔法から守るために盾になって、アンタたちに笑顔で「ダイジョウブだから、みんなにげろ」と言ってさ。

 ……。
 …………。

 笑顔、向けてたんだよな?
 アンタらに。
 焼けるとしたら背中、だよな?
 これしか連れて帰ってこられなくてごめんってアンタらが差し出した兄ちゃんの左腕、なんで手のひらがズタズタなの?

 てか勇者様のパーティに居た僧侶様、俺の村に来たときにはとっくに死者蘇生の魔法覚えてたじゃん。

 兄ちゃんはホントにシナリオ上必要なイベントで死んだの?
 ねえ勇者様、ホントに、兄ちゃん笑って死んだ?

 ……シナリオだのイベントがなんなのか分かんないって?
 ああ、うん。それは分からなくていいよ。

 でも勇者様が自分でしてきたことは分かるだろ?
 僧侶様はもう吐いたよ。
 そこに転がってる左腕、装飾品もそのままにしてあるのに見ても分かんないなんて薄情だなあ。

 殺すね、勇者様。
 アンタが死ねばゲームオーバーだけど、この世にはセーブとロード、コンティニューだってあるから大丈夫。
 ロードするたびノートに正の字書いてたけどさ。
 ノート1冊埋まっても、兄ちゃんより名誉が大事なんだね、勇者様。

 次もまた別のやり方考えるからさ。
 じゃあ、また。主人公の勇者様。


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