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壮大なスペースオペラの幕開け、そして終焉

たまには読んだ本のレビューでも投稿してみようと思います。もちろん僕が紹介するのは新刊なんかではなくて、昭和の香り漂う一冊。ネタバレを含む内容になりますので、ご注意ください。


◉きっかけは『宇宙空母ブルーノア』だった

少し前にサブスクで『宇宙空母ブルーノア』を全話視聴しました。1979年(昭和54年)放送開始と45年も前の作品ですが、無人探査機を"ドローン"と呼んでいたり、軌道エレベーターが登場したり(日本アニメ史上初だそうです)と実に先進的な内容で、SF監修をされた金子隆一さんのセンスが光りっていました。お話自体は『ヤマト』に比べて地味なんですが、大人の今観るとなかなか見ごたえがあります。視聴率低迷で1クール分短縮となってしまい、ブルーノアが宇宙空母として活躍するのはラスト4話だけという残念な展開でしたが、総じて面白かったので、そのままの勢いでノベライズ本も読もうと思い、メルカリで全2巻を購入。読み始めたと同時に、作者の若桜木 虔(わかさきけん)さんの名前に興味が湧いて、Wikiで調べてみました。

こちらが『宇宙空母ブルーノア』ノベライズ本。これはこれで凄い内容で、
"完全小説化!"と帯で謳っているのに、アニメであれだけ描かれていた
ゴドム側の様子はまったく触れられていない(人物の登場すらない)のに驚愕します(笑)

すると『宇宙戦艦ヤマト』や『銀河鉄道999』など、松本零士アニメのノベライズも手掛けている方だと知りました! そして、そんな彼の著作の中に『宇宙戦艦ムサシ』というタイトルを見つけたのです。完全に若桜木さんのオリジナル作品。たぶん『ヤマト』を観ていた人なら誰もが一度くらいは妄想した兄弟艦「武蔵」の宇宙戦艦化。それを実際に物語にしてしまった人がいる!・・・もうそれだけで「読むっきゃない!」となるわけです。

◉地球人全員から迫害されている主人公たち

物語の詳しい内容について知りたい方は、上の河嶌さんの記事を見てもらうと良いかと思いますが、ざっくり主人公の設定を整理すると、
・主人公は3人のドリカム編成男女。
・彼らは地球を侵略した宇宙人に襲われた地球人女性から生まれた、
 "パンテラ"と呼ばれる混血児。パンテラは地球人から迫害されている。
・宇宙人たちは皆、母星に帰ってしまい父親の顔は知らない。
・超能力を使って沈没船などのサルベージで莫大なお金を稼いでいる。
そんな彼らがある日偶然、沈没していた日本の戦艦「武蔵」を発見してしまいます。そして彼らはそれを宇宙船に改造して、居場所のない地球から脱出し、自分たちの父親がいるパラノア銀河帝国に行こうと計画を立てます。そうなんです、ムサシって地球を救うために、ではなく地球から逃げ出すための宇宙戦艦なんですよ。まず、そこにビックリです。

ビジュアル情報は本文中に無くこの表紙のみ。
作者は古屋勉さんという方で絵本などの絵を描かれておられるようです。
戦艦「武蔵」を改造した宇宙船を、こんなふうに描いてしまっては元も子もない気が・・・
まあ、さすがにヤマトそっくりのシルエットにするわけにもいかなかったでしょうけど。
あと関係ないですが背表紙の文字が微妙に歪んでいるのが気になります(笑)

◉なかなか飛び立たないムサシ

全212ページ中、3人が戦艦「武蔵」に邂逅するのは24ページ目。いったいいつになったら改造後のムサシの活躍が描かれるのかと、わくわくしながら読み進めていけども、一向に飛び立つ気配のないムサシ。それどころか改造作業すら終わらない。自分たちで武蔵を改造できない3人は、企業に大金を払って改造を依頼をしたのですが、パンテラがゆえに高額な代金をふっかけられ、足りなくなった資金を稼ぐためにイチかバチかの仕事に挑む羽目になったりします。途中、巨大な怪物タコとの遭遇戦や、深海での遭難未遂事故などの数々のアクシデントに見舞われながら、なんとか資金調達をしてムサシ改造を実現させるものの、それを横取りしたい地球人たちは、極秘にしていたムサシの情報を軍にリーク。連合艦隊が押し寄せて、威嚇攻撃を加えてムサシを明け渡すよう主人公たちに迫ります。そこでようやくムサシが空に飛び立ちます。それが194ページ目! あと18ページしか無いのに!! 「え!これじゃ『ブルーノア』と同じじゃん」と思ったのは僕だけでしょうか。

◉確かにムサシは宇宙へと旅立ったけれど

そこから、迫りくる連合軍の大艦隊を壊滅状態に追い込んでいくクライマックスシーンになるのですが、これまたムサシの活躍でというわけではなかったりします。ムサシ起動のための時間稼ぎに戦闘機(スペース・ファイター)で出撃した主人公・猛くんは、特攻状態で敵艦隊の第1陣を壊滅させてしまいます。大爆発に巻き込まれたと思われた猛くんですが、実際は自身が持つテレポート能力を駆使して生き延び、増援で到着した第2陣の敵艦内にテレポート。そこから次々と敵艦へテレポートを繰り返して内部から爆破工作をしかけ、ついには壊滅させてしまうのでした。猛くん凄すぎです。ムサシ要らないですね。結局、ムサシは武器を使うことなく、3人は大気圏を離脱して本当の故郷であるパラノア銀河に向けて出発するのです。物語はここでおしまいです。おおむね100名を乗せてイスカンダルに出発したヤマトに対して、ムサシはAIに任せて乗員3名で出発というのも凄いです。いろんな意味で『ブルーノア』よりも衝撃的なエンディングでした(笑)

◉若桜木さんは続きを書きたかった

実は本書の表紙折り返しの<著者からのメッセージ>で、若桜木さんはこんなふうに書かれています。

「戦艦ヤマト」が宇宙へとびたったのだから、それならば、「戦艦ムサシ」もとびたたせようという発想で、この作品を作りました。宇宙戦艦となったヤマトは、銀河帝国崩壊後、戦国時代となった宇宙に、裸一貫でとび出したわけです。ここでさまざまな危機に遭遇しながらも、次々と敵を倒していくといった設定で、ゆくゆくは、S・F版「大閣記」のようにしたいと考えております。

『宇宙戦艦ムサシ』著者からのメッセージより

たぶん2~3行目の「宇宙戦艦となったヤマトは」というのは「宇宙戦艦となったムサシは」の間違いだと思いますが、それはそれとして、その後にある「さまざまな危機に遭遇しながらも、次々と敵を倒していくといった設定で、ゆくゆくは、S・F版「大閣記」のようにしたいと考えております。」の一文からも察せらるように、若桜木さんとしては続編を書くおつもりだったのでしょう。実際、猛たち主人公が目指したパラノア銀河帝国は、本作中でクーデターによって崩壊してしまっており、主人公たちの父親に会いに行くという当初の目的も瓦解してしまっています。それよりも、パラノア主星に向かうまでの道中で、帝国の支配下から解放された存在とパラノアの血を引く主人公たちとのドラマを、若桜木さんは描きたかったのでしょう。それが実現していれば『宇宙戦艦ムサシ』もヤマトに匹敵するくらい人気作品に化けていたかもしれませんね。

ざっと調べたところ、1980年の本作発表以降、続編は出ていないようです。若桜木さん自身は御年77歳。著書も2012年以降出版が無いようなので、続編を期待するのは難しいのかもしれませんね。

ムサシは今、どのあたりを航海しているのでしょうか?


【余談】2015年(平成27年)3月に沈没した武蔵の艦体が発見されたのを機に、同じようにこの本の存在に気付いた河嶌太郎さんという方が、AERAdot.で記事にしておられました(笑) しかも記事掲載日が僕の誕生日♪

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