「海にもぐる」やさしくて芯のあるエッセイ集をよみました。
もらったものを返す、ということを意識的にしていこうと思っている。それは、プレゼントをもらったからお返しをする、というような物に限ったことではなくて、心がポカポカした、気持ちが整理された、読みおえた以降の時間がいつもより豊かになった、というような、目には見えないものまでを含むお返し。
「海にもぐる」は、あかしゆかさんのこれまでの人生経験と、その時々に生まれた思考たちを、31歳の自分というフィルターを通しながら、丁寧に、もぐって、向き合って、過去と今と未来を編んでいくような、そんなエッセイ集。
本を手に取ってはじめに感じたことは、
手におさめたときの心地よさ。
厚めの和紙のような、すこしざらりとした質感の表紙は、本を読むというアナログな体験への入り口にちょうどよく、手のひらに収まるサイズ感も、読むという行為へのハードルをスッとさげてくれるような気がした。なぜだか、くどうれいんさんの「わたしを空腹にしないほうがいい」を読み始めたときの感覚を思い出した。
海 に
もぐる
表紙にあるタイトル位置は、たくさんこだわったんだろうなと勝手に推測している。どのくらい表紙の絵にかぶせるのか、挿絵のどこにレイアウトするのか、どのくらい下の余白を残すのか、、、名前の字間は、、、自分だったらどういうバランスにするかなぁと本を開くまでに随分と眺めてしまった。
本を開いて感じたことは、
文字のポイント数のフィット感。最初はすこし小さく思えたけれど、この本のサイズと分量にはちょうどよく、読みやすく、個人的に好きでした。
読みおえて感じたことは、
海にもぐるような本だったなということ。タイトル通りじゃん!と自分でも思うけれど、きっともぐっては浮上して、もぐっては浮上して、ときには深く深くもぐったり、そこで何かを探したりしながら紡がれた言葉たちなんじゃないかと思う。
すくなくとも、山にのぼる、というタイトルではしっくりこなった。(「山にのぼる」というあかしゆかさんのエッセイも読んでみたいものだけれど。)
読みながら、いくつかの文章をメモにとっていた。
それぞれのエッセイから抜き出したものなので、文脈なく一文だけ存在していると、真意や意図からは離れてしまうのだけれど、
気になったということを記録するために書き出してみる。(ので気になった人には文脈の中でしっかり味わってほしい)
違った文脈だけれど、似たようなことを感じたことがあったので、なるほどこんなところからそこに!ああ、こんなにも深いところまでいけるんだ、、、と、思考が自分の体験にリンクしていって誰かと話したくなった。
文章を書こうとすると、すくなからず言葉というものに向き合うことになる。すると、言葉が本来もっている意味の広さに気づく。これは話していると中々気づくことができない。
・言葉は、僕らが使っている以上に多くの意味を含んでいる。
・似た言葉の間には、ささいな意味合いが落ちている。
・表裏の間には、ちょっとした隙間がある。
その言葉の広さや、似た言葉の間に落ちているもの、表裏の隙間みたいなものが、とても丁寧にすくわれていて、読んでいく中でそれらに出会うたびに、深いところへもぐっていく感覚があった。
それらを小難しく書くのではなくて、自分の経験と人生に寄り添わせながら、やさしいトーンで書かれているのも、深く深くもぐるための装備をもらっているみたいで心強かった。
エッセイを読んだというよりも、あかしさんの人生の朗読をきかせてもらっているような、そんな感覚になる「海にもぐる」でした。
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