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【小説】心臓の気持ち

私が死んだら、私の心臓を取り出して、海へと還してちょうだい。
そうしたら私は魚に生まれて、貴方の瞳の様な朝焼け色の尾鰭を持って、また貴方に会いに行くわ。

拝啓、私の心臓の持ち主。
貴方が願った通り、私は朝焼け色の尾鰭を持った魚として生まれました。
だけども、この不可思議な色のせいで、何時も何時も他の魚から遠巻きにされます。
貴方が愛したらしい、誰かの瞳の色。私はとてもじゃないけれど、好きだ、愛しいなんて気持ちにはなれません。嫌いです。
いえ、憎いです。
貴方のせいで私は独りぼっち。
私の身体には重りなんてもの、付いてない筈なのに、何時も尾鰭が重いのです。
こんなに自由な海なのに、なんで私はこんなにも不自由なのでしょう。
嗚呼、私の心臓の持ち主、貴方が望んだ尾鰭はこんなものでしかないのです。
私は貴方の2本の脚が羨ましい。
大体人間と言うものは似た様な脚をしているのでしょう?
皆と同じだったら、独りにならずに済んだのでしょうか。

私はタコに願って、炭を分けて貰い、尾鰭に刷り込んで、朝焼け色を夜色に染めた。
それから、私の事を誰も知らない海へ行った。
初めて友と呼べる魚が出来た。
番になりたいと思える魚も出来た。
私は幸せ。幸せな筈。
けれど、何故?何時も私の心臓が軋んだ音をたてるの。

拝啓、私の心臓の過去の持ち主。
私の尾鰭の色が変わりました。
タコの炭の夜でも無い、朝焼けの橙でも無い、私の、私だけの色、夜明けの色の薄紫。
皆綺麗と言ってくれた。
皆気味悪いと言っていた。
私は今、沢山の人に囲まれて、毎日幸せです。

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