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【小説】16歳

16歳の誕生日は特別な日。
夜明け前の一等暗い空を断ち切った布で作った服と、朝焼けを閉じ込めたブローチを身につけて。
踊りましょう。歌いましょう。楽しい貴方の物語を。

カヌレは明後日16歳になる女の子です。
カヌレの住む国では、16歳から大人の仲間入り。神様から逃げ出して自由を掴んだ初めての人間と同じ年。
16歳までは神様の庇護下にいる事が許されましたが、これからはそうはいきません。
カヌレは少しの不安と、これから好きに大人として生きれるのだと言うワクワクする気持ちを隠そうとしません。

今日カヌレは夜明け前の空を断ち切りに、妖精の住む所へ所へ行きます。
明日は朝焼けを閉じ込めたブローチを作る為に、また別の妖精の住む所へ行きます。

夜になりました。
カヌレは暗い所を見る事が出来るように、瞼にスゥッとする、ハナハッカの蜜を塗ります。
すると、真っ暗だった景色が真昼の様にくっきり、はっきりと見えるようになりました。
カヌレはハサミの妖精の住む場所を目指して、ザクザク、草木を掻き分け進んで行きます。
昼間の内に妖精の住処までの道を予習していたので、迷わずに行く事が出来ました。
夜明けの3時間前、カヌレは妖精の家に辿り着きました。
ドアをパパラパッパッパラーのリズムでノックすると、妖精が1人出てきました。
薄緑色の透き通った羽が美しい妖精です。
妖精はカヌレが訪ねて来たことが大層嬉しい様で、キラキラと輝く星の欠片をハサミにふりかけています。
妖精はカヌレに夜明け前の一等暗い空が来るまで、家で寝ていったらどうかと提案しました。
しかしカヌレは断ります。この時妖精の提案に乗ると、これから先、眠らされたまま妖精と過ごす事になるのは分かりきった事だからです。
妖精は少し残念そうにしながらも、夜明け前の一等暗い空、星が多めの所をキラキラのハサミで、切り取ってくれました。
天鵞絨よりも絹よりも、もっと美しい布です。
カヌレは妖精にお礼を言って、どんぐりのビスケットを3枚渡すと家に帰りました。

母親に布を渡してドレスを作って貰います。
チャキチャキ、カタカタ……母がドレスを作ってる音を子守唄に少しうたた寝しました。

夜になりました。
カヌレは昨日と同じ様に瞼にハナハッカの蜜を塗り、ガラスの妖精の元を目指して歩き始めました。
夜明けの3時間前、カヌレは妖精の元へ辿り着きました。
ドアをパパラッパパラッパッパッラッのリズムでノックすると妖精が1人出てきました。
薄青色の透き通った羽が美しい妖精です。
妖精はカヌレが訪ねて来たことが大層嬉しい様で、ガラスの網にサラサラ輝く海の波の欠片をふりかけています。
妖精はカヌレに朝焼けが顔を出すまで、家で寝ていったらどうかと提案しました。
しかしカヌレは断ります。理由など明らかです。
妖精は少し残念そうにしながらも、朝焼けをガラスの網で捕まえて、石ガラスに詰めてくれました。
ガーネットよりもルビーよりも美しい紅いガラス玉です。
カヌレは妖精にお礼を言って、檸檬の蜂蜜が入った小瓶を渡し、家に帰りました。

父親にガラス玉を渡してブローチを作って貰います。
トロリ、ジュワァ……父がブローチを作ってくれている音を子守唄にカヌレは昼間いっぱい寝ました。

夜になりました。カヌレは1人マーメイドラインの夜空のドレスを身にまとい、金の蓮華があしらわれた朝焼けのブローチを胸に付け、広場まで歩き出しました。

広場に着くと、カヌレは私に祈りを捧げ始めました。
「神様、16年間私をずっと見てくれてありがとうございます。心優しい貴方に心より感謝致します。……神様から私が見えなくなっても、私は神様を愛しています。」
私はあまりのことに涙を零した。
美しく着飾ったカヌレを私の涙が濡らしていきます。
カヌレはしょうがないなぁ、と言うかの様に笑っているのでしょう。
私にはカヌレの姿が見えずらくなっていました。
それが涙のせいなのか、時が迫っているせいなのかは分かりません。
カヌレは踊りだします。たららった、たららった。
歌い出します。るーるりーり、るーるりーり。
朝が来ました。
最後に私が見たカヌレは、笑顔で朝焼けを浴びながら踊り歌う姿でした。

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