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【小説?】洗濯機前線

ごうんごうん
音がする
ごうんごうん
空っぽの音
ごうんごうん
回る回る空っぽの洗濯機
意味もなく
理由も無く
ごうんごうん
回る回る

僕の耳の奥、頭の底、脳みその裏側では、いつもごうんごうん音がする。
今日は雨降り。こういう日は特に酷い。
気を紛らわせたくて雨の中に飛び出した。
しとしとざざざ、雨が降る。
しとしとぴっちゃん、雨が降る。

公園の紫陽花さん。何か言ってる。どうしたの。
「来ないで。登らないで。何処かに行って。」
カタツムリ君に言ってるみたい。
分かる。粘着質な彼氏は嫌だよね。
って違う。そうじゃない。
僕の記憶が正しければ、紫陽花さんとカタツムリ君は仲が良かったはずなのだが。
紫陽花さんに聞いてみる。
「このノロマ、私の腕に大軍でやって来たの。重いったらないわ。」
紫陽花さんは華奢だから、それは辛いだろう。
「テラテラテラテラ、動き回るせいで、私の身体が油膜で覆った様になるの」
紫陽花さんは綺麗好きだから、それは辛いだろう。
カタツムリ君を見つめてみる。
くるりくるり、回る回る。
僕の目が、身体が回る回る。
僕はカタツムリ君から無理やり目を離した。
紫陽花さんからカタツムリ君を取ってやる。
「ありがとう。助かったわ。けど、テラテラはどうにもならないわね。」

僕は紫陽花さんを摘み取って、頭の中の空っぽの洗濯機の中に入れた。
そして回す。

ごうんごうん
回る回る紫陽花入りの洗濯機
意味はあるのか
理由はあるのか
ごうんごうん
回る回る

紫陽花さんのテラテラは取れ、すっかり綺麗になったが、ガクの色が落ちて真白になってしまった。
色と共に気力が失せた紫陽花さんは、今日も僕の部屋にいる。

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