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【小説】宇宙人と僕

今、僕の目の前には傷を負った宇宙人がいる。
宇宙人と言っても、彼女は日本の外から来た女の子だ。
彼女は言葉が通じないせいか、クラスの子達に虐められていた。

傷を負っている彼女の近くに行こうとするが、彼女は僕を警戒する様子を隠そうともしない。
口をイーッとして、ふすふすと、息を漏らしている。
僕はこりゃダメだ、と思い、たまたま!偶然!持っていた救急箱を、そこに置いて家へと帰った。

次の日、彼女が居た所に行くと、包帯を歪に巻いた彼女が居た。
僕は彼女を少し見つめると、驚かせ無いようにそっと声をかけてから、包帯を解き、巻き直した。
彼女はじっと僕を見ている。
僕は気にもとめず、家で作って来た卵粥をだし、彼女の目の前で1口食べた。
彼女は見ている。
僕は同じスプーンで同じ小鍋から卵粥を掬って、彼女の口元へとさしだす。
彼女は口をそっと開いて、卵粥を迎え入れた。
熱々の方が僕は好きだが、彼女が食べる時に驚かない様に、と冷ましてあるので熱いと言う事はないと思う。
彼女は気に入ったのか、次を願う様にまた口を開けたので、スプーンと小鍋を差し出したが、受け取る様子もなく、ただ、アー、と、間抜けな表情を晒している。
仕方がないので、僕はまたスプーンに卵粥を乗せて何度も彼女の口へと運んだ。

ある日、彼女の傷がすっかり治った頃。
彼女はいつの間にここの言葉を覚えたのか、「ありがとう。」と言った。
そうしてそのまま彼女は宇宙船らしきもの(後に車だと知った)に乗り、瞬き一つの間に日本の外へと帰っていった。

あれから十五年。
今、僕の隣には笑顔の宇宙人がいる。

この小説は私の【文芸部】と言うサークルの企画、【1文指定物語】で、健ぼよよんさんからの1文「今、僕の目の前には傷を負った宇宙人がいる。」を使って書いたものです。
宇宙人、つまりよく分からない人と言う事で外国の言葉の通じない女の子をモチーフに書かせて貰いました。
車も少ない時代のイメージなので、今よりも人種差別とかが酷かったと思います。
それでも、彼の優しさが彼女に通じたと信じて。
こんな所まで読んでいただきありがとうございました。

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