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千寿の小説まとめ

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私の書いた小説を纏めました。
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2020年6月の記事一覧

【小説】宇宙人と僕

今、僕の目の前には傷を負った宇宙人がいる。 宇宙人と言っても、彼女は日本の外から来た女の子だ。 彼女は言葉が通じないせいか、クラスの子達に虐められていた。 傷を負っている彼女の近くに行こうとするが、彼女は僕を警戒する様子を隠そうともしない。 口をイーッとして、ふすふすと、息を漏らしている。 僕はこりゃダメだ、と思い、たまたま!偶然!持っていた救急箱を、そこに置いて家へと帰った。 次の日、彼女が居た所に行くと、包帯を歪に巻いた彼女が居た。 僕は彼女を少し見つめると、驚かせ無

一反木綿の空

今は、外に出ずに出来る事が人気だ。 自分の為だけの1人喫茶擬きも、その内の一つである。 自分の為だからこだわって、映える雰囲気に料理を仕上げていく。 今日はお子様ランチをイメージした、爪楊枝の旗の立ったオムライスと、メロンクリームソーダ。 オムライスは、ごろごろチキンのケチャップライスの上に、ぽたんとした葉っぱの形の卵の座布団を置く。 メロンクリームソーダ、グラスに氷と、かき氷のメロンシロップ、ソーダ水を入れる。 バニラアイスを、丸くとる事が出来るスプーンで、掬って置く。こ

【小説】原稿用紙殺人事件

万年筆に青いインクを入れた。 まっさらな原稿用紙に、カリカリ、カリカリ、物語を書き込んで行く。 あんなに真っ白だったのに、しばらくすると真っ青になった。 元々紙の様に白かった顔が、私のせいで真っ青になったのだ。 なんて、人に例えてみたりして。 「あ。」 ポタリ、青いインクが落ちた。吸い取り紙で抑える事をすっかり忘れて、手で拭いとる。 インクがズッと伸びてしまった。 「嗚呼、これは原稿用紙殺人事件だな。」 被害者は原稿用紙。 加害者は万年筆。 被害者の原稿用紙さんは常日頃から

【小説】心臓の気持ち

私が死んだら、私の心臓を取り出して、海へと還してちょうだい。 そうしたら私は魚に生まれて、貴方の瞳の様な朝焼け色の尾鰭を持って、また貴方に会いに行くわ。 拝啓、私の心臓の持ち主。 貴方が願った通り、私は朝焼け色の尾鰭を持った魚として生まれました。 だけども、この不可思議な色のせいで、何時も何時も他の魚から遠巻きにされます。 貴方が愛したらしい、誰かの瞳の色。私はとてもじゃないけれど、好きだ、愛しいなんて気持ちにはなれません。嫌いです。 いえ、憎いです。 貴方のせいで私は独り

【小説?】洗濯機前線

ごうんごうん 音がする ごうんごうん 空っぽの音 ごうんごうん 回る回る空っぽの洗濯機 意味もなく 理由も無く ごうんごうん 回る回る 僕の耳の奥、頭の底、脳みその裏側では、いつもごうんごうん音がする。 今日は雨降り。こういう日は特に酷い。 気を紛らわせたくて雨の中に飛び出した。 しとしとざざざ、雨が降る。 しとしとぴっちゃん、雨が降る。 公園の紫陽花さん。何か言ってる。どうしたの。 「来ないで。登らないで。何処かに行って。」 カタツムリ君に言ってるみたい。 分かる。粘着

【小説】16歳

16歳の誕生日は特別な日。 夜明け前の一等暗い空を断ち切った布で作った服と、朝焼けを閉じ込めたブローチを身につけて。 踊りましょう。歌いましょう。楽しい貴方の物語を。 カヌレは明後日16歳になる女の子です。 カヌレの住む国では、16歳から大人の仲間入り。神様から逃げ出して自由を掴んだ初めての人間と同じ年。 16歳までは神様の庇護下にいる事が許されましたが、これからはそうはいきません。 カヌレは少しの不安と、これから好きに大人として生きれるのだと言うワクワクする気持ちを隠そう

【小説】螢石

ホタル石は螢石。 子供に手折られたホタルブクロの流した涙。 夏祭りの夜、人々の賑わいに負けじと星々が輝く空の下。 2人の男の子の兄弟がおじいさんと一緒に、サラサラ銀に煌めく川辺を歩いて行きます。 ここはポウメラと言う田舎町。星流祭からの帰り道です。 「まだもう少しお祭り見たかったよ、おじいちゃん!」 小さな方の男の子が言いました。 「でも、もう少し遅かったらホタルの群れが見れないかもしれないんだろ。ワガママ言うなよなー。」 少しだけ大きい方の男の子が言います。 おじいさん