VRChatのイベントを閉じました

VRC無言カラオケ大会というイベントをやっていました、青雪たい太と申します。
先月、6月22日の第10回をもちまして、イベントを休止という形で締めさせていただきました。
これからイベントを始めたりする方の参考になればと思い、Noteを書いています。

そもそも無言カラオケってなんぞ?

「カラオケっぽいパフォーマンスで盛り上がる、MV鑑賞会」です。
もともと考えていたことは以下こんな感じです。

・タイトルだけで「なんじゃそりゃ?」みたいなことをやってみたかった
・2023年初頭でイベントも少なく、無言勢の人に特化したイベントをやってみたかった
・「今まで付き合った彼女の名前だけで歌ってみたシリーズ」にインスピレーションを受けた

そして実際にやってみると、みんながそれぞれ選曲して流すDJイベントのようになり、思った以上に楽しいイベントになりました。
実際のカラオケと違って音痴も気にする必要もありませんし、中にはアバターギミックを仕込んで参加される方もいらっしゃったりと十人十色・多種多様なイベントとなりました。

イベントをやめる理由

自身の余裕が無くなってきた、というリアルの切実な事情が半分。
ガソリンスタンド勤務キツイ。筋肉痛キツイ。

残り半分は、法律関連での心配事があることです。
もともと著作権問題についてはかなり悩みながらイベントを続けていました。

「細かいことなんて気にすんな!」で済む程度の杞憂に過ぎないのかもしれません。
しかし、私自身細かいことを気にする性質で、どうしても気にしてしまいました。
車の来ない交差点でも歩行者信号を無視できないようなものです。

今後の自分の進路なども考えるとどうしても気になってしまい、イベントを閉める決断をするに至りました。

著作権とか、悩んだ法律関係

これは音楽に限った話ではありませんが、イベントに携わるものとして、切っても切り離せない問題が著作権です。
他イベント様まで言及しだしますと非常にややこしくなってしまう為、ここでは「VRC無言カラオケ大会」に限って言及させていただきます。
また、他イベント様に対して問題提起するものではありません。

さて前提として、「VRC無言カラオケ大会」ではYoutube動画(ごく稀にニコニコ動画)を、World内の動画プレイヤーで再生します。
そしてYoutubeやニコニコ動画は、著作権管理団体のJASRACと包括契約を結んでいます。

ここでまず問題となってくるのが、Youtubeの利用規約です。
利用規約にはこのように記載されています。

9. 本サービスを個人的、非営利的な用途以外でコンテンツを視聴するために利用すること(たとえば、不特定または多数の人のために、本サービスの動画を上映したり、音楽をストリーミングしたりすることはできません)。

Youtube利用規約;https://www.youtube.com/static?template=terms&hl=ja&gl=JP

この条項がネックとなっており、弁護士の方が考察されていたVRChat内で動画を視聴に関する法律を解説をした記事では「規約違反になる可能性がある」とされていました。

でも、無言カラオケというイベントはやってみたい。
そうして考えたのが、素人の私がイベントを開催するにあたって考えた屁理屈です。

World内の動画プレイヤーは、「youtube-dl」を使っている
≒個々のPCでYoutube動画をダウンロードして再生している

このyoutube-dlというものは、ざっくり言うと動画をダウンロードするためのプログラムです。
厳密には利用規約違反のダウンロードに該当する可能性もあり、実際に過去それで騒動になったこともあるものなのですが、DMCA(デジタルミレニアム著作権法:米国側の著作権法)に違反していない、ということで2024年現在も利用が可能になっているプログラムになります。

「俺のところ回線遅いからyoutube-dl使わないと動画見れない!これを停止するのは権利侵害だ!」と言う趣旨の記事をどこかで見た記憶があります。
そして一度利用不可にもなったにも関わらず、再度利用可能になり、Youtube側がこのyoutube-dlをプログラムで弾かず、今日も利用が可能と言うことは、少なくとも黙認されている……ということと勝手に思っています(真偽は知らない)

何が言いたいかというと
「VRChatのワールドの動画プレイヤーで動画を再生する行為は」
「DMCAに適法なプログラムを使用して」
「内部的には個々のPCで動画を再生して視聴している状態であり」
「Youtubeの利用規約の範囲内である」
……という屁理屈が主張できるのではないか。

つまり、法律的には一応問題無いんじゃね?ということです。

そもそもこの「個人的、非営利的な用途以外での利用」を禁止する条項は、たとえば会議室に人を集めてYoutubeを視聴するとか、個人が特定されない状況下での利用(=Youtube運営が利用者を把握できない利用方法)を防止するためのものなんじゃないか、と(法律素人なりに)考えており、DMCAに適合したyoutube-dlを利用したWorld内動画プレイヤーなら多分大丈夫なんじゃね?少なくとも賠償金とか大事にはならず、最悪ものすごく怒られる(=主催者の私に責が来る)なら、他の人にも迷惑はかからないだろう……と考えました。

とはいえ見かけ上は「不特定多数の人に対して上映している」状態です。
じゃぁこの見かけ上の状態を、現実世界と同じだと指摘されたらどうしよう、と考えたのが、次の「名目は大会」です

カラオケ「大会」なら著作権料は不要?

著作権法にはこのように記載されています。

公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

著作権法第38条一項

「現実世界においては」非営利目的であれば著作権料は不要で、音楽を流したりすることができますよ、という条項です。
JASRACのガイドラインでも、報酬などが発生しない非営利のカラオケ大会などでは自由に扱うことができるとされています。(※)

なお、この「非営利目的」というのもかなりややこしく、例えば店内BGMとして流したりする場合は「集客(=営利目的)」になったりします。
この辺りの問題は「カラオケ法理」とも呼ばれています。
実際にカラオケスナックで「店はカラオケ機を設置しているだけ、客は勝手にカラオケ機を使って歌っているだけ」という理屈で、カラオケの料金は徴収していないが、お酒や料理で間接的にお金儲けしてるという事例がありました……が、流石に裁判所にはその理屈も通用せず、最高裁で損害賠償を命じる判決が出されています。

閑話休題。私が注目したのはこの部分。

>報酬などが発生しない非営利のカラオケ大会などでは自由に扱うことができる

……はい、そうです。
見かけ上の状態を指摘(=現実世界と同じような解釈を)された場合の法解釈対策として、「大会」と銘打っておけば、怒られにくいんじゃないか……という気持ち程度のおまじないです。

こういう経緯で、イベント名は「VRC無言カラオケ大会」としていました。

※イベント企画時は「JASRACのライセンスの利用区分の一覧表」みたいなものでこの部分を見つけましたが、現在Note記事を書いている段階ではどのページだったか忘れてしまい見つけることができていません……。もしそのようなページをご存知の方がいらっしゃいましたらこっそり教えていただけますと幸いです。

最後に大事なのはリスペクト

ここまでイベント開催に関していろいろと屁理屈を重ねてきましたが、結局のところ、最後に大事なのは「作品・クリエイター様に対するリスペクト」です。

そもそもが著作権は親告罪なので、訴えることができるのは権利者様のみ、訴えられても証拠も足りないし、気にするほどじゃない……と言うのは簡単です。
が、現時点でのメタバースは発展途上であり、「想定されていない運用方法だから様子見している」に過ぎません。

同人文化が「黙認」と「リスペクト」で成り立っている様に、VRのメタバースも無法状態のやりたい放題を楽しむのではなく、「ある一線を守ってこそ」発展があると考えています。

VRC無言カラオケ大会における一線は「違法アバターの禁止」「非営利」。
そして「大規模にやらない(目立たない)」方針でした。

開催頻度が少なかったり。
スタッフを増やさなかったり。
ポスターを作らなかったり。

私自身が物臭な性格というのもありましたが、「こっそりやって問題にならない範囲で実績作って、メタバースの私たちはこんな楽しみ方もしているよ」という既成事実になればという思いでやっていました。

なお、大会では違法アップロード動画も禁止していましたが、そもそもが見分けるのが難しいため「指摘を受けた場合に、主宰である私の責任で、利用者に注意する」という方針をしていました。

それでも心労は絶えずありましたが、結果としては炎上などの大きな問題も起こることなく、イベントを一旦閉じることができたことに安堵しています。

ちなみに「違法アバターの禁止」の目的は言わずもがな、VRChatではよく問題として話題に上がる、リッピング(ぶっこ抜き)アバターの対策です。

後悔

これだけ書いておいてですが、最後の第10回が一番後悔が残るイベントとなってしまいました。

理由は許容範囲ギリギリの立ち振る舞いをされる方がいらっしゃった時に、強く注意することができなかったことにあります。
海外の方であまり日本語に馴染みが無いとのことでしたが、ならば尚のこと、他イベントで同様の立ち振る舞いをされる可能性も踏まえ、主催者として注意するべきでした。
不快だったという話ではなく、イベントに来ていただいた方皆様に対して申し訳なかったこと、そしてイベント当初から考え続けていた問題に対して、いざそれに直面した時に行動できなかったという点で強く後悔しています。

あと、イベントの進行に固執し、柔軟に行動できなかったことも悔やんでいます。
最後なのだから、イベントに来てくれた人ともっと交流しておけばよかった。
写真撮ったり、感謝の言葉を伝えたかった。
引きがちな自分の性格を悔いています。

感謝

後悔先立たず、後の祭りは続いています。
それでも尚、VRC無言カラオケ大会をご愛好くださった方には頭が下がる気持ちでいっぱいです。

思えば見切り発車もいいところで雑に始めて、毎回頭を悩ませながらも続けてきました。
右も左も分からないまま、参加者ゼロだったらどうしようと怯えていました。
参加者ゼロならまだしも、1人だけ来てお互い気まずいままで1時間過ごすことになったらどうしよう、とか……。

中ダレを感じ、主催者権限で時間を切り上げるアドリブをし、離脱の口実に使っていただけるようなタイミングを作ったこともありました。
ステージ側(?)で毎回盛り上げ役を担うのは心が折れそうになりました。

それでもイベントの最後に(無言ですが)お声いただけることがものすごく励みになり、一年もイベントを続けられたことに自分でもびっくりしています。

再び御礼申し上げます。本当にありがとうございました!


まぁそう言いつつも名目は休止なのでまた再開する可能性もあったりするんですけどね!

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