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白血病感染抄 Vol.3

白血病感染抄 Vol.3

臨床血液 2022年の1月号が届きました。

この表紙は! グロコット染色ではないかっ!

というわけで、今回はこの症例報告としましょう。

『慢性リンパ性白血病に対するibrutinib療法施行中に発症した播種性クリプトコックス症』

タイトルから見ましょうか。

ibrutinibによって侵襲性真菌感染症が起こることはよく知られています。ただ特に多いのはAspergillusかと思います。

cyptococcusでも感染を起こしますよという報告かと思いました。


では本文を見てみましょう。

CLLと診断された高齢女性が、これまでにR-Fluで治療をされてきましたが、再燃しibrutinibで治療が行われています。真菌予防は併用せずに治療を開始したようです。

Ibrutinib開始後100日ほどのところで血尿、頻尿を認め、LVFX内服開始。その2週間後に歩行困難、電解質異常、肝腎機能異常を認め、入院となっています。

入院3日後に血液培養と尿培養からcryptococcusが陽性となった時には、死亡されていました。


今回の報告のポイントは、播種性クリプトコッカスの非典型的な症状かと思います。CLLがあって、ibrutinib内服中の方の頻尿、血尿を甘く見てはいけないというのが大事なメッセージかと思いました。

近医が膀胱炎を疑ったのはよいとして、検査せずにLVFXを出しただけなのがまずかったのではないでしょうか。

この症例報告は、尿路症状で発症したcryptococcusなのですが、尿検査について全く言及されていません。

CT検査で隆起を伴う膀胱壁の肥厚を認め、腫瘍を疑ったとの事ですが、腫瘍らしさ、感染らしさを尿所見から考えることもできたのではないでしょうか。その辺りの検査結果も載せて欲しかったなと思います。

尿のグラム染色をすれば、丸い真菌や白血球が見えたかもしれません。

Discussion

さて、Discussionに移りますが、気になったポイントは2つです。

  1. Ibrutinib以前のフルダラビンによる免疫低下

  2. 好中球数や免疫グロブリン値、CD4リンパ球数を確認して真菌予防を検討すべきだった

まず1についてですが、フルダラビンの影響っていつまで残るのでしょうか。数年前のケモでまだ免疫が低い状態なのでしょうか。

日本で血液内科をしているのでCLLの治療経験はあまりないのですが、FCRで治療して1年経ってもまだまだ免疫は回復していないと感じることはありました。

Ysebaertらの報告1)ではFCRで治療後3年のNK細胞、CD4、CD8などの血球数を調べています。medianで見ますと、n=8ですがNKもCD4も基準値以下と低いままです。CD8はmedianは基準値内にあるものの、低いままの方もいます。

臨床データ2)を見ますと、FCR治療後grade3の感染症や日和見感染症の発症率は、治療後1年目で10%、2年目には4%に低下します。免疫が治療後すぐよりはやや改善し、発症率が下がってくるのでしょう。ただ6年目でも1%あり、帯状疱疹を起こしている症例があります。

FRCの細胞性免疫低下は3年以上続くことがあって、今回も数年前のフルダラビンの影響を受けている可能性があると納得できました。

2についてですが、血球数で免疫低下を測れるのでしょうか。つまり、私はCD4の数で細胞性免疫をみれるのは、基本はAIDSだけじゃないかと考えています。それをCLLのケモに当てはめていいのかという疑問です。
確かに数が減っていれば、正常より免疫は低い可能性が高そうですが、数が正常であれば免疫は正常と考えて良いのでしょうか。

T細胞は疲弊することがあり、数だけでなく機能も影響すると思っています。

また、基礎的な報告まで調べると、ibrutinibはB細胞だけでなく、T細胞、好中球、単球にも影響を与えるようです。

特に好中球の働きが落ちたとする論文は複数あります3)4)。
個人的には細胞性免疫低下だけにしては真菌感染のリスクが高いと感じていたので、好中球の機能も落ちるというのは納得がいきました。

そうするとCD4や好中球の数を測って、真菌予防をするかどうか決めるという戦略では失敗してしまいそうです。

血球数だけで考えるのではなく、Ibrutinib使用中の人は真菌感染リスクが高いことを理解して、感染症を疑ったときには真菌感染を鑑別に入れて対応することが必要と思います。

参考文献

1) Immune recovery after flu Dara one-cyclophosphamide-rituximab treatment in B-chronic lymphocytic leukemia: implication for maintenance immunotherapy. Leukemia 2010; 24: 1310-1316.

2) Long-term results of the fludarabine, cyclophosphamide, and rituximab regimen as initial therapy of chronic lymphocytic leukemia. Blood. 2008; 112: 975-80.

3) Ibrutinib induces multiple functional defects in the neutrophil response against Aspergillus fumigatus. Haematologica. 2020; 105: 478-489.

4) Ibrutinib-based therapy impaired neutrophils microbicidal activity in patients with chronic lymphocytic leukemia during the early phases of treatment. Leuk Res. 2019; 87: 106233.


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