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レベルアップとランクアップ - RPGゲームと冒険者ギルドから見る2つの違いとキャリア

1. きっかけ

 転職、就職サイトを覗くと、転職理由や就職理由にスキルや自分をレベルアップさせたいからという理由を見かける。この「レベルアップ」という言葉は転職、就職といった場面以外にも、英語や情報技術者といった資格取得や料理、裁縫、ガーデニングといったようなスキル、身なりや表情、見せ方といった自分に関係することまで様々なところで用いられる。一方、「ランクアップ」という言葉を見かけることは少ない。せいぜいゲームや商品といった何らかのランキングで、既にランクインしていたものの順位が上がったときにランクアップしたという使われ方をするぐらいだ。
 実は仕事の場面においても「レベルアップ」したという意味の言葉をよく聞く。例えば「あの仕事を終えてから一皮向けた」や「才能を開花させた」、「大躍進した」などである。一方でやはり「ランクアップ」したというような意味の言葉を聞いたことがない。やはり「ランクアップ」という言葉は職場とは無関係なのだろうか。実は、本来は無関係ではないはずだが、日本の職場では「ランクアップ」という存在が形骸化していることに気づいた。以下に職場におけるレベルアップ、ランクアップについて自分の思ったことを述べていく。

2. レベルアップとRPGゲーム

 まずレベルアップについて見てみる。レベルアップとは「水準が上がること。また、上げること。」とある。それで水準とは「事物の一定の標準。また、価値・能力などを定めるときの標準となる程度。」とある。言葉自体は難しいが簡単に説明するならば「あるものの価値や能力といったパラメータの平均的な値や基準が上がること」といえる。
 わかりやすい例を挙げるとするならば、昨今のRPGゲームがいい例だろう。レベルに応じて変動するステータスのパラメータとしてわかりやすいものは、おそらく耐えられるダメージを示した「体力またはヒットポイント(HPと呼ばれるもの)」、与えるダメージもしくはそれに関係するパラメータを示した「攻撃力」、受けるダメージを軽減させるパラメータを示した「防御力」と、ある一定のレベルに達した時に使用できるようになる「技、スキル」という技能だろう。これらを用いて具体的に説明すると、あるゲームのキャラクターのレベルが1でその時の体力、攻撃力、防御力がそれぞれ、10、1、1で使用可能な技、スキルは「技1」だけだったとする。そのキャラクターが特訓、模擬戦、実戦といった過程を経て、レベルが5になったとする。その時、レベルに応じて体力、攻撃力、防御力が15、6、6になり、技、スキルが「技1」だけでなく「技2」も覚えたとする。この時、体力、攻撃力、防御力というパラメータはレベル1の時から数値が5上がっており、1だった基準が6に上がっている。また技、スキルにおいても、「技2」の使用可能性が0%から100%という水準の上昇を起こしている。つまり、以前はできなかったことが少しでもできるようになったり、できる頻度が上がってもレベルアップしたといえるだろう。現実世界であれば、料理で10回中5回は焦がしたり、生焼けにしていた揚げ物が、10回中3、4回の頻度になったり、仕事においては会議内容をメモに記録する際、記録できた内容が20%だったものが50%になったなどいろいろ考えつくだろう。むしろ現実世界では決まった数値よりも、頻度や程度の方でレベルを判断することが多いと思う。実際、数値でレベルを判断できるのは運動、スポーツにおける肺活量等の体力的数値やマラソン等競技の記録か記述、実技試験で低い点だったものが高い点を取れるようになるといった場合などではないだろうか。

3. ランクアップと冒険者ギルド

 ここからはランクアップについて説明する。ランクアップの意味は「順位・等級などが上がること。」、ただこれだけである。この意味だけだと、やはり何かのランキングがあってその順位が上がるしか具体例が見つからない。そこで、このランクアップの説明に「冒険者ギルド」なるものを使用する。
 今私が使用している「冒険者ギルド」とは、「小説家になろう - みんなのための小説投稿サイト」に載っている「異世界転生/転移」もしくは単に「異世界」というジャンル、キーワードで検索に引っかかる小説で頻繁に出てくる施設のことを指す。この冒険者ギルドと呼ばれる施設の主な機能は小説中の描写から「仕事の斡旋、もしくは仕事の依頼と完了報告受理、達成時の報酬を与えること」だと考えている。そして、冒険者ギルドが仕事の斡旋もしくは依頼する場面において、「冒険者ランク」もしくは単に「ランク」というものを確認して、それに見合った仕事と報酬を与える場面があり、この描写こそが、ランクアップというものを説明するのに重要になる。この「冒険者ランク」なるものはS、A、B、Cや金、銀、銅のように何段階かの等級が存在し、その等級によってできる仕事の内容と報酬が決まる。さらに、仕事をある一定数こなすか、昇級試験なるものを受けて合格することで等級が上がる。そして冒険者ランクが上がる度に、仕事の難易度と報酬が上がるのである。このように冒険者「ランク」というものは、仕事の難易度、報酬が設定された等級といえる。そして、ランクアップとは等級を上げることによる仕事の難易度上昇、報酬の増加という、新たな意味を見出すことができる。

4. 企業、仕事におけるランクアップ

 実は「等級を上げることによる仕事の難易度上昇、報酬の増加」という考え方、仕組みは現実でも存在する。それは昇進キャリアアップである。昇進は日本ではお馴染みの課長から部長、副社長から社長といった等級の上昇である。そしてキャリアアップについて、日本ではそもそもキャリアという文化、考え方がなかったせいか日本語の検索では、キャリア自体のわかりやすい意味がなかったので英語検索の結果からキャリアの意味について引用すると、"a job for which you are trained and in which it is possible to advance during your working life, so that you get greater responsibility and earn more money"、翻訳するなら「より大きな仕事と多くのお金を得るために、自身が特訓(勉強)し、仕事に関係する人生の一部分において向上可能な職」という意味だと思う("responsibility"について「仕事」と訳したが、これは"responsibility"という意味が"something that it is your job or duty to deal with"とのことで、外国では仕事の範囲や内容、義務や責任といった内容が明確になっている労働契約やジョブスクリプションの文化が根付いていることから、「仕事」と訳した。また"working life"はワークライフバランスにおける「ワーク」の部分であると考えている)。そして、キャリアアップとは、「キャリアというなんらかの向上可能な職の等級が上がること」になるので、やはり昇進に似た意味になるだろう。ところが日本でいう昇進とキャリアアップは異なる。なぜなら日本では、昇進とは「実務を担う職から管理職へ、管理職からさらなる管理職へ変化すること」に対し、ここでいうキャリアアップとは「実務を担う職からさらなる実務を担う職へ、管理職はさらなる管理職へ変化すること」と中身が、いや昇格、昇給システムが異なるからである。

5. 昇進、キャリアアップの違い、そして現状

 昇進、キャリアアップは責務の増大と賃金の上昇という「責任」と「賃金」の2つが大きくなったり、増えたりするという意味では同じである。しかし、昇進、キャリアアップでは過程が全然違うことにお気づきになったであろうか。
 まずわかりやすいキャリアアップについて、これは至ってシンプルで、営業なら新人営業マンから仕事をたくさん確保できる営業マン、設計ならシステムの一部の設計担当からシステム全体の設計担当、プログラマーなら簡単で小規模なシステム担当のプログラマーから複雑で大規模なシステム、複雑なシステム担当のプログラマー、マネージャー(管理職)ならプロジェクトマネージャーから企業のマネージャー、即ち課長や部長といった役職になるということである。キャリアアップの評価基準になるのは、いかに効率よく働くのかという「パフォーマンス」と新しい、もしくは困難な問題を対処するために必要な深い「専門性」が重要になってくる。そして、より給料のいい企業へ転職を行う。そのためアメリカでは、転職回数が5~8回、その中でも3~4種類程度は異業種で仕事を行うらしい(参考資料"WHAT IT'S LIKE TO HAVE A CAREER IN JAPAN, IT'S GOOD KNOW WHAT YOU'RE GETTING INTO, FEBRU-ARY 2, 2012 • 746 WORDS WRITT-EN BY VIET HOANG • ART BY AYA FRANCIS-CO")。
 一方「昇進」について、一般社員、主任、係長、課長、部長、さらには役員、社長といった順番に役職が変わることである(役職の参考にさせていただいたところ「昇格・昇進・昇任・昇給・降格の違い」)。上記中で唯一、一般社員だけが実務を行い、主任あたりから管理職としての仕事が増えていき、場合によっては「プレイングマネージャー」と言われるような実務も管理も両方行うような役職の人が出現する。そして、昇進に必要な評価の基準は、勤続何年目かという「年功序列」制度、職務遂行能力、即ち業務ができるかどうかという「職能資格」制度、そして昇進対象者は昇進を行う企業の社員であるという「内部昇進」で構成されている。そのため、キャリアパスでは評価の基準になった「パフォーマンス」、「専門性」といったものが評価されず、転職したら勤続年数が0年になって評価が落ち、ポストにふさわしい人がいないにもかかわらず、他社から有用な人をスカウトして、役職に当てないのも上記制度が原因と考えている。
 ところが現在の日本では、年功序列制度の崩壊、職能資格制度の形骸化、そして、ポスト不足によって「昇進」というランクアップ制度が崩れてしまったのである。年功序列の崩壊はバブル崩壊から現在まで行われている40代、50代社員の実質解雇である。そのため、いくら勤続が長くても解雇されるという勤続年数が評価につながらない状態が出現した。そして2009年ぐらいから深刻化し始めたポスト不足(リクルートマネージメントソリューションズのポスト不足に関する労働者の労働意欲低下に関する調査をしたのが2009年だったことから判断、「見通し不全型と意欲喪失型のキャリア停滞、昇進見込みの低さがキャリアの停滞感や意欲低下に及ぼす影響、2010年10月27日」)。そして、ポスト不足によって、いくら業務をこなしても評価がポストという形で反映できない状態になったために、職能資格制度が形骸化し、昇進制度はほぼ意味のないものになってしまったのだと思う。そのため、日本の職場環境ではランクアップという言葉は馴染みがないのかもしれない。

最後に

 我々労働者はやれAIだ、やれRPA自動化だ、やれ仕事の効率化だと様々なところから、多様な圧力をかけられている。ところが今まで述べてきたように、仕事でやってきたことが評価され、それが昇進という形で反映される企業が減った。一方で、転職したら給与が上がったり、新卒でも特定の条件を満たせば高い給与をもらえるという機会が出現したり、副業等別の手段でもって評価、報酬をもらうといった事例が増えてきたのは、新しい評価基準のもと、新しい昇進、いや、キャリアという形を模索し、実現するフェーズに直面しているのではないだろうか。
 日本の職場では馴染みのない「ランクアップ」という言葉だが、異世界転生ジャンルの小説のように、自分をレベルアップさせ、新しいこと、難しいことに挑戦し、その成果を評価されてさらなる高みへ、そんなことができる「冒険者ギルド」のような存在を欲しているのかもしれない。

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